大阪メトロの使用断念で物議。中国製EVバスの「安全性」と、日本が頼らざるを得ない裏事情【損失67億円の全真相】

EV

2026年5月現在、自動車業界やニュースを大きく賑わせているのが、大阪メトロによる「中国製EVバス190台の継続使用断念・契約解除」の報道です。万博の輸送役としても注目されたこの車両群は、相次ぐトラブルの末についに全台使用停止。販売会社のEVモーターズ・ジャパン(EVMJ)は2026年4月14日に民事再生法を申請し、大阪メトロは同期決算で67億円という巨額の特別損失を計上するという、前代未聞の事態に発展しました。

大阪市城東区の敷地に100台以上のバスがずらりと並ぶ様子は、SNSで「EVバスの墓場」と揶揄され、衝撃的な光景として拡散されています。

ネット上では「それ見たことか、中国製は危険だ」という感情的な声が目立ちますが、現場を知るプロの目線から見ると、この問題の本質は単に「中国製だから」という一言では片付けられません。そこには、日本の道路環境特有の過酷さと、日本が中国製に頼らざるを得なかった切実な裏事情が存在します。

今回は、カタログのスペック表には絶対に載らない「EVバスの安全と信頼のリアル」を、最前線の視点から徹底的に紐解いていきます。

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【事件の全貌】67億円が消えた——大阪メトロEVバス問題の経緯を完全整理

まずは今回の問題がどのような経緯を辿ったのか、時系列で整理しておきましょう。メディアごとに報道内容が断片的なため、全体像を把握している方は少ないと思います。

EVモーターズ・ジャパンとは何者か

今回の主役であるEVモーターズ・ジャパン(EVMJ)は、2019年に設立された比較的新しい会社です。「国内で製造組立を行う国産EVバス」を謳い、全国の自治体や交通事業者に300台以上を販売してきました。

しかし、その実態は「国産」とは程遠いものでした。EVMJは中国の新興バスメーカー3社に製造を委託し、自社ブランドとして販売していたに過ぎず、しかも中国の安全認証(3C認証)すら取得していないメーカーが製造した車体を並行輸入していたことが取材で判明しています。つまりEVMJは、いわゆる「ファブレスメーカー(工場を持たない販売専業メーカー)」であり、実際の製造品質管理を中国側に依存した構造でした。

2025年の大阪・関西万博では、会場内外のシャトルバスとして独占採用され、万博向けの150台に加えオンデマンドバス用の40台を合わせた計190台を大阪メトロが購入しました。2024年12月期には年売上高が約80億円に達するまでに急成長していましたが、その裏では品質と安全性への懸念が社内から既に噴出していたことが、後の取材で明らかになっています。

万博期間中から始まっていたトラブルの連鎖

問題は万博開幕直後から表面化し始めました。

  • 停車後に勝手に動き出すなどの不可解なトラブルが各地で報告
  • 2025年9月、超小型バスがハンドル操作が効かなくなり事故を起こす重大インシデントが発生
  • これを受け大阪メトロは全190台の運行を停止
  • 同年9月5日、国土交通省がEVMJに対して全納入車両の総点検を指示
  • 10月、国土交通省がEVMJへ立ち入り検査を実施
  • 11月28日、85台のリコールを届け出(ブレーキホースが車体に接触し磨耗するおそれ)
  • 国内317台のうち113台で不具合が発見される

総点検の結果は衝撃的でした。独自点検によって、車軸がずれないように支える重要な金属部品の破断が発見されたのです。「走る・曲がる・止まる」という車の根幹に関わる部品が壊れている——これは公共交通機関として絶対に許容できない一線でした。

決定的な「使用断念」と倒産、そして67億円の損失

2026年3月31日、大阪メトロは190台すべての使用停止を正式発表。「当社が求める安全性と長期的な安定性を確保できる方法・体制を確立することは困難」との声明を出し、万博後に計画していた路線バスや自動運転バスの実証実験への転用も完全に断念しました。

4月1日、大阪メトロはEVMJに契約解除の通知を送付。報道によれば、この文書には**「96億円の返還請求」**が盛り込まれた衝撃的な内容でした。

これがとどめとなり、EVMJは4月14日、東京地裁に民事再生法の適用を申請。負債総額は債権者約280名に対して約57億円(うち金融債務約53億円)に達しました。2025年12月期の最終損益は約49億円の赤字と、前期から急転直下の経営破綻です。

大阪メトロは2026年3月期の連結決算で、190台の減損処理として37億円、補助金返還引当金として30億円、計67億円の特別損失を計上。河井英明社長は決算会見で「じくじたる思いではあるが、車両を継続して使用することを経営判断として断念した」と述べました。EVバス事業担当役員の処分も検討されているといいます。

参考動画

万博でも活躍…中国製EVバスめぐり各地でトラブル続出

この記事で触れた大阪メトロの運行停止の経緯や、現場のスクールバス等で実際に起きたトラブルの生々しい映像、関係者の証言が詳細に取材されております。

【搭乗者の声①:停車時の挙動に恐怖を感じたケース】

「乗降中に車体がカクッと動いて肝を冷やした」 (40代・万博会場へのシャトルバスとして利用した会社員)

「万博の移動で楽しみにしていたEVバスに初めて乗った時のことです。停留所に止まって、乗客がゾロゾロと降りている最中に、突然車体が『カクッ』と前に不自然に動いたんです。運転手さんが慌ててブレーキを踏み直したような挙動で、降りようとしていた高齢の方がステップでよろけていました。 降りる際、運転席の方を見たら、運転手さんもどこか焦ったような、困惑した表情をしていたのがすごく印象に残っています。後からニュースで『停車後に勝手に動き出す不具合があった』と知り、あの時の違和感はこれだったのかとゾッとしました。いくら先進的でも、基本の『止まる』が怪しい乗り物には怖くて乗れません。」

【搭乗者の声②:足回りの異音とメカニカルトラブルの予兆】

「電気自動車なのに、下回りから嫌な金属音が響いていた」 (30代・通勤で路線バスとして利用した乗客)

「EVバスって静かなのが売りだと思っていたのですが、私が乗った車両は、交差点を曲がるたびに足元から『ゴトゴト』『ギシッ』という、何かが軋むような嫌な金属音が車内に響いていました。段差を乗り越えるときの衝撃もガツンとダイレクトに響く感じで、心なしか車体が少し左に傾いているような違和感すらありました。 その後、大阪メトロが『車軸を支える重要な金属部品が破断していた』という理由で全面運行停止を発表したのを見て、『あの異音は部品が壊れかけていたサインだったのでは』と合点がいきました。毎日使う生活の足だからこそ、目に見えない構造の頑丈さや、日本の道路に耐えられる耐久性を最優先にしてほしいです。」

自動車のプロとして言わせていただくと、乗客が体感できるほどの「異音」や「停車時の不自然な動き」が出ている時点で、足回りの設計や制御システムに致命的なエラーが起きている証拠です。大阪メトロが「一発アウト」で全車契約解除にしたのは、運行会社として当然の、そして賢明な判断だったと言えます。


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なぜ日本は中国製EVバスをこれほど導入していたのか?

今回の報道を見て、「なぜそもそも、そんなに中国製をたくさん買っていたの?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。実は、日本のバス業界には中国製に頼らざるを得ない「選択肢のなさ」という深刻な構造問題がありました。

国産ディーゼルバスの生産終了と電動化への急転換

日本の路線バスは今、岐路に立たされています。排ガス規制の強化やメーカーの撤退により、長年日本の地方交通を支えてきた国産のディーゼルバスが相次いで生産終了となりました。

各自治体やバス会社が「次の一手」として電動化(EV化)を迫られる中、いち早く大量生産体制を整え、圧倒的な低価格で日本市場に滑り込んできたのが中国メーカー、あるいは中国に製造を委託したEVMJのようなファブレスメーカーでした。

日本の路線バス市場において、中国BYD製EVバスはシェアの約7割を占めるとも言われており、国産が事実上空白だった時期には選択肢がほぼ中国製しかなかったというのが現実です。

EV補助金と「半額以下」のコスト差という強烈な引力

厳しい経営環境にある地方のバス会社にとって、国産車の登場を待つ余裕はありません。国や自治体からの手厚い「EV導入補助金(商用車等の電動化促進事業)」の後押しもあり、コストを国産車の1/2から2/3近くに抑えられる中国製EVバスは、地方交通を維持するためのまさに「救世主」として、国内累計500台を超える規模まで一気に普及していきました。

大阪メトロ自身も「導入時に国の補助金を活用する際、最も条件が合うのがEVMJだった」と購入理由を説明しており、**「補助金ありきで動いた選定プロセス」**が今回の問題の遠因となったとも指摘されています。

2023年には内部から上がっていた「品質・安全性への疑問」の声

さらに深刻なのは、2023年の時点でEVMJ社内から品質や安全性に対する疑問の声が上がっていたにもかかわらず、経営陣がその声に耳を傾けなかったことが取材で判明している点です。万博という巨大プロジェクトへの採用を急ぐあまり、品質管理よりも納期と販売数を優先したとみられます。これは単なる「中国製の問題」ではなく、日本の公共調達の構造的欠陥が生んだ問題でもあります。


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プロが教える「安全」と「信頼(耐久性)」の決定的な違い

私がディーラーの人間として、この記事で最もお伝えしたいのがここです。車における**「書類上の安全(保安基準)」と「現場での信頼(耐久性)」は全くの別物**であるということです。

「車検に通る」と「10年20万キロ走り続ける」は別次元の話

今回問題となった車両も、日本の公道を走るための「車検(新規検査)」には当然合格していました。しかし、現場の整備士やプロが求めるのは「検査に通るか」ではなく、「10年、20万キロを過酷な環境で毎日ノートラブルで走り続けられるか」という耐久性です。

関係者の証言では、「実測で問題があっても、書類上の計算が合っていればナンバーが取れてしまう」という、日本の検査体制の形骸化も指摘されています。コスト競争と短期間での市場投入を急ぐメーカーにとって、この「書類審査の隙間」は悪用できる余地が大きいのです。

中国の「広大な直線道路」と日本の「狭い坂道・ストップ&ゴー」

中国製EVの多くは、中国国内の広く平坦な直線道路や、比較的ゆったりとした環境をベースに設計されています。

一方で、日本の路線バスが置かれる環境はどうでしょうか。

  • 狭い坂道と急カーブが連続する山間部や都市部の路地
  • 無数の交差点での**激しい「ストップ&ゴー」**による部品への反復応力
  • 踏切や道路の継ぎ目による激しい段差と振動
  • 沿岸部における塩害による金属腐食
  • 積雪地帯での融雪剤(塩化カルシウム)による車体ダメージ

日本の道路環境は、世界的に見ても車への負荷がトップクラスに重いのです。特に路線バスは一般的な乗用車に比べて積載重量が大きく、同じ路線を一日何十往復も走り続けるという過酷さがあります。

日本の過酷な環境に対する「走り込み(テスト)」の圧倒的な不足と、金属パーツの強度設計の甘さが、今回の「車軸支持部品の破断」という最悪の形で露呈したと言えます。

「六価クロム」問題から繰り返される「不信感の歴史」

今回が初めてではありません。以前にもBYD製のバスにおいて、日本の自動車業界が自主規制している有害物質「六価クロム」が使用されていたことが発覚し、一時運行を見合わせる事態が起きています。これは海外の環境基準と、日本のより厳格な自主基準とのギャップが生んだ「不信感の第一歩」でした。

部品の強度不足、有害物質の混入、そして今回の走行安全性に関わる欠陥——問題のレイヤーは年々深刻化しています。「日本仕様への本気の適応」なき参入が、こうした問題を繰り返す根本原因です。


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待望の「国産EVバス」登場で風向きはどう変わる?

では、日本のEVバス市場は今後どうなっていくのでしょうか。ようやく、日本の巨人たちが本格的に動き出しています。

いすゞ「エルガEV」と日野「ブルーリボンZ EV」の本格始動

2024年5月、いすゞ自動車が満を持して発売したのが、日本初のBEV(バッテリー電気自動車)フルフラット路線バス**「エルガEV」**です。車内前方から後方まで段差のない「フルフラットフロア」を実現し、242kWhの大容量リチウムイオンバッテリーを搭載。航続距離は約360km(定速走行・国交省届出値)を誇ります。

さらに、2024年10月には日野自動車からも「ブルーリボンZ EV」が発売され、国産EVバスの選択肢が一気に広がりました。

万博でも阪急バス、南海バス、Osaka Metroの3社がエルガEVをシャトルバスとして運行。阪急バスの三田和司社長は「早くから海外製EVバスを運行してきたが、安心と信頼を担保する国産EVバスの登場を待ち望んでいた」と語っており、国産への回帰志向が業界全体に広がっています。

価格は中国製に比べて高額ですが、これまで日本の過酷な路線を何十年も支え続けてきた「車体設計のノウハウ」と、「全国の強固なディーラー整備網」という絶対的な安心感があります。今回の大阪メトロの件を受けて、多くのバス会社が「やっぱり高くても国産、あるいは信頼できるメーカーにしよう」と舵を切り直すのは確実です。

「完全な純国産」は存在しない——EVバッテリーのサプライチェーン問題

ただし、国産が出たからといって全てが解決するわけではありません。車の骨格や足回り、走行制御システムは日本基準の頑丈さで作れても、EVの心臓部である**バッテリー(リチウムイオン電池)**に関しては、依然として中国や韓国の世界大手サプライヤーのサプライチェーンに依存せざるを得ないという構造的な課題が残っています。

全固体電池など次世代技術の実用化が進めば状況は変わりますが、2026年現在、EVバスを「完全な純国産」と言い切れるメーカーは世界中に存在しない、というのが実態です。「どこが信頼できる部品を、どこで組み立てているか」というバリューチェーン全体の品質管理こそが、これからのEVバス選定の本質的な基準になるでしょう。

国際興業・阪急バスなど先行導入事業者が示す「未来のモデル」

エルガEV導入事業者では、いすゞの運行管理サービスとの連携による充電計画の最適化や、遠隔モニタリングによる予兆検知システムも活用されており、ハードウェアとしての車両品質に加え、ICTを活用した運行管理の高度化が国産EVバスの競争優位として確立されつつあります。

これは「車を売ったら終わり」ではなく、「走り続ける間ずっと安全を保証する」という、日本の自動車文化が育ててきた真摯なアフターサポート文化の現れでもあります。


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まとめ:45年のプロが思う「これからのEVバスに求められるもの」

EVシフトという大きな時代の流れ自体は止まらないでしょう。しかし、乗用車以上に「乗客の命」と「地域のインフラ」を背負う路線バスにおいて、安さや補助金、あるいは「先進的なイメージ」だけで導入を決める時代の危うさを、今回の大阪メトロのニュースはこれ以上ないほど鮮明に浮き彫りにしました。

67億円の損失。57億円の負債。96億円の返還請求。

これらの数字はすべて、「安全と耐久性の検証」を省いたコスト優先の意思決定が生んだ代償です。

自動車の基本は、いつの時代も「安全に、確実に目的地に届けること」。

日本の過酷な現場を熟知した国産メーカーの逆襲と、海外メーカーが日本の高い品質基準にどこまで本気で適応してくるか。45年、車を見続けてきた人間として、これからの「日本の足」の安全性が担保されることを切に願っています。


参考:EVモーターズ・ジャパン民事再生申請(2026年4月14日)、大阪メトロ2026年3月期決算発表(2026年5月14日)、国土交通省立入検査・リコール情報(2025年10月〜11月)をもとに作成