今回は次期フィットについての解説を記載したいと考えておりましたが、先行してホンダ次世代のe:HEVシステムの技術的な解説に重点をあてた記事構成に致しました。ホンダの開発する次世代エンジンへの拘りを詳細解説として掲載いたします。

1. はじめに
ホンダ次期フィットの注目ポイント
ホンダのコンパクトカーの代表格であるフィットが、2025年または2026年に5代目として生まれ変わります。新型フィットの最大の注目ポイントは、次世代e:HEVシステムの搭載です。このシステムは、単なるハイブリッドシステムの進化を超えて、ドライビングプレジャーと環境性能を両立させた、まさに「運転する楽しさ」を追求したパワートレーンです。
初代フィットが2001年に登場して以来、このモデルは常に時代の先端を走り続けてきました。広々とした室内空間と優れた燃費性能で多くのユーザーに愛され続けてきたフィットですが、次期モデルでは技術革新により、これまでの概念を大きく変える進化を遂げようとしています。
特に注目すべきは、トヨタ・ヤリスやスズキ・スイフトといった競合車種に対して、技術力と環境性能で圧倒的な差をつけることを目指している点です。日本の自動車業界において、コンパクトカーセグメントは激戦区となっており、そこでホンダがどのような独自性を発揮するのかが大きな焦点となっています
次世代e:HEVシステムとは何か

次世代e:HEVシステムは、ホンダが2020年代中盤のEV移行期において、引き続き高い需要が見込まれるハイブリッド車に対して投入する、革新的なハイブリッドテクノロジーです。従来のe:HEVシステムをベースとしながらも、エンジン、モーター、バッテリー、制御システムのすべてを根本から見直し、より高度な統合制御を実現しています。
このシステムの最大の特徴は、単に燃費を向上させるだけでなく、ドライバーの操作に対するレスポンス性を飛躍的に向上させることで、ハイブリッド車でありながらスポーティな走りを実現している点です。これは、ホンダが長年培ってきた「人とクルマの一体感」を、電動化時代においても継承していくという強い意志の表れでもあります。
さらに、このシステムは2050年のカーボンニュートラル達成に向けたホンダの戦略的な位置づけも担っており、EVへの完全移行までの過渡期において、最高レベルの環境性能を提供するミッションも背負っています。
2. 次世代e:HEVシステムの主な特徴
3つの走行モード(EVドライブ、ハイブリッドドライブ、エンジンドライブ)の自動切替
次世代e:HEVシステムの核心となるのが、3つの走行モードのシームレスな自動切替機能です。この技術は、従来のハイブリッドシステムが持つ「モード切替時の違和感」を完全に排除し、ドライバーが意識することなく最適な走行状態を維持します。
EVドライブモードでは、バッテリーに蓄えられた電力のみでモーターを駆動し、完全にゼロエミッションでの走行を実現します。特に市街地走行や低速域での使用において、その静粛性と滑らかな加速感は、まさに高級車のそれを彷彿とさせます。従来モデルと比較して、EVドライブモードでの走行可能距離も大幅に延長されており、日常使用の大部分をEVモードでカバーできるように設計されています。
ハイブリッドドライブモードは、エンジンを発電機として使用しながらモーターで駆動する、いわばシリーズハイブリッドの形態です。この時、エンジンは最も効率の良い回転域で運転され、発電した電力でモーターを駆動します。このモードでは、エンジンの出力とモーターの特性を最適に組み合わせることで、力強い加速性能と優れた燃費性能を両立させています。
エンジンドライブモードは、ホンダ独自の技術であり、高速走行時にエンジンとクラッチを直結してタイヤを駆動します。この時、エンジンの動力が直接タイヤに伝達されるため、高速道路での巡航時においても高効率な走行を可能にしています。さらに、必要に応じてモーターがアシストすることで、追い越し時などの急加速も力強くサポートします。
これら3つのモードの切替は、運転状況、アクセル開度、車速、バッテリー残量など、数百のパラメータを瞬時に解析して最適化される、極めて高度な制御システムによって実現されています。
新開発1.5L直噴アトキンソンサイクルエンジンの採用
次世代e:HEVシステムには、新開発の1.5L直噴アトキンソンサイクルエンジンが搭載されます。このエンジンは、従来のエンジンとは根本的に異なる設計思想で開発されており、ハイブリッドシステム専用に最適化されています。
アトキンソンサイクルエンジンの採用により、膨張比を圧縮比よりも大きく設定することで、理論熱効率を大幅に向上させています。これにより、従来のエンジンでは実現不可能だった高効率領域での運転が可能になり、燃費性能の飛躍的な向上を実現しています。
直噴技術との組み合わせにより、燃料の噴射タイミングと量を精密に制御することで、完全燃焼を促進し、排出ガスのクリーン化も同時に実現しています。さらに、吸気・排気バルブのタイミングを可変制御するVTECシステムとの連携により、あらゆる運転条件において最適な燃焼状態を維持します。
このエンジンは、単体での最高出力よりも、モーターとの協調制御による総合的なパフォーマンスを重視した設計となっており、システム全体として見た時の効率性と応答性を最大化しています。
エネルギーマネジメント制御の進化と静粛性・燃費向上
次世代e:HEVシステムでは、エネルギーマネジメント制御が革新的に進化しています。この制御システムは、AIを活用した学習機能により、個々のドライバーの運転パターンを学習し、最適なエネルギー配分を自動的に調整します。
具体的には、普段の走行ルートや運転習慣を学習し、どの区間でEVモードを使用し、どこでエンジンを効率的に使用するべきかを予測します。例えば、毎日の通勤ルートで信号の多い市街地区間ではEVモードを多用し、高速道路区間ではエンジンドライブモードを活用するといった、きめ細かな制御を自動的に行います。
静粛性の向上については、エンジンの振動・騒音を大幅に低減する新しいマウントシステムと、モーター制御の高精度化により実現されています。特に、モーターの制御周波数を人間の可聴域外に設定することで、従来のハイブリッド車特有の高周波音を完全に排除しています。
燃費向上については、従来モデルと比較して10%以上の改善を実現しており、これは主にエンジンの熱効率向上、モーターの効率化、そして制御システムの最適化によるものです。特に、回生エネルギーの回収効率を向上させることで、減速時のエネルギー損失を最小限に抑制しています。
Honda S+ Shift搭載による新しい走行体験
2024年12月に世界初公開された「Honda S+ Shift」は、次世代e:HEVシステムの最大の特徴であり、ハイブリッド車の概念を根本から変える革新的な技術です。この技術は、エンジンとモーターの制御を統合し、ドライバーの操作に対するレスポンス性を劇的に向上させます。
従来のハイブリッドシステムでは、エンジンとモーターが独立して制御されていたため、ドライバーの操作に対するレスポンスにわずかな遅れが生じていました。Honda S+ Shiftでは、ドライバーのアクセル操作を瞬時に解析し、エンジンとモーターの出力を最適にブレンドすることで、まるで大排気量のNAエンジンのような自然で力強いレスポンスを実現しています。
この技術の核心は、全車速域において運転状況や走行環境に応じた変速(アップシフト、ダウンシフト)を実施する点にあります。シフトホールドスイッチとの連携により、ドライバーが意図する走行フィールを正確に実現し、まさに「人とクルマの一体感」を体現しています。
さらに、Honda S+ Shiftは学習機能も搭載しており、ドライバーの運転スタイルに合わせて制御特性を自動調整します。スポーティな走行を好むドライバーには、よりダイレクトで俊敏なレスポンスを提供し、燃費重視のドライバーには、より効率的な制御を行うといった、パーソナライズされた走行体験を実現します。
電動AWDユニットによる走破性・安定性の向上
次世代e:HEVシステムでは、電動AWDユニットの採用により、従来のフィットでは考えられなかった走破性と安定性を実現しています。この電動AWDシステムは、フロントをエンジンとモーターで駆動し、リアを独立したモーターで駆動するデュアルモーター方式を採用しています。
従来の機械式AWDシステムと比較して、電動AWDは瞬時に前後のトルク配分を調整できるため、路面状況や走行条件に応じて最適なトラクションを発生させることが可能です。雪道や雨天時の滑りやすい路面では、リアモーターが瞬時にトルクを補助し、安定した走行を維持します。
さらに、コーナリング時には内輪と外輪のトルク差を電子制御により最適化することで、車両の挙動を安定させ、ドライバーの意図通りのライン取りを可能にします。これにより、コンパクトカーでありながら、まるでスポーツカーのような正確なハンドリングを実現しています。
電動AWDシステムは、燃費性能にも大きく貢献しています。必要な時にのみリアモーターを駆動し、通常の走行時には2WDとして効率的に走行することで、AWDの安心感と2WDの燃費性能を両立させています。
3. 現行モデルとの違い・進化ポイント
10%以上の燃費向上
次世代e:HEVシステムを搭載した新型フィットは、現行モデルと比較して10%以上の燃費向上を実現しています。この劇的な改善は、単一の技術によるものではなく、システム全体の包括的な最適化によって達成されています。
まず、新開発の1.5L直噴アトキンソンサイクルエンジンは、従来エンジンと比較して熱効率を5%向上させています。これは、燃焼室の形状最適化、吸排気ポートの流動解析による改良、そして燃料噴射システムの高精度化によるものです。
モーターシステムにおいても、永久磁石の材質改良と制御回路の最適化により、モーター効率を3%向上させています。特に、レアアースの使用量を削減しながらも磁力を強化する新しい磁石設計により、コスト削減と性能向上を同時に実現しています。
さらに、回生エネルギーの回収効率を向上させることで、減速時のエネルギー損失を大幅に削減しています。新しい制御システムにより、従来は回収できなかった微細な減速エネルギーも効率的に電力に変換し、バッテリーに蓄積します。
これらの改善により、WLTCモードでの燃費は現行モデルの約29km/Lから32km/L以上への向上が見込まれており、実用燃費においても大幅な改善が期待されています。
モーター・バッテリー・冷却システムの刷新
次世代e:HEVシステムでは、モーター、バッテリー、冷却システムのすべてが根本から刷新されています。これらの改良により、システム全体の効率性、耐久性、そして信頼性が大幅に向上しています。
モーターシステムでは、新開発のIPMモーター(Interior Permanent Magnet Motor)を採用し、従来モーターと比較して出力密度を20%向上させています。このモーターは、永久磁石を回転子内部に埋め込むことで、高回転域でも安定した出力を発生させることが可能です。さらに、銅損失を削減する新しい巻線技術により、モーター効率を向上させています。
バッテリーシステムでは、新しいリチウムイオン電池セルを採用し、エネルギー密度を15%向上させながら、充放電効率も改善しています。バッテリーの冷却システムも強化され、温度管理の精度向上により、バッテリーの劣化を抑制し、長期間にわたって安定した性能を維持します。
冷却システムでは、エンジン、モーター、バッテリーそれぞれに最適化された冷却回路を設計し、システム全体の熱管理を高度化しています。特に、電動ウォーターポンプと電子制御サーモスタットの組み合わせにより、各コンポーネントの温度を最適範囲に維持し、システム効率を最大化しています。
これらの刷新により、システム全体の信頼性が向上し、メンテナンスフリーの期間も延長されています。
走行性能と環境性能の両立
次世代e:HEVシステムの最大の特徴は、走行性能と環境性能の完璧な両立です。従来のハイブリッドシステムでは、燃費性能を重視するあまり、ドライビングプレジャーが犠牲になることがありましたが、次世代システムでは、この相反する要求を高次元で統合しています。
走行性能の向上については、Honda S+ Shiftの採用により、アクセル操作に対するレスポンス性が飛躍的に向上しています。0-100km/h加速においても、従来モデルと比較して約1秒の短縮を実現し、コンパクトカーとは思えない力強い加速性能を発揮します。
特に、モーターの瞬時トルクとエンジンの高出力を最適にブレンドすることで、どの速度域においても余裕のある加速感を実現しています。高速道路での追い越し時や、山道でのヒルクライムにおいても、ドライバーが意図する加速を瞬時に実現します。
環境性能については、CO2排出量を現行モデルと比較して12%削減し、NOx排出量も大幅に低減しています。これは、燃焼効率の向上と排出ガス後処理システムの高度化によるものです。
さらに、騒音レベルも大幅に低減され、住宅街での早朝・深夜の走行においても、周囲への配慮を実現しています。
4. 競合車種との比較
他社ハイブリッドモデルとの違い
次世代e:HEVシステムを搭載した新型フィットは、競合するハイブリッドモデルに対して、複数の点で明確な差別化を実現しています。
トヨタ・ヤリスハイブリッドと比較した場合、最も大きな違いは走行フィールです。ヤリスハイブリッドが採用するTHSシステムは、優れた燃費性能を実現していますが、CVTのような変速感のない特性により、一部のドライバーには物足りなさを感じさせることがあります。
一方、Honda S+ Shiftを搭載した新型フィットは、従来のATのような変速感を電子制御により再現し、ドライバーの意図に沿った加速感を提供します。さらに、電動AWDの採用により、雪国などの厳しい気象条件下でも安定した走行性能を発揮します。
日産・ノートe-POWERとの比較では、システム構成の違いが顕著です。ノートe-POWERは、エンジンを発電専用に使用するシリーズハイブリッド方式を採用していますが、新型フィットの次世代e:HEVは、シリーズ・パラレル両方の特性を併せ持つ、より高度なシステムです。
これにより、市街地走行ではe-POWERの静粛性を、高速走行では直結駆動による効率性を実現し、あらゆる走行条件において最適な性能を発揮します。
スズキ・スイフトハイブリッドとの比較では、モーターの出力が大きく異なります。スイフトハイブリッドのモーターがエンジンアシスト的な役割に留まるのに対し、新型フィットのモーターは駆動の主役を担うことができる高出力設計となっています。
フィットならではのメリット
新型フィットが持つ独自のメリットは、コンパクトカーの実用性と先進的なハイブリッドシステムの完璧な融合にあります。
室内空間の優秀さは、フィットの伝統的な強みです。次世代e:HEVシステムの搭載により、バッテリーの配置を最適化し、従来モデルと同等以上の室内空間を確保しています。特に、リアシートの足元空間とラゲッジスペースの広さは、同クラスの競合車種を大きく上回ります。
ウルトラフレキシブルシートの採用により、シートアレンジの自由度も競合車種と比較して優れています。長尺物の積載や、大きな荷物の運搬においても、フィットの柔軟性は他車の追随を許しません。
価格競争力も重要なメリットです。次世代e:HEVシステムの高度な技術にも関わらず、価格設定は競合車種と同等レベルに抑えられており、コストパフォーマンスに優れています。
アフターサービスについても、ホンダの全国ディーラーネットワークによる充実したサポート体制が整っており、長期間にわたって安心して使用できます。
さらに、カスタマイズ性においても、豊富なアクセサリーとオプション設定により、ユーザーの多様なニーズに対応可能です。
5. まとめ・今後の展望
次世代e:HEVの今後の展開
次世代e:HEVシステムは、新型フィットを皮切りに、ホンダの幅広い車種への展開が予定されています。この技術は、ホンダの2050年カーボンニュートラル達成に向けた重要な戦略的技術であり、今後10年間のホンダのハイブリッド車戦略の核心を担います。
短期的には、2025年に発売予定の新型プレリュードへの搭載が決定しており、スポーツカーにおけるハイブリッドシステムの新たな可能性を示すことになります。Honda S+ Shiftの採用により、プレリュードは燃費性能と走行性能を高次元で両立したスポーツハイブリッドとして、新しいカテゴリーを確立する可能性があります。
中期的には、ヴェゼル、ステップワゴン、フリードなど、ホンダの主力車種への順次搭載が予定されています。特に、電動AWDシステムの採用により、これらの車種の走破性と安定性が大幅に向上し、日本の多様な道路環境に対応した車種展開が可能になります。
長期的には、商用車への展開も視野に入れており、配送車両やタクシーなどの業務用途においても、次世代e:HEVシステムの恩恵を受けられるようになる予定です。
フィット以外への搭載予定
次世代e:HEVシステムの技術は、フィットで培われたノウハウを基盤として、ホンダの全車種への展開が計画されています。
小型車セグメントでは、軽自動車を除く全モデルへの搭載が予定されており、N-BOXやN-WGNなどの軽自動車についても、専用の小型化されたe:HEVシステムの開発が進められています。
中型車セグメントでは、アコード、インサイト、CR-Vなどの主力車種への搭載により、それぞれの車種特性に合わせた最適化が行われます。特に、CR-Vについては、電動AWDシステムの採用により、本格的なSUVとしての走破性とハイブリッドシステムの燃費性能を両立させることが期待されています。
大型車・商用車セグメントでは、パイロット、リッジラインなどの大型車種への搭載も検討されており、これらの車種における燃費性能の大幅な向上が期待されています。
さらに、興味深い展開として、日産との協業による技術共有の可能性も報じられています。これが実現すれば、日産の車種にもホンダのe:HEV技術が搭載される可能性があり、両社の技術力の相乗効果による、さらなる技術革新が期待されます。
海外展開についても、北米、欧州、中国などの主要市場での展開が計画されており、グローバルスタンダードとしての地位確立を目指しています。特に、環境規制の厳しい欧州市場では、次世代e:HEVシステムの高い環境性能が大きな競争優位性を発揮することが期待されています。
次世代e:HEVシステムは、単なる技術革新を超えて、ホンダの未来を左右する戦略的技術として位置づけられています。この技術により、ホンダは電動化時代においても、「人とクルマの一体感」という企業理念を継承し、ドライバーに愛され続けるクルマづくりを実現していくことでしょう。
新型フィットの登場により、コンパクトカーの概念が大きく変わることは間違いありません。環境性能と走行性能の完璧な両立、そして手の届く価格での提供により、新型フィットは次世代のコンパクトカーのベンチマークとなる存在になることが期待されます。