自動車業界で働く私たちにとって、エネルギーは切っても切れない存在です。電気自動車の普及が加速する今、「その電気はどこから来るのか」という問いがますます重要になっています。化石燃料への依存を減らし、持続可能な社会を実現するために、世界は次世代エネルギーの開発に凌ぎを削っています。
そんな中、日本で壮大なプロジェクトが静かに、しかし着実に前進しています。それが「核融合発電」の実用化です。かつて「永遠に30年先の技術」と揶揄されてきたこの夢の技術が、今、現実味を帯びてきました。2030年代の実用発電——。遠い未来の話ではなく、私たちの子どもたちが大人になる頃には、核融合で作られた電気で車を走らせているかもしれません。
本記事では、日本のスタートアップHelical Fusionと富山県の老舗産業機械メーカー・スギノマシンが共同で完成させた最新のコイル製作マシン、そして2030年代の実用化を目指す「ヘリックス計画」について、自動車業界の視点も交えながら詳しく解説します。数百兆円規模の市場が生まれようとしている今、この革命的な技術を知らずにいるわけにはいきません。
核融合発電とは何か?太陽の輝きを地上で再現する究極のエネルギー
核融合発電とは、文字通り「原子核を融合させる」ことでエネルギーを取り出す技術です。これは太陽が何十億年も輝き続けている原理そのものであり、「地上に人工太陽を作る」プロジェクトとも言えます。
原子力発電との根本的な違い

多くの方が「核融合」と聞いて連想するのは、既存の原子力発電所でしょう。しかし、従来の原子力発電(核分裂)と核融合は、まったく異なる反応を利用しています。
従来の原子力発電は、ウランやプルトニウムといった重い原子核を「分裂」させてエネルギーを得ます。一方、核融合は水素のような軽い原子核同士を「融合」させます。この違いは、安全性や環境負荷において決定的な差を生みます。
核融合の燃料は主に重水素と三重水素です。重水素は海水から、三重水素はリチウムから採取できます。つまり、燃料はほぼ無尽蔵に存在し、どの国でも入手可能なのです。しかも、核融合反応が暴走して爆発的に拡大することはなく、万が一制御を失っても反応は自然に停止します。放射性廃棄物の量も原子力発電に比べて極めて少なく、管理期間も大幅に短縮されます。
なぜ実用化が難しかったのか

では、なぜこれほど優れた技術が100年近く研究されても実用化されなかったのでしょうか。答えは「極限的な条件の実現」にあります。
核融合を起こすには、燃料を摂氏1億度以上の超高温プラズマ状態にし、それを安定して閉じ込め続ける必要があります。この温度は太陽の中心部に匹敵します。しかも、プラズマは超高速で動き回る不安定な状態であり、ちょっとした乱れで制御を失ってしまいます。
この「1億度のプラズマを安定して閉じ込める」という課題こそが、核融合発電最大のハードルでした。世界中の科学者たちが様々な方式を試み、長年にわたり改良を重ねてきたのです。
日本独自の「ヘリカル方式」商用発電に最適な核融合炉の形
核融合炉にはいくつかの方式がありますが、Helical Fusionが採用しているのは日本独自の「ヘリカル方式」です。この方式こそが、2030年代の実用発電を可能にする鍵なのです。
世界で主流の「トカマク型」との違い

ヘリカル型

出展 ウィキペディア
ヘリカル型とは、核融合炉においてトカマク型と並べられるトーラス形(円環体)の磁場閉じ込め方式の1種で、ねじれたコイルを周回させて閉じ込め磁場を作ることが特徴である。現代では、ステラレータ方式(主に欧米)、およびヘリオトロン方式(主に日本)の総称として用いられている。ただし海外では、後述の通りステラレータ・ヘリオトロンと併記されることが多く、この用語はほとんど使われていない[1]。
トカマク型では閉じこめ磁場をトロイダルコイルを流れる電流とプラズマ中を流れるトロイダル電流によって閉じこめ磁場を形成しているのに対し、一般にヘリカル型ではその名の通りヘリカル(らせん)型の周回コイルに電流を流し、閉じ込め磁場を形成している。
現在、国際協力で建設が進む大型実験炉ITER(イーター)は「トカマク型」と呼ばれる方式を採用しています。トカマク型は、ドーナツ型の真空容器の中にプラズマを閉じ込め、外部のコイルとプラズマ自身に流す電流によって磁場を作り出します。
一方、ヘリカル型の最大の特徴は、らせん状にねじれたコイルによって磁場を形成する点にあります。この構造により、プラズマ自身に電流を流す必要がありません。これが何を意味するのか——それは、「定常運転」と「安定性」という、商用発電所として決定的に重要な2つの性質を実現できることです。
70年の研究が証明した圧倒的な安定性
ヘリカル方式は、1958年に京都大学の宇尾光治教授によって提案された「ヘリオトロン」に源流を持ちます。以来、日本の研究者たちは一貫してこの方式を追求し、改良を重ねてきました。
その集大成が、岐阜県土岐市にある核融合科学研究所の「大型ヘリカル装置(LHD)」です。この装置は世界唯一の大型ヘリカル実験装置であり、プラズマ温度1億度の達成、3000秒(約50分)以上の連続運転など、驚異的な成果を上げています。
トカマク型では、プラズマ中の電流が不安定になると「ディスラプション」と呼ばれる現象が起き、プラズマが突然消滅してしまいます。しかし、ヘリカル型ではプラズマ電流を必要としないため、このディスラプションが原理的に起こりません。これは24時間365日安定して運転し続けなければならない商用発電所にとって、計り知れないアドバンテージなのです。
「商用核融合炉の三要件」を満たす唯一の方式
Helical Fusionは、核融合炉を商用発電所として利用するためには3つの要件が必須だと考えています。
- 定常運転:24時間365日運転可能な安定性
- 正味発電:システム全体で取り出せるエネルギーが投入分を上回る
- 保守性:短期間で効率的なメンテナンスが可能
現在、世界中で50以上の核融合プロジェクトが進行していますが、トカマク方式やレーザー方式をはじめとする他の方式は、これら三要件を「今ある技術」で同時に満たすことが困難とされています。
ヘリカル方式は、その構造上、定常運転に最も適しています。プラズマを安定して維持でき、ベースロード電源(常時安定して電力を供給する基幹電源)としての役割を担えるのです。これは、風力や太陽光のような変動する再生可能エネルギーを補完し、安定した電力網を構築する上で極めて重要な特性です。
そして重要なのは、このヘリカル方式を用いて商用発電の実用化を進めている企業が、世界中でHelical Fusion一社のみだという事実です。約70年にわたる日本の研究成果をベースに、現存する技術を組み合わせて最短距離での実用化を目指す「ヘリックス計画」は、まさに日本発のグローバルな挑戦なのです。
スギノマシンの「超技術」が可能にした世界唯一のコイル製作マシン

フュージョン(核融合)エネルギー実用化を主導する「ヘリックス計画(Helix Program)」のもと、日本独自のヘリカル型核融合炉を開発する株式会社Helical Fusion(本社:東京都中央区、代表:田口昂哉、以下、「Helical Fusion」)は、株式会社スギノマシン(本社:富山県滑川市、代表取締役社長:杉野岳、以下、「スギノマシン」)との技術的な連携と開発により、最終実証装置「Helix HARUKA」の最重要コンポーネントの一つ「高温超伝導コイル」を製作するためのコイル製作マシンを完成させました。
ヘリカル型核融合炉の心臓部は、らせん状に巻かれた「高温超伝導コイル」です。このコイルが強力な磁場を作り出し、1億度のプラズマを閉じ込めます。しかし、その複雑ならせん形状ゆえに、製作難易度は極めて高く、長年ヘリカル方式の課題とされてきました。
この難題を解決したのが、1936年創業、富山県滑川市に本社を置く老舗産業機械メーカー、株式会社スギノマシンです。
90年の歴史が培った「6つの超技術」
スギノマシンは「切る、洗う、削る、磨く、砕く、解す」という6つの「超技術」を武器に、自動車から航空機、エネルギー産業まで幅広い分野で製品を展開する「グローカルニッチリーダー」です。
特筆すべきは、原子力発電所等の保守・メンテナンスで50年以上の実績を持つ点です。人が立ち入れない高放射線環境での遠隔作業機器開発など、極限環境で求められる高度な品質と信頼性を培ってきました。この経験が、核融合という新たな極限技術への挑戦を可能にしたのです。
前例のない「らせん状コイル」の自動製作に成功
2025年10月、Helical Fusionは独自に開発した「曲げやすく巻きやすい高温超伝導ケーブル」の実証に成功しました。フジクラから調達した高温超伝導素材を束ねたこのケーブルは、マイナス258度に冷却すると40キロアンペアという大電流を流せます。従来のニオブスズを使った超伝導線材よりも強力な磁場を発生させられる上、冷却コストも抑えられる画期的な技術です。
しかし、このケーブルをらせん状に精密に巻き付けてコイルを製作するには、極めて高度な設計・開発力が必要でした。ここでスギノマシンの技術力が光りました。
Helical Fusionのアイデアを具現化し、スギノマシンは世界唯一のコイル製作マシンを完成させたのです。この新開発マシンの導入により、高性能なコイルを素早く効率的に製作することが可能となりました。
杉野岳社長は次のようにコメントしています。「核融合発電は、人類未踏の技術である以上、簡単な挑戦ではありませんが、熱意と決意と覚悟を持って挑まれているHelical Fusion様と共に、スギノマシンも創業以来90年間培ってきた技術・経験と、未来に向けた新しい発想を武器に、使命感を持って一つ一つ課題を確実にクリアしていきたいと思います。」
日本のものづくりが支える核融合実用化
このコイル製作マシンは、最終実証装置「Helix HARUKA」の組み立てにおいて、プロジェクトを加速させる極めて重要な役割を果たします。2026年半ばには、実証場所にマシンを運び込み、いよいよ組み立てが開始される予定です。
日本の老舗メーカーの「匠の技」とスタートアップの「革新的アイデア」の融合——。これこそが、世界をリードする日本のものづくりの真価であり、核融合という人類の夢を現実に変える原動力なのです。
ヘリックス計画:2030年代の実用発電へ向けた明確なロードマップ

核融合発電の市場規模は、2050年までに世界で数百兆円に達すると試算されています。日本政府も2025年6月に「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、国家戦略として強力に推進する姿勢を明確にしました。
この流れの中で、Helical Fusionの「ヘリックス計画(Helix Program)」は、極めて具体的で実現可能性の高いロードマップを提示しています。
2020年代:個別要素技術の実証と最終実証装置の組み立て
2025年まで
二大開発要素である「高温超伝導マグネット」と「ブランケット兼ダイバータ」の個別実証を完了させます。
高温超伝導マグネットについては、2025年10月に大きなマイルストーンを達成しました。先述の通り、Helical Fusionは独自開発の高温超伝導ケーブルを用いたコイルの実証に成功し、実際の核融合炉環境に近い条件下での超伝導状態維持に成功しました。田口昂哉CEOは「実用発電を見据えた核融合発電の研究では、今回の開発で世界のトップに躍り出たと解釈している」とコメントしています。
ブランケットは、核融合反応で発生する中性子を受け止め、熱エネルギーに変換する装置です。同時に、燃料となる三重水素を生産する役割も担います。Helical Fusionは液体金属を用いた先進ブランケットの開発を進めており、エネルギー循環システムの完成を目指しています。
2026年半ば
今回完成したスギノマシン製のコイル製作マシンを実証場所に運び込み、最終実証装置「Helix HARUKA」の組み立てを開始します。
HARUKAは、個別に実証した技術を統合し、実際にプラズマを発生させて長時間維持する装置です。ここで核融合反応の制御技術を完成させます。
2030年代:統合実証から世界初の実用発電へ
2030年代中盤
「Helix HARUKA」による統合実証を行い、核融合によるエネルギー制御の完成度を高めます。ここで、24時間365日の安定運転、正味発電(投入エネルギーを上回るエネルギーの取り出し)、効率的な保守性という「商用核融合炉の三要件」をすべて実証します。
2030年代後半
発電初号機「Helix KANATA」により、**世界初の実用発電(正味発電)**を達成する計画です。
これは単なる実験炉ではなく、実際に電力網に接続して電気を供給する商用発電所です。Helical Fusionが「30年先ではなく、あと1歩で実現できるところまできている」と自信を持って語る理由がここにあります。
世界を見渡しても、米国は2035年、英国は2040年、中国は2030年代の核融合炉建設・稼働を目標としています。しかし、多くは実験炉レベルであり、商用発電を目指すHelical Fusionの計画は極めて野心的かつ現実的です。
日本発の巨大産業創出へ——Helix Program パートナリングプロジェクト

この計画は単なる技術開発に留まりません。Helical Fusionは、ものづくりから小売まで全分野のパートナーと連携する「Helix Program パートナリングプロジェクト」を展開しています。
スギノマシンのような世界に誇る日本の技術を結集し、自動車産業に次ぐ日本をリードする巨大産業を、核融合エネルギーという新たな領域で創出しようとしているのです。
実際、愛知県一宮市の菱輝金型工業は、これまで航空・宇宙や自動車向けの部品加工を受託してきましたが、現在は核融合部品の製作に注力しています。原康裕社長は「自動車、航空機に続いて、核融合を次の事業柱にしたい」と語っています。
このように、日本の優れた製造技術を持つ企業が次々と核融合産業に参入しており、新たなサプライチェーンが形成されつつあります。
世界の核融合開発競争——投資の98%が民間へ
核融合発電を取り巻く環境は、この数年で劇的に変化しています。かつては「永遠に30年先の技術」と揶揄されていましたが、今や実用化スケジュールは2030年代へと大幅に前倒しされています。
民間主導の開発加速
2022年10月に英国で開催された核融合業界カンファレンス「Fusion22」では、業界リーダーたちの間で「商業核融合はもはや30~50年先の話ではない」という認識が共有されました。核融合産業協会(FIA)が行った企業へのヒアリングでも、最初の核融合プラントが電力供給可能になる時期として、最も多い回答は「2031-2035年」でした。
この変化を牽引しているのは、民間スタートアップ企業です。世界の核融合投資の約98%が民間セクターに向かっており、数千億円単位の巨額資金調達を行う企業が相次いでいます。
米国のスタートアップCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、累計約4000億円の資金を調達し、世界最大規模となっています。日本からも三井物産や三菱商事など12社の企業連合が数十億円を出資しました。CFSは建設中の実験炉「Spark」に高温超伝導コイルを組み込み、近く稼働を開始する予定です。
Helical Fusionも、2025年7月に約23億円の資金調達を発表し、累計調達額は約52億円に達しました。さらに、文部科学省の中小企業イノベーション創出推進事業(SBIRフェーズ3)に採択され、20億円の補助金交付も受けています。経済産業省のスタートアップ支援プログラム「J-Startup」にも選出されており、国からの期待の高さがうかがえます。
急成長する核融合市場
世界の核融合市場規模は急速に拡大しています。調査会社The Business Research Companyによると、2023年の市場規模は約3135億ドルで、2027年には年平均成長率6.0%で約3951億ドルに達すると予測されています。さらに2029年には年平均成長率8.1%で約4795億ドルに成長する見込みです。
2050年までには、核融合が電力供給の重要な柱となり、市場規模は数百兆円に達すると試算されています。これは自動車産業に匹敵する、あるいはそれを上回る規模の巨大市場です。
エネルギー需要は世界的に増加しており、エクソンモービルの予測では2050年までに2021年比で約15%増加し、約660兆Btuに達するとされています。この膨大な需要を満たす持続可能なエネルギー源として、核融合への期待は高まる一方です。
自動車業界への影響:電動化の先にある究極の電源
自動車業界で働く私たちにとって、核融合発電の実用化は決して他人事ではありません。むしろ、電気自動車(EV)の普及が進む今だからこそ、その重要性は増しています。
EVの普及が突きつける電力供給の課題
2035年には多くの国で内燃機関車の新車販売が禁止される見込みです。自動車の電動化は避けられない流れであり、すでに世界中で急速に進んでいます。
しかし、EVが普及すればするほど、電力需要は急増します。現在の電力供給体制のままでは、この増加する需要を賄うことは困難です。再生可能エネルギーは天候に左右され不安定であり、化石燃料発電はCO2を排出します。既存の原子力発電には根強い反対があります。
ここで核融合発電が果たす役割が見えてきます。核融合は、安全で、CO2を排出せず、燃料がほぼ無尽蔵にあり、しかも24時間365日安定して発電できます。まさにEV時代のベースロード電源として理想的なのです。
合成燃料製造への応用
核融合発電のもう一つの重要な応用先が、合成燃料(e-fuel)の製造です。合成燃料とは、CO2と水素を原料に人工的に作る液体燃料で、既存の内燃機関でも使用できます。
しかし、合成燃料の製造には大量のエネルギーが必要です。そのエネルギー源が化石燃料では意味がありません。核融合発電が実用化されれば、安価かつCO2フリーのエネルギーで合成燃料を製造できるようになります。
これにより、すべての自動車を電動化する必要はなくなるかもしれません。商用車や長距離トラック、重機など、電動化が難しい車両は合成燃料で走らせる選択肢が生まれます。
自動車産業の新たなサプライチェーン
核融合炉の製造には、自動車産業で培われた精密加工技術、材料技術、組立技術が数多く必要とされます。実際、前述の菱輝金型工業のように、自動車部品メーカーが核融合部品の製造に参入する例が増えています。
自動車産業は、内燃機関からEVへの転換期を迎えています。この大転換の中で、核融合という新たな巨大産業が立ち上がることは、日本の製造業にとって大きなチャンスです。自動車で培った技術を核融合産業に活かし、さらに核融合から自動車へと技術が還流する——。そんな好循環が生まれる可能性があります。
日本が核融合で世界をリードできる理由

日本は核融合分野で世界をリードできる独自の強みを持っています。
70年の研究蓄積とヘリカル方式の優位性
第一に、約70年にわたるヘリカル方式の研究蓄積です。核融合科学研究所を中心に、世界唯一の大型ヘリカル装置LHDで数々の成果を上げてきました。この知見を継承しているHelical Fusionは、商用発電に最適な技術を既に手にしています。
世界では50以上の核融合プロジェクトが進行していますが、そのほとんどはトカマク型やレーザー型です。ヘリカル方式で商用発電を目指すのはHelical Fusionのみであり、これは大きな差別化要因です。
高度なものづくり技術
第二に、日本が誇る高度なものづくり技術です。スギノマシンのような老舗メーカーの職人技、菱輝金型工業のような精密加工技術、フジクラのような材料技術——。これらの技術が結集することで、核融合炉という極限的な装置を製造できます。
実際、国際プロジェクトITERでも、日本が製作した超伝導コイルは世界最高水準の品質を誇っています。三菱重工と東芝エネルギーシステムズが製作したトロイダル磁場コイルは、高さ16.5メートル、重量300トンという巨大さにもかかわらず、誤差1万分の1以下(数ミリ)という驚異的な精度で製造されました。
ITER機構長(当時)のベルナール・ビゴ氏は「日本は常にプロジェクトの中心となる貢献をしており、世界の核融合開発の牽引役だ」と日本の技術力を賞賛しました。
政府の強力な支援
第三に、日本政府の強力な支援です。2025年6月に改定された「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」では、「多様な方式の挑戦を促す」こと、「我が国がサプライチェーンの構築を主導できるよう、官民が連携して取り組む」ことの重要性が強調されました。
Helical FusionのCEO田口昂哉氏は次のように語っています。
「日本に『もう一つ』太陽を作る。これが我々の目指す姿です。今や世界中で核融合の開発競争が繰り広げられていますが、その中でもHelical Fusionが手がけるヘリカル型は、世界中、特に日本の大学や国立研究所で70年にわたって培われてきた世界トップレベルの研究に裏打ちされた実績があります。とりわけ、現存する技術で実用化を目指すことを考えれば、我々のHelix Programこそ大本命であり、日本の大きな武器になると考えています。」
結び:人類最後のエネルギー革命が始まる
核融合発電の実用化は、人類にとって「最後のエネルギー革命」となる可能性があります。化石燃料の枯渇を心配する必要はなくなり、CO2排出による気候変動の懸念も解消されます。エネルギーの点で、人類は初めて真の意味で自立することができるのです。
2030年代後半、Helical Fusionの「Helix KANATA」が世界初の実用発電を達成する——。この目標は、もはや夢物語ではありません。具体的な技術、明確なロードマップ、そして日本の総力を結集した体制が整いつつあります。
スギノマシンとHelical Fusionが完成させたコイル製作マシンは、その象徴です。90年の歴史を持つ老舗の匠の技と、最先端の核融合技術が融合し、世界唯一のマシンが誕生しました。2026年半ばには実証場所への搬入が予定されており、いよいよ最終実証装置「Helix HARUKA」の組み立てが始まります。
自動車業界で働く私たちは、この革命を目撃する最前列にいます。EVの普及とともに、その電気がどこから来るのかという問いはますます重要になります。核融合発電は、その答えの一つです。しかも、日本が世界をリードできる分野です。
数百兆円規模の巨大市場が生まれようとしている今、自動車産業で培った技術を核融合産業に活かすチャンスも広がっています。内燃機関からEVへの大転換期において、新たな産業の柱を創出することは、日本の製造業の未来を左右する重要な意味を持ちます。
人類のエネルギー問題を根本から解決する大きな一歩——。それが、日本の老舗メーカーの匠の技とスタートアップの革新的アイデアが融合したこのプロジェクトであり、私たちが今まさに目撃している歴史的瞬間なのです。
太陽が地上で輝く日は、そう遠くありません。

