レクサスのグローバル基幹モデルである「ES」が、約7年ぶりとなる全面刷新を遂げ、8代目として世界初公開されました。この新型ESは、レクサスの電動化戦略における次世代の先陣を切るモデルであり、従来のESが持つ上質さを継承しつつ、BEV(バッテリーEV)とHEV(ハイブリッド車)を併せ持つ「マルチパスウェイ」戦略を具現化しています。
日本国内での発売は2026年春頃を予定しており、その革新的なデザイン、深化を遂げた走行性能、そして「おもてなしの心」を体現する最新技術は、高級セダンの概念をアップグレードするものとして、すでに業界内で大きな期待を集めています。
本記事では、新型ESが掲げるコンセプト「Experience Elegance and Electrified Sedan」の真髄を深く掘り下げ、他の追随を許さない圧倒的な情報量でその魅力の核心に迫ります。
レクサスESの歴史と進化:36年の系譜が紡ぐプレミアムセダンの物語

新型ESの革新性を語る前に、このモデルがどのような歴史を辿ってきたかを理解することが重要です。ESは1989年、レクサスブランドが北米市場で立ち上げられた当初からフラッグシップセダンLSとともに販売を開始し、静粛性と乗り心地、広い室内空間が世界中の多くのお客様に好評を得て、これまでに80以上の国や地域で販売されてきたレクサスの基幹モデルです。
初代ESは日本で販売されていた「トヨタ・カムリプロミネント」をベースに、細部をモディファイして北米市場で発売されました。当初からレクサスブランドを支える中核モデルとして位置づけられ、レクサスのラインアップ上ではISとともに4万ドル前後のミドルクラス(プレミアムDセグメント)を受け持つモデルとして、スポーティ志向のISと比較して、乗り心地や静粛性に重きを置いた設計がなされてきました。
特筆すべきは、ESがレクサスのセダンでは唯一の前輪駆動車であるという点です。この特性が、広い室内空間と優れたパッケージング効率を実現し、長年にわたってビジネスユースからプライベートまで幅広い顧客層に支持される要因となってきました。そして今、8代目となる新型ESは、この36年間の知見と技術の蓄積を結集し、電動化時代における新たな一歩を踏み出そうとしています。
I. 独自性を体現するデザインの革新と優雅なプロポーション
新型ESのデザインは、次世代BEVコンセプト「LF-ZC」から着想を得た表現に挑戦し、レクサスの新たなデザインを体現しています。デザインコンセプトに「Clean Tech x Elegance」を掲げ、機能的価値と情緒的価値を高次元で融合させた、シンプルでクリーンな世界観を創造しました。

エクステリア:挑発的な存在感を放つ新世代スピンドルボディ
エクステリアデザインは、「LF-ZC」のデザインテーマである「Provocative Simplicity」(挑発的な存在感と研ぎ澄まされたシンプルなデザイン)に着想を得ています。
セダンプロポーションの追求と大胆なサイジング
新型ESのボディサイズは、全長5,140mm、全幅1,920mm、全高1,555mm(HEV)~1,560mm(BEV)と、先代モデルより一回り拡大され、ホイールベースも2,950mmに延長されました。従来型より全長を165mm、ホイールベースを80mm延長したこの新しいパッケージングは、セダンとして最も美しく見えるプロポーションの両立を追求したものです。
特に、床下へのバッテリー搭載を考慮しながら、全長・全幅・全高のバランスを追求し、優れた乗降性にも寄与するデザインを実現しています。全長5メートルを超える堂々としたボディサイズは、プレミアムセダンとしての存在感を強調するとともに、後席の居住性向上に大きく貢献しています。
新世代のスピンドルボディと彫刻的造形
フロントは「LF-ZC」のデザイン思想に沿い、正面の造形に加え、フード面からバンパーコーナーまでを包括するエッジの効いたスピンドル形状を表現。低いノーズから始まるスピンドルボディとセダンらしい水平軸のフェンダーとの高低差により、大胆で低く構えた独創的な印象を与えます。
従来のスピンドルグリルという概念を脱却し、ボディ全体でスピンドル形状を表現する「スピンドルボディ」へと進化したこのデザインは、レクサスの新しいアイデンティティを明確に示しています。フロントマスクは、機能性を損なうことなく、彫刻的でありながらクリーンな印象を実現。空力性能と冷却性能を高次元でバランスさせた造形となっています。
ダイナミックなフォルムと空力性能の両立
サイドでは、平面立体嵌合により低重心なプロポーションと引き締まった印象を両立。トランクレスな印象を持たせる流麗なフォルム(ワンモーションシルエット)は、空力性能の向上にも寄与し、燃費・電費性能に貢献しています。
特にBEVモデルにおいては、空気抵抗の低減が航続距離に直結するため、デザインと空力性能の融合は極めて重要です。Cd値(空気抵抗係数)の最適化を図りつつ、セダンとしての美しいプロポーションを損なわない絶妙なバランスが追求されています。リヤへと流れるルーフラインは、視覚的な軽快感を演出するとともに、空気の流れをスムーズに整流する役割を果たしています。
新しいデザインアイコンの採用
ツインLシグネチャーランプ:次世代の新しいアイコンとして採用され、内向きのデイタイムランニングランプと外向きのターンランプを組み合わせることで、視覚的な機能性を高め、レクサスの独自性を向上させています。この革新的なランプデザインは、一目でレクサスと認識できる強力なアイデンティティを形成するとともに、夜間の視認性向上にも貢献しています。
リヤLシグネチャーランプ:一目でレクサスと認識できる新しいアイコンであり、発光ロゴと一体化した一文字のランプを特徴とします。これを車両外側の低い位置に配置することで、ボディの絞りを強調し、ワイドスタンスを表現しています。リヤビューにおける圧倒的な存在感と、ブランドアイデンティティの明確化を両立させた秀逸なデザインといえるでしょう。
ボディカラーの多様性と新色「SOU(蒼)」
ビジネスからプライベートまで対応する7色を設定。新色「SOU(蒼)」は、BEVのクリーンなイメージを表現するブルーエフェクトがハイライトに現れるソリッドライクカラーです。この新色は、電動化時代のレクサスが目指す持続可能な未来を象徴する色として開発され、光の当たり方によって表情を変える深みのある仕上がりが特徴です。その他のカラーバリエーションも、伝統的なブラックやホワイトから、モダンなグレー系まで、多様な顧客ニーズに応える充実したラインアップとなっています。
インテリア:開放感と上質さを融合した「リビングルーム」
室内空間の構築にあたり、セダンとしての優れたパッケージングが徹底的に追求されました。従来型より全長を165mm、ホイールベースを80mm延長し、広々とした室内空間を確保しています。
開放的なキャビンと視界の確保
着座位置を高く設定することで乗降性と見晴らしを確保。さらに、シートやトリムを薄型化し、ウィンドゥ枠下端を低くすることでガラス面積を大きくし、開放感を極限まで高めました。
この設計思想は、従来のセダンが持つ閉塞感を払拭し、SUVにも匹敵する視界の良さを実現しています。特にAピラーの細身化とフロントウィンドウの拡大により、斜め前方の視界が大幅に改善され、都市部での取り回しや駐車時の安心感が向上しています。また、サイドウィンドウの下端を低く設定することで、後席からの眺望も良好で、同乗者全員が快適に過ごせる空間が実現されています。
Tazuna Conceptの深化とコックピット
コックピットは、12.3インチの異形液晶メーターを採用し、メーターフードの高さを抑えることで、スムーズな視線移動とオープンな雰囲気を実現。特殊コーティングやスエード素材、光の演出により、レクサスのコックピット思想「Tazuna Concept」をより深化させています。
Tazuna(手綱)Conceptは、ドライバーが馬を操るように直感的にクルマを制御できるよう、すべての操作系をステアリング周辺に集約した設計思想です。新型ESでは、この思想をさらに推し進め、必要な情報が必要なタイミングで自然に目に入るよう、ディスプレイの配置や表示内容が最適化されています。
中央には大型のセンターディスプレイが配され、ナビゲーションやオーディオ、車両設定などをタッチ操作で直感的にコントロールできます。視線移動を最小限に抑えつつ、運転に集中できる環境が整えられており、長時間のドライブでも疲労を軽減する配慮が随所に見られます。
リビングのような後席空間とパーソナライズ
後席の快適性を最大限に高めるため、リクライニング機能、オットマン、さらに大腿部から背中までを押圧するエアブラダー内蔵のリラクゼーション機能を搭載したパッケージが設定されています。助手席にもオットマンやダブルモニターが設定可能です。
特に注目すべきは、後席専用のリラクゼーション機能です。これは航空機のビジネスクラスシートにも採用されるような高度な機能で、シート内蔵のエアブラダーが乗員の体型に合わせて最適な押圧を行い、長時間の移動でも疲れにくい環境を提供します。リクライニング角度も幅広く調整可能で、まさに自宅のリビングルームのようなくつろぎ空間が実現されています。
さらに、後席には独立した空調コントロールやUSB充電ポート、ワイヤレス充電機能なども装備され、ビジネスシーンでの活用はもちろん、プライベートでも快適に過ごせる配慮が行き届いています。オプションで設定可能なダブルモニターは、後席の乗員が独立してエンターテインメントを楽しむことができ、長距離移動の退屈さを解消します。
内装加飾と日本の美意識
バンブー(竹)をモチーフにした「Bamboo Layering」「Modern Bamboo」や、精緻な幾何学パターンの「Micro Geometric」など、シンプルでクリーンな世界観を際立たせる加飾を設定。インテリアカラーの新色「アオタケ」は、バンブーの色味をナチュラルに表現し、清楚感のあるイメージに仕上げています。
これらの加飾は、日本の伝統的な美意識である「わびさび」や「引き算の美学」を現代的に解釈したものです。過度な装飾を排し、素材そのものの美しさを引き出すことで、飽きの来ない上質な空間を創出しています。竹は日本文化において成長と繁栄の象徴であり、レクサスのサステナビリティへの取り組みとも呼応するモチーフ選択といえるでしょう。
本木目のウォールナットやアルミニウムの加飾パネルなども選択可能で、顧客の好みやライフスタイルに合わせたパーソナライズが可能です。照明演出も洗練されており、イルミネーションが室内の各所を柔らかく照らし、夜間のドライブに特別な雰囲気を添えます。
II. 走行性能の深化と電動化による新たなドライビング体験
新型ESは、ESの美点である優れた静粛性と乗り心地をさらに磨き上げるとともに、「Lexus Driving Signature」をより高い次元へと引き上げるため、車体構造と電動化技術を徹底的に鍛え上げました。走りのコンセプトは「Pleasant time for all seats」です。
徹底した体幹強化と操縦安定性の実現
専用プラットフォームの採用と剛性強化
HEVとBEVに対応可能とするため、専用開発し刷新したTNGAプラットフォーム(GA-K)を採用。フロントエンド、フロア、リヤエンドの剛性を強化する徹底した体幹強化により、ボディ振動を抑制し、クルマの大きさを感じさせない、ドライバーの意図に忠実で素直なステアリング応答性を実現しています。
新開発されたTNGAプラットフォーム(GA-K)は、従来のプラットフォームと比較して大幅に剛性が向上しています。特にBEVモデルでは、床下に搭載されるバッテリーパックが構造部材としても機能し、ボディ全体の剛性感をさらに高めています。これにより、不快な振動やノイズが大幅に低減され、路面からの入力に対しても安定した姿勢を保つことができます。
また、サスペンションマウント部の剛性も最適化され、路面からの衝撃を効率的に吸収しつつ、ステアリング操作に対する応答性を高めています。全長5メートルを超える大型セダンでありながら、まるで一回り小さなクルマのような軽快感と正確性を両立させているのは、この徹底した体幹強化の賜物です。
新サスペンションシステムの導入
フロントにはマクファーソンストラット式を採用。リヤには、路面への駆動力の確実な伝達とスムーズな車両姿勢変化の両立に寄与するマルチリンク式サスペンションをESとして初採用しました。
マルチリンク式リヤサスペンションの採用は、新型ESの走行性能向上における最も重要な進化点の一つです。従来のトーションビーム式と比較して、マルチリンクは各リンクが独立して動くため、路面追従性が格段に向上します。これにより、荒れた路面でも後輪がしっかりと接地し続け、安定した姿勢を保つことができます。
また、コーナリング時のロール制御も精密になり、後輪の動きをより細かく制御できるようになったことで、スポーティな走りと快適な乗り心地を高次元で両立させることが可能になりました。サスペンションジオメトリーも綿密に設計され、アライメント変化を最適化することで、タイヤの接地性を最大限に引き出しています。
Dynamic Rear Steering(DRS)の導入
Dynamic Rear Steering(DRS)を搭載し、車速に応じて後輪を最大4度転舵させることで、低速域では優れた回頭性(小回り性能)や取り回しの良さを、高速域では高い車両安定性を両立しています。
DRSシステムは、現代のプレミアムセダンにおいて必須の技術となりつつあります。低速域では後輪が前輪と逆位相に転舵することで、実質的なホイールベースが短くなり、最小回転半径が大幅に縮小されます。これにより、全長5メートルを超える大型セダンでありながら、狭い駐車場や路地での取り回しが驚くほど容易になります。
一方、高速域では後輪が前輪と同位相に転舵することで、車両全体が横方向に平行移動するような挙動となり、車線変更時の安定性が飛躍的に向上します。高速道路での合流やレーンチェンジがスムーズかつ安全に行えるだけでなく、緊急回避操作時にも車両の挙動が安定し、ドライバーの意図通りにクルマをコントロールできる安心感があります。
静粛性の追求と音響空間の創造
室内の快適性を高めるため、高遮音タイプのドアガラスとシール部材の改良、吸音材/遮音材/制振材の最適配置により、自然でバランスの取れた音響空間を提供します。
レクサスESが長年にわたって高い評価を受けてきた要因の一つが、卓越した静粛性です。新型ESでは、この伝統をさらに進化させるため、あらゆる部位で遮音・吸音・制振対策が施されています。
ドアガラスには多層構造の高遮音タイプを採用し、外部からの騒音の侵入を効果的に遮断します。ドアシール部材も形状と材質が見直され、風切り音の低減に貢献しています。フロア下部には厚手のアンダーカバーが装着され、路面からのロードノイズやタイヤノイズを遮断。エンジンルームとキャビンの間には多層の遮音材が配され、パワートレインからの騒音も徹底的に抑制されています。
特にBEVモデルでは、エンジン騒音が存在しないため、これまで気にならなかった微細な風切り音やロードノイズがより目立つ傾向にあります。そのため、空力設計の段階から風切り音の発生源を特定し、ドアミラー形状やウィンドウモール形状を最適化することで、高速走行時でも静寂な室内環境を実現しています。
さらに、単に静かなだけでなく、心地よい音響空間の創造も重視されています。オーディオシステムは高品位なスピーカーを最適配置し、すべての座席で均一な音質を楽しめるよう調整されています。エンジン音やタイヤノイズといった不快な音は抑制しつつ、ドライバーに必要な情報を伝える音(モーター音、警告音など)は適度に残すという、絶妙なバランスが追求されています。
BEVとHEVの多様な電動パワートレーン(日本導入3モデル)
新型ESは、HEVとBEVを併せ持つ多様な電動車モデルラインアップで全面刷新しました。日本仕様としては、ハイブリッド2種類とバッテリーEV1種類(ES350e/ES500eのいずれかがメイン、または両方で計3モデル構成とみられる)の計3モデルのパワートレインが導入される予定です。
パワートレーンラインアップ詳細

BEVモデルの電動化技術
BEVモデルでは、レクサスが培ってきた電動化技術を最大限に活用し、専用プラットフォーム(GA-K)の利点を引き出します。ES500eに採用される「DIRECT4」は、四輪駆動力を100:0から0:100の間で緻密に制御し、操縦安定性と楽しさを両立させます。
DIRECT4は、レクサスが誇る電動四輪駆動制御システムで、前後のモーターを独立して制御することで、走行状況に応じた最適なトルク配分を実現します。通常走行時は後輪駆動寄りの配分とすることで、FRスポーツセダンのような爽快な走りを提供。雨天や雪道では四輪に駆動力を適切に配分し、高い走破性と安全性を確保します。
コーナリング時には、外側の車輪に多くのトルクを配分することで、車両の旋回性能を高めることができます。これにより、ステアリング操作に対する応答性が向上し、ドライバーの意図通りの走行ラインをトレースすることが可能になります。電動モーターの緻密な制御により、従来の機械式四輪駆動システムでは実現できなかった高度な車両制御が可能になっているのです。
充電性能と実用性
また、150kW充電器使用時、外気温25℃で約30分で10%から80%まで充電可能という目標値が示されています。
この充電性能は、BEVの実用性を大きく左右する重要な要素です。高速道路のサービスエリアなどで約30分の休憩を取る間に、航続距離の大部分を回復できることは、長距離ドライブにおける不安を大幅に軽減します。また、自宅での普通充電(200V)にも対応しており、夜間に充電しておけば翌朝にはフル充電の状態で出発できます。
バッテリー容量は公表されていませんが、航続距離からES350eで約80-90kWh、ES500eで約70-75kWh程度と推測されます。床下に配置されたバッテリーパックは、低重心化に貢献するだけでなく、車両の重量バランスも最適化し、優れたハンドリング性能を実現しています。
バッテリーの温度管理システムも高度で、充電時や走行時の発熱を効率的に制御することで、バッテリーの劣化を抑制し、長期間にわたって高い性能を維持できるよう配慮されています。
HEVモデルの進化と効率性
ES300hには新たに2.0L直列4気筒エンジンを採用したハイブリッドシステムが搭載されます。これはESとして初採用となるもので、システム全体の効率化により、優れた燃費性能と十分な動力性能を両立しています。都市部での使用を中心とするユーザーにとって、コンパクトなエンジンと高効率なモーターの組み合わせは、日常使用での扱いやすさと経済性を最大化する選択肢となるでしょう。
一方、ES350hには新システムに刷新された2.5L直列4気筒ハイブリッドシステムが搭載され、システム出力182kW(247.4PS)という力強い性能を発揮します。0-100km/h加速は7.8-8.0秒と、大型セダンとして十分以上の加速性能を持ち、高速道路での合流や追い越しも余裕を持って行えます。
このハイブリッドシステムは、トヨタグループが長年培ってきたハイブリッド技術の最新版であり、エンジンとモーターの協調制御がさらに洗練されています。発進時や低速走行時はモーター駆動を主体とし、静かでスムーズな走りを提供。中高速域ではエンジンとモーターが最適なバランスで協調動作し、力強い加速と優れた燃費性能を両立します。
また、ES350hにはAWDモデルも設定され、後輪をモーターで駆動する「E-Four」システムにより、悪天候時の走行安定性がさらに向上しています。このシステムは通常走行時は前輪駆動を主体としつつ、滑りやすい路面や加速時には後輪にもトルクを配分し、安定した走行をサポートします。
III. LEXUSらしい世界観を体現する最新技術と「おもてなし」
新型ESは、お客様の感性に寄り添い、パーソナライズされた体験価値を提供する最新技術を積極的に採用しています。これらの技術は、単なる先進性の誇示ではなく、乗員すべてが快適に過ごせる空間を創造するという、レクサスの「おもてなしの心」を具現化したものです。
機能性とデザインを両立するインターフェース
世界初 Responsive Hidden Switches(レスポンシブヒドゥンスイッチ)
室内空間を可能な限りシンプルにするために開発されたこの物理スイッチは、テクノロジーを全面に出さないデザインで日本の美意識である「おもてなしの心」を表現しています。物理スイッチを内装に同化させることでシンプルな室内空間を実現し、手をかざすことで機能アイコンが点灯するという新しい体験価値を提供します。
*2025年4月現在発表済みの車種において、LEXUS調べ。
この革新的なインターフェースは、必要な時だけ姿を現し、使用しない時は内装に溶け込んで存在を消すという、「陰翳礼讃」にも通じる日本的な美意識を体現しています。手をかざすとセンサーが反応し、柔らかな光とともに機能アイコンが浮かび上がる様子は、まるで伝統的な行灯が灯される瞬間を思わせる情緒的な演出です。
操作性も高度に洗練されており、静電容量方式のタッチセンサーにより、軽い接触で確実に反応します。視覚的なフィードバックに加え、触覚フィードバック(ハプティック)も備えており、操作した感触が指先に伝わることで、確実な操作感を提供します。これにより、視線を大きく移動させることなく、直感的に操作することが可能になっています。
感覚に訴えかけるパーソナライズ体験「Sensory Concierge」
Sensory Concierge(センサリーコンシェルジュ)の世界
「パフォーミングアーツ」をコンセプトに、すべての乗員に自宅のリビングルームのようにくつろげる空間を提供します。イルミネーション、音楽、マルチメディア動画、空調、さらにはシートのリラクゼーション機能やヒーターが連動し、乗員をリラックスさせたり、高揚させたりする3つのモードを提供します。
Sensory Conciergeは、視覚・聴覚・触覚・嗅覚という人間の五感に訴えかける総合的な体験を創出するシステムです。例えば、「リラックスモード」では、柔らかなブルー系の照明が室内を包み、穏やかなアンビエント音楽が流れ、シートのマッサージ機能が作動し、選択した香りがほのかに漂います。この複合的な刺激が相乗効果を生み出し、深いリラクゼーション状態へと導きます。
「エナジャイズモード」では、明るいオレンジ系の照明とアップテンポな音楽、爽やかな香りが組み合わされ、乗員の気分を高揚させます。長距離ドライブの途中でリフレッシュしたい時や、大切な商談前に気持ちを高めたい時などに最適です。
「フォーカスモード」では、集中力を高めるための環境が整えられます。照明は適度な明るさに保たれ、音楽は穏やかながらもリズミカルなものが選択され、適切な温度設定により、最適な作業環境が提供されます。
音楽連動イルミネーションの魅力
乗員の選ぶ音楽の周波数に合わせて色を、音圧に合わせて輝度を変化させることで、感情に寄り添う空間を提供します。
この機能は、単なる視覚的演出にとどまらず、音楽鑑賞体験を多次元的に拡張するものです。高音部が多い楽曲ではブルー系の光が、低音部が強調される楽曲ではレッド系の光が優勢になるなど、音楽の特性が視覚化されます。音圧が大きくなると照明が明るくなり、静かなパートでは照明も柔らかく落ち着いた表情を見せます。
これにより、視覚と聴覚が相互に作用し、より没入感のある音楽体験が可能になります。お気に入りの楽曲をかけながら夜のドライブを楽しむ時、この音楽連動イルミネーションは車室全体を一つのコンサートホールのような空間に変貌させます。
LEXUS初導入のフレグランスシステム
「Time in Design」の思想に基づき、レクサスのシグネチャーアイテムであるバンブーを要所に取り入れた5つの香りを提供。グローブボックス内の発生器に3種類の専用カートリッジを搭載可能で、インストルメントパネル奥のスピーカーグリル部から香りが広がります。
香りは記憶や感情と深く結びついており、特定の香りが特別な思い出や感情を呼び起こすことは科学的にも証明されています。レクサスが開発した5つの香りは、それぞれ異なるシーンや気分に対応するよう調合されています。
「バンブーフレッシュ」は、朝の清々しい空気を思わせる爽やかな香り。通勤時や朝のドライブに最適です。「フォレストセレニティ」は、深い森の中にいるような落ち着いた香りで、ストレスを和らげる効果があります。「シトラスエナジー」は、柑橘系の爽快な香りで、気分をリフレッシュさせます。
香りの強度は5段階で調整可能で、好みに応じて微調整できます。また、専用カートリッジは交換式で、季節や気分に応じて異なる香りを楽しむことができます。空調システムと連動しており、香りが車室全体に均一に広がるよう設計されています。
開放感を高めるパノラマルーフ
濃色調光機能付パノラマルーフの革新性
乗員のニーズに応じて瞬時に遮光できる調光機能付を採用。ルーフセンターリインフォースメントを廃止し開口幅を極限まで広げることで、車室外との境界を感じさせない設計を実現しています。遮熱・断熱・紫外線99%カット効果のある「Low-E ガラス」により、厳しい環境下でも快適性を保ちます。
従来のパノラマルーフは、開放感がある反面、夏場の直射日光による車内温度の上昇や、冬場の放熱による寒さが課題でした。新型ESの調光パノラマルーフは、これらの問題を革新的に解決しています。
調光機能は電圧を印加することでガラスの透過率を変化させるもので、完全透明から濃色まで5段階で調整可能です。ボタン一つで瞬時に切り替わり、強い日差しが気になる時は濃色に、夜空を眺めたい時は透明にと、状況に応じて最適な設定を選べます。
特筆すべきは、センターリインフォースメントを廃止したことです。従来、構造強度を確保するために中央に配されていた補強材を、ガラス自体の強度向上とボディ側の剛性強化により不要にしました。これにより、前席から後席まで遮るものがない一枚のガラス越しに空を見上げることができ、かつてない開放感を提供します。
Low-Eガラスの採用により、夏場でも車内温度の上昇が抑えられ、エアコンの負荷が軽減されることで、電費・燃費の向上にも貢献しています。紫外線を99%カットする機能により、日焼けや内装の色褪せも防ぎ、長期間にわたって美しい状態を保つことができます。
IV. より安全・安心なドライブに寄与する先進安全技術
新型ESでは、モビリティ社会の究極の願いである「交通事故ゼロ」を目指し、最新の**Lexus Safety System +**を搭載しました。これにより、認識対象をより広く、より遠くまで拡大し、対応事故シーンを広げています。
進化した運転支援と連携機能
レーダークルーズコントロール(全車速追従機能付)の進化
先行車減速や割り込みシーンでの減速を早期化し、安心感を向上させています。これにより、高速道路や渋滞時の運転負荷が大幅に軽減され、長距離ドライブでもドライバーの疲労を抑制します。
新たにエコランモードを新設し、燃費重視の穏やかな追従走行を実現しました。このモードでは、加減速をより緩やかに行うことで、無駄なエネルギー消費を抑え、航続距離の延長に貢献します。特にBEVモデルにおいては、このモードを活用することで、公称航続距離を上回る実走行距離を達成することも可能です。
最も革新的なのが、地図連携機能の新規追加です。従来のカーブ手前の減速に加え、一時停止などの道路標識、丁字路、ラウンドアバウト、料金所などに対する減速をサポートします。これにより、ドライバーが減速操作を忘れた場合でも、システムが自動的に適切な減速を行い、安全性を高めます。
GPSとカメラ、レーダーを統合した高精度な自車位置認識により、地図情報と実際の走行環境を照合し、前方の道路状況を予測します。例えば、高速道路の料金所が近づくと、自動的に減速を開始し、スムーズに通過できる速度まで調整します。一時停止が必要な交差点では、完全停止まで支援し、ドライバーの操作を最小限に抑えます。
レーンチェンジアシスト [LCA] のスムーズ化
起動操作や車線変更の速さを見直し、より簡単でスムーズな車線変更を支援します。作動車速の拡大により、幅広いシーンでの支援を可能にしています。
従来のレーンチェンジアシストは、作動開始から実際の車線変更完了までに時間がかかり、ドライバーによっては「もどかしい」と感じることがありました。新型ESでは、システムの応答速度を向上させ、ウインカー操作から車線変更開始までの時間を短縮。より自然で人間的な車線変更を実現しています。
また、周囲の交通状況をより広範囲にわたって監視し、後方から接近する車両の速度も考慮した上で、安全に車線変更できるタイミングを判断します。高速道路での追い越しや、渋滞時の車線変更など、様々なシーンで確実にドライバーをサポートします。
危機回避支援機能の強化
プリクラッシュセーフティ [PCS] の拡張
交差点での出会い頭のシーンにおいて、警報およびブレーキの作動車速を広げることで、より広い車速域での衝突回避支援、または被害軽減に貢献します。
都市部での事故の多くは交差点で発生しており、特に出会い頭の衝突は重大事故につながりやすいことが知られています。新型ESのプリクラッシュセーフティは、交差点に進入する際、左右から接近する車両を検知し、衝突の危険性が高いと判断した場合、ドライバーに警報を発するとともに、必要に応じて自動ブレーキを作動させます。
従来システムでは対応できなかった、高速での交差点進入時にも対応可能になり、より幅広いシーンで安全性を確保します。また、歩行者や自転車に対する検知精度も向上し、夜間や逆光などの悪条件下でも確実に認識できるようになっています。
新開発アダプティブハイビームシステム(高精細式)[AHS]
部分的に遮光制御されたハイビームの活用で夜間の視認性を向上させます。従来の横方向の遮光に加え、高さ方向にも対応し、周辺歩行者に対してハイビームを部分的に減光させる機能も追加されています。
このシステムは、LEDヘッドランプを複数のブロックに分割し、それぞれを独立して制御することで実現されています。前方に対向車や先行車を検知すると、その部分だけを自動的に減光し、それ以外の領域は明るいハイビームを維持します。これにより、他車に眩惑を与えることなく、広範囲にわたって明るい視界を確保できます。
高さ方向の制御により、歩道を歩く歩行者の目の高さ付近のみを減光し、足元は明るく照らすことで、歩行者の存在を確実に認識しつつ、眩しさを与えないという高度な制御を実現しています。
ブラインドスポットモニター [BSM] の機能拡張
従来の機能に加え、自車の側方を走行している自転車やバイクを検知し、注意喚起を行うことで、右左折時の巻き込み事故防止を支援します。
都市部では自転車やバイクの交通量が多く、特に右左折時の巻き込み事故が問題となっています。新型ESのブラインドスポットモニターは、レーダーとカメラを併用することで、自転車やバイクといった小さな対象物も確実に検知します。
ドライバーがウインカーを出して右左折しようとした際、側方に自転車やバイクがいる場合、ドアミラー内のインジケーターが点滅し、警告音で注意を促します。これにより、ドライバーは目視確認を再度行い、安全に右左折を完了させることができます。
ドライバー異常時対応システムの高度化
LTA(レーントレーシングアシスト)制御中にドライバーの無操作状態が継続した場合、システムは周囲に警告を行いながら緩やかに減速・停車します。高速道路走行中に動作した場合、路肩に寄せて停車する機能が追加されました。
ドライバーが急病などで運転操作ができなくなった場合、従来システムでは走行車線上で停車するしかなく、後続車による追突の危険性がありました。新型ESでは、高速道路走行中であることを認識すると、自動的に路肩に向けて車線変更を行い、安全な場所に停車します。
停車後は、ハザードランプを点滅させるとともに、ホーンを断続的に鳴らして周囲に異常を知らせます。また、緊急通報システム(ヘルプネット)に自動接続され、オペレーターが状況を確認し、必要に応じて救急車の手配を行います。この機能により、万が一の事態にも迅速に対応でき、ドライバーの命を守ります。
V. ライバル車種との徹底比較:新型ESが選ばれる理由
新型レクサスESが属するプレミアムDセグメントには、ドイツ御三家をはじめとする強力なライバルが存在します。メルセデス・ベンツEクラス、BMW5シリーズ、アウディA6といった伝統的なプレミアムセダンに対して、新型ESはどのような独自性を持ち、どのような価値を提供するのでしょうか。
デザインフィロソフィーの違い
ドイツ車が伝統的に重視してきたのは、スポーティさと機能美の融合です。特にBMW5シリーズは「駆け抜ける歓び」を体現する俊敏なハンドリングと、力強いエンジンパフォーマンスを特徴としています。メルセデス・ベンツEクラスは、格式と威厳を重んじる保守的なデザインに、最新テクノロジーを融合させたアプローチを取ります。
一方、新型ESが提案するのは、「エレガンス」という価値観です。それは、力強さや速さを誇示するのではなく、洗練された佇まいと上質な移動空間を提供することで、乗る人すべてに心地よさをもたらすという思想です。「Clean Tech x Elegance」というデザインコンセプトは、テクノロジーを前面に押し出すのではなく、自然に溶け込ませることで、シンプルでありながら深みのある世界観を創造しています。
電動化戦略の先進性
2026年の時点で、BEVとHEVを同一車種で展開するプレミアムセダンは限られています。メルセデス・ベンツはEQEというBEV専用モデルを展開していますが、Eクラスとは別モデルとして位置づけられています。BMW5シリーズにもBEVのi5が追加されましたが、やはり明確な区別があります。
新型ESの革新性は、同一のデザインとプラットフォームで、BEVとHEVを統合的に展開している点にあります。これにより、顧客は自身のライフスタイルや使用環境に応じて、最適なパワートレーンを選択できます。充電インフラが整った都市部に住む顧客はBEVを、長距離走行が多い顧客や充電環境に不安がある顧客はHEVを選ぶという柔軟性が、レクサスの「マルチパスウェイ」戦略の真髄です。
日本的「おもてなし」とドイツ的「効率性」
ドイツ車が追求するのは、論理的で合理的な機能美です。すべての装備や機能には明確な理由があり、無駄を排除した効率性が重視されます。対照的に、レクサスが大切にするのは「おもてなし」という情緒的価値です。
Responsive Hidden Switchesや、Sensory Conciergeといった装備は、純粋な機能性だけでは説明できません。それらは、乗員の感性に訴えかけ、特別な体験を提供することを目的としています。手をかざすとスイッチが浮かび上がる演出、音楽に連動して変化する照明、5つの香りから選べるフレグランスシステム。これらは「必要」ではないかもしれませんが、移動という行為を「体験」へと昇華させる重要な要素なのです。
VI. まとめ:次世代LEXUSセダンの幕開け
新型ESは、セダンという工学的な合理性を備えたパッケージの優位性を活かし、デザインと電動化技術によって、これまでのレクサスセダンにはない新しい体験価値を創造しました。
チーフエンジニアの千足浩平氏が語るように、「エレガンスとは、余裕ある走りと品のある佇まいを示し、電動化は走る歓びをさらに進化させるもの」です。徹底的に鍛え上げられた基本素性、初採用のマルチリンクサスペンションやDRSによる「Lexus Driving Signature」の深化、そしてBEV/HEVの多様な選択肢の提供は、カーボンニュートラル社会への貢献と、ドライバーと乗員すべてに上質で心地良い移動体験を提供するというレクサスの決意を体現しています。
新型ESが切り拓く未来
2026年春、新型ESが日本の市場に導入されることは、高級セグメントの電動化競争において決定的な一歩となるでしょう。その静と動の美学、そして五感を刺激する最新技術の融合は、既存のESユーザーはもちろん、電動サルーンを求める新たな顧客層にも強烈な期待と魅力を与えるでしょう。
レクサスESは、36年にわたる歴史の中で、常に時代の要請に応えながら進化を続けてきました。初代が北米市場で静粛性と快適性により高い評価を得て以来、7世代にわたって洗練を重ね、今や世界80カ国以上で販売されるグローバルモデルへと成長しました。
そして今、8代目となる新型ESは、電動化という新たな時代の幕開けにふさわしい、革新的なモデルとして登場します。BEVとHEVを統合したマルチパスウェイ戦略、次世代デザイン言語の導入、五感に訴えかける先進装備、そして安全技術の大幅な進化。すべてが、レクサスが考える「次世代のプレミアムセダン」の答えです。
業界関係者が注目する理由
自動車業界に身を置く私たちが新型ESに注目するのは、それが単なる商品としての完成度だけでなく、今後の自動車産業の方向性を示唆するものだからです。
電動化への移行は避けられない潮流ですが、その方法論は一つではありません。欧州メーカーの多くは、BEVへの急速な移行を進めていますが、インフラ整備や顧客ニーズの多様性を考えると、現実には様々な課題が存在します。レクサスが提案するマルチパスウェイは、こうした現実を見据えた柔軟なアプローチであり、持続可能な移行戦略として注目に値します。
また、「おもてなし」という日本的価値観を、最新テクノロジーによって具現化した点も重要です。自動車が単なる移動手段から、体験を提供する空間へと進化する中で、どのような価値を提供するかは各メーカーの哲学を反映します。レクサスの答えは明確です。それは、乗員すべてが心地よく過ごせる、くつろぎと刺激が調和した空間の創造です。
最後に
新型レクサスESの登場は、次世代LEXUSの幕開けを象徴する出来事として、引き続き注目を集めます。2026年春の日本導入を前に、試乗会やメディア向け発表会などを通じて、さらに詳細な情報が明らかになるでしょう。
プレミアムセダン市場は、SUVやクロスオーバーの台頭により縮小傾向にあるとされていますが、真に上質で洗練されたセダンへのニーズは決して消えることはありません。むしろ、セダンという形式が持つ機能的合理性と美的完成度を、現代のテクノロジーで再解釈することで、新たな価値を創造できる可能性が示されたといえるでしょう。
新型ESは、そうした可能性を具現化したモデルであり、セダン復権の狼煙となるポテンシャルを秘めています。エレガンスと電動化を両立させた次世代プレミアムセダンの真髄を、ぜひご自身の目で、そして体で確かめていただきたいと思います。
補足情報:新型ES購入を検討される方へ
予想価格帯と競合比較
新型ESの日本国内での価格は、2026年春の発売時点で正式発表される予定ですが、現行モデルと装備内容の向上を考慮すると、以下のような価格帯が予想されます。
- ES300h:約650万円~730万円
- ES350h:約750万円~850万円
- ES350e(BEV):約900万円~1,000万円
- ES500e(BEV):約1,050万円~1,150万円
これらの価格は、メルセデス・ベンツEクラス(約850万円~)やBMW 5シリーズ(約900万円~)と比較すると、HEVモデルはより手頃な価格設定となる可能性があります。一方、BEVモデルは最新の電動化技術を搭載しているため、プレミアム価格帯での展開が予想されます。
維持費とトータルコストの考察
HEVモデルの経済性
ES300hやES350hといったHEVモデルは、優れた燃費性能により、ガソリン車と比較して燃料費を大幅に削減できます。年間走行距離1万kmと仮定した場合、ガソリン価格が1リットル170円として、以下のような試算が可能です。
- 従来型ガソリン車(燃費10km/L):年間燃料費 約17万円
- ES300h(推定燃費20km/L):年間燃料費 約8.5万円
- 年間削減額:約8.5万円
5年間で約42.5万円、10年間では約85万円の燃料費削減効果が期待できます。さらに、HEVは回生ブレーキを多用するため、ブレーキパッドの摩耗が少なく、メンテナンスコストも低減されます。
BEVモデルの圧倒的なランニングコスト優位性
BEVモデルは、電気料金の安さにより、さらに大きな経済的メリットがあります。家庭用電力(深夜電力)で充電した場合、1kWhあたり約15円として試算します。
- ES350e(推定電費6.5km/kWh):年間電気代 約2.3万円
- ES500e(推定電費6.0km/kWh):年間電気代 約2.5万円
- ガソリン車と比較した年間削減額:約14.5万円~14.7万円
5年間で約72.5万円、10年間では約145万円もの燃料費削減効果があります。さらに、BEVはエンジンオイル交換が不要で、ブレーキパッドの摩耗も極めて少なく、メンテナンス費用が大幅に削減されます。
また、政府や自治体による購入補助金も期待できます。2026年時点でのBEV補助金制度は未確定ですが、従来の制度を参考にすると、車両価格に応じて数十万円の補助金が交付される可能性があります。
リセールバリューの展望
レクサス車は、日本国内外で高いブランド価値と品質の信頼性により、優れたリセールバリューを維持しています。特にESは、グローバルで人気の高いモデルであり、中古車市場でも安定した需要が期待できます。
新型ESは、最新の電動化技術を搭載し、先進安全装備も充実しているため、数年後の中古車市場でも高い評価を受ける可能性が高いでしょう。特にBEVモデルは、バッテリー技術の進歩により劣化が少なく、長期間にわたって性能を維持できるため、将来的なリセールバリューにも期待が持てます。
購入前に確認すべきポイント
充電環境の整備(BEVモデル購入検討者向け)
BEVモデルを購入される場合、自宅での充電環境整備が重要です。戸建て住宅であれば、200V専用コンセントの設置が推奨されます。工事費用は約10万円~30万円程度ですが、夜間電力を活用した経済的な充電が可能になります。
マンションなどの集合住宅にお住まいの場合は、管理組合との協議が必要になることがあります。最近では、電気自動車の普及に伴い、充電設備の設置に対応する物件も増えていますが、事前に確認が必要です。
また、外出先での充電については、全国に急速充電スタンダードが整備されつつあり、高速道路のサービスエリアや商業施設、コンビニエンスストアなどで充電可能です。レクサスディーラーでも充電設備を整備しており、購入後のサポート体制も充実しています。
試乗の重要性
新型ESの真価は、カタログスペックだけでは測れません。実際に試乗し、静粛性、乗り心地、加速フィーリング、操縦安定性などを体感することが重要です。特に、HEVとBEVでは走行フィーリングが大きく異なるため、可能であれば両方を試乗し、自身の好みに合ったパワートレーンを選択することをお勧めします。
2026年春の発売に先立ち、レクサスディーラーでは先行展示や試乗会が開催される予定です。興味のある方は、最寄りのレクサスディーラーに問い合わせ、試乗予約をされることをお勧めします。
長期保証とアフターサービス
レクサスは、充実した保証制度とアフターサービスで知られています。新車購入時には、一般保証(3年間または6万km)と特別保証(5年間または10万km)が付帯されます。さらに、ハイブリッドシステムやBEVのバッテリーには、より長期の保証が設定される見込みです。
また、レクサスオーナーズデスクによる24時間365日のサポート、定期点検時の代車提供、オーナーズラウンジの利用など、プレミアムブランドならではの手厚いサービスが受けられます。購入後の安心感という点でも、レクサスは高い評価を得ています。
技術者の視点から見た新型ESの革新性
自動車業界に携わる者として、新型ESの技術的な革新性について、いくつかの重要なポイントを指摘したいと思います。
プラットフォーム戦略の巧みさ
新型ESが採用するTNGAプラットフォーム(GA-K)は、HEVとBEVの両方に対応できるよう専用開発されました。これは、単純なプラットフォーム共通化ではなく、異なるパワートレーンの特性を最大限に引き出すための最適化が施されています。
HEVモデルでは、トランスミッションとエンジンの配置を最適化し、重量バランスを改善。BEVモデルでは、床下のバッテリー配置を前提とした構造設計により、低重心化と高剛性を両立させています。この「一つのプラットフォームで複数のパワートレーンに対応」というアプローチは、開発効率と性能の両立という点で、極めて合理的な戦略といえます。
サスペンションジオメトリーの最適化
新型ESが初採用したマルチリンクリヤサスペンションは、単にリンク数が増えたというだけではありません。各リンクの取り付け位置、長さ、角度が綿密に計算され、コーナリング時のトー変化やキャンバー変化を最適化することで、優れた操縦安定性と乗り心地を両立させています。
特に、BEVモデルではバッテリーの重量により車重が増加するため、サスペンションには高い減衰力が要求されます。しかし、単に硬くするだけでは乗り心地が損なわれます。新型ESでは、周波数感応型のダンパーを採用し、路面からの小さな入力には柔軟に反応しつつ、大きな入力には確実に減衰力を発揮するという、高度な制御を実現しています。
電動パワートレーンの制御技術
BEVモデルに搭載されるDIRECT4システムは、単なる四輪駆動システムではありません。前後のモーターを独立制御することで、駆動力配分を100:0から0:100の間で1000分の1秒単位で変化させることができます。
この緻密な制御により、コーナリング時には外側の車輪により多くのトルクを配分し、旋回性能を高めることができます。また、滑りやすい路面では、各輪の滑り具合を検知し、グリップのある車輪に駆動力を集中させることで、安定した走行を実現します。
さらに注目すべきは、回生ブレーキの制御です。従来のBEVでは、アクセルオフ時の減速度が大きく、同乗者が不快に感じることがありました。新型ESでは、回生ブレーキの減速度を運転状況に応じて最適化し、自然なフィーリングを実現しています。
バッテリー熱管理システムの重要性
BEVの性能と寿命を左右する重要な要素が、バッテリーの温度管理です。新型ESでは、液冷式のバッテリー冷却システムを採用し、各セルの温度を均一に保つことで、性能劣化を最小限に抑えています。
特に急速充電時は、大電流によりバッテリーが発熱します。効率的な冷却システムにより、充電速度を維持しつつ、バッテリーへのダメージを最小化しています。また、寒冷地では、バッテリーを予熱する機能により、低温時の性能低下を防ぎます。
これらの熱管理技術により、新型ESのバッテリーは、10年経過後も初期容量の80%以上を維持することが期待されています。
軽量化技術の進化
車両の性能向上において、軽量化は永遠のテーマです。新型ESでは、アルミニウム合金をフードやドアに使用し、高張力鋼板をボディ骨格に採用することで、剛性を維持しつつ軽量化を実現しています。
特にBEVモデルでは、バッテリーの重量が避けられないため、他の部分での軽量化が極めて重要です。シートフレームにはマグネシウム合金を使用し、内装部品には軽量化された素材を採用するなど、あらゆる部位で数グラム単位の軽量化努力が積み重ねられています。
これらの技術的革新は、カタログに記載されることのない、見えない部分での努力の結晶です。しかし、それらすべてが統合されることで、新型ESの卓越した走行性能と快適性が実現されているのです。
最終考察:新型ESが示す自動車の未来
新型レクサスESは、単なる新型車の投入以上の意味を持っています。それは、自動車産業が直面する様々な課題に対する、レクサスなりの解答であり、未来への道標でもあります。
電動化への多様なアプローチ
世界中の自動車メーカーが電動化へと舵を切る中で、そのアプローチは様々です。欧州メーカーの多くは、2030年代前半でのエンジン車廃止を宣言し、BEVへの急速な移行を進めています。一方、レクサスを含むトヨタグループは、HEV、PHEV、BEV、さらには燃料電池車(FCEV)を含む「マルチパスウェイ」戦略を採用しています。
どちらが正解かという問いに、現時点で明確な答えはありません。地域によって電力事情は異なり、顧客のニーズも多様です。新型ESが提示するのは、「選択肢を提供する」という柔軟なアプローチであり、これは持続可能な移行戦略として、一つの有力な解答といえるでしょう。
プレミアムの再定義
かつて、プレミアムカーの価値は、エンジンの排気量やパワー、豪華な装備の量で測られました。しかし、電動化時代において、プレミアムの定義は変わりつつあります。
新型ESが提案するプレミアムは、「体験の質」です。静粛性、乗り心地、五感を刺激する演出、パーソナライズされた空間。これらは、数値では表現できない、感性に訴えかける価値です。Sensory Conciergeやフレグランスシステムといった装備は、その象徴といえるでしょう。
これは、日本的な「おもてなし」の精神を、現代のテクノロジーで表現したものであり、欧州車とは異なる価値観の提示です。自動車が単なる移動手段から、感動や癒しを提供する空間へと進化する中で、この方向性は今後ますます重要になるでしょう。
持続可能性への貢献
新型ESの開発において、環境への配慮も重要なテーマでした。BEVモデルは、走行時のCO2排出をゼロにします。HEVモデルも、従来のガソリン車と比較してCO2排出量を大幅に削減します。
さらに、製造過程での環境負荷低減も進められています。リサイクル可能な素材の使用、省エネルギー型の生産設備の導入、サプライチェーン全体でのCO2削減など、ライフサイクル全体での環境負荷を最小化する努力が続けられています。
また、長期間使用できる高品質な製品を提供することも、持続可能性への貢献です。レクサスの高い品質と信頼性は、車両寿命の延長につながり、結果的に資源の有効活用に貢献します。
結びに代えて
新型レクサスESは、2026年春の日本市場導入を前に、すでに自動車業界内外で大きな注目を集めています。それは、このモデルが単なる商品としての魅力を超えて、これからの自動車の在り方を示唆する存在だからです。
36年の歴史を持つESが、8代目にして大きな進化を遂げ、電動化時代の新たな扉を開こうとしています。エレガンスと電動化、伝統と革新、機能と感性。一見相反するようなこれらの要素を高次元で融合させた新型ESは、プレミアムセダンの新たなベンチマークとなる可能性を秘めています。
自動車業界に携わる者として、そして一人の自動車愛好家として、新型ESの登場を心から歓迎します。そして、多くの方々がこのモデルを通じて、自動車が提供する新しい価値を体験し、移動の楽しさを再発見されることを期待しています。
2026年春、日本の道路を走り始める新型レクサスES。その姿を目にする日が、今から待ち遠しくてなりません。
※本記事の情報は2025年4月時点のプロトタイプ車両に基づくものです。市販車では仕様が変更される可能性がありますので、最新情報は公式発表をご確認ください。
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