往年の「ブルドッグ」が令和に蘇る――EVで走りの楽しさを再定義する挑戦
本田技研工業(以下、ホンダ)は2026年2月12日、新型小型電気自動車(EV)「スーパーワン(Super-ONE)」の先行Webサイトを公開しました。2025年のジャパンモビリティショーでプロトタイプが初公開されて以来、大きな注目を集めていたこのモデルは、いよいよ2026年に日本を皮切りに量産モデルが発売される予定です。
本記事では、単なる移動手段を超え、「走る喜び」を再定義するスーパーワンの全容と、その圧倒的な魅力を深掘りしていきます。
スーパーワンの特徴、コンセプト:日常を刺激に変える「e:Dash BOOSTER」

スーパーワンのグランドコンセプトは、**「e:Dash BOOSTER(イーダッシュブースター)」**です。
このコンセプトには、環境性能や日常の使い勝手の良さといったEV本来の価値に加え、ホンダならではの”FUN(楽しさ)”を追求するという強い意志が込められています。
日常の移動を「体験」へ
単なる合理的な移動手段ではなく、車内での体験を豊かなものにする多彩な仕掛けを採用し、日々の運転を刺激的で気持ちの高まる体験へと進化させることを目指しています。
操る喜びの新しいかたち
「EVでも心から楽しめるクルマをつくりたい」というホンダの想いが具現化されており、日常も感情も超えてゆくようなドライビング空間を提供します。往年のホンダファンならば、1980年代の「シティターボII」を彷彿とさせるこのアプローチに心躍ることでしょう。
スポーティーな運動性能
小型BEV(バッテリーEV)でありながら、非常に高いコーナリング性能と低重心を活かしたスポーティーな走りが大きな特徴です。軽EV由来の軽い車体との相乗効果により、開発担当者が「往年のテンロクホットハッチを彷彿とさせる走り」と自信を持って語るほどの仕上がりとなっています。
スーパーワンに搭載される「BOOSTモード」とはどのような機能ですか
スーパーワンの走りの核となるのが、専用に開発された**「BOOSTモード」**です。
この機能は、単に速度を上げるためのものではなく、ドライバーの感性を刺激するために設計されています。
出力の最大化
BOOSTモードを起動することで、パワーユニットの性能を最大限に引き出し、出力を拡大させます。ベース車両であるN-ONE e:が最高出力64ps(軽自動車規格の自主規制上限値)であるのに対し、スーパーワンはこの制限を解き放ち、80ps程度、一部情報では110ps程度にまで高められると予想されています。
圧倒的な加速感
パワーユニットの制限を解き放つことで、視覚や聴覚、そして身体に伝わる加速感を通じて、ドライバーに高揚感のある走行体験を提供します。車重が1トン前後の軽量ボディに対して、この高出力パワートレインが生み出す加速は、まさに現代版ホットハッチの真骨頂と言えるでしょう。
五感への訴求
後述するサウンドやシフト制御と連動することで、EV特有のシームレスな加速とは一線を画す、ドラマチックな加速演出を可能にしています。これにより、「EVは静かで退屈だ」という先入観を覆す可能性を秘めています。
この新型EVのデザインの特徴や専用ボディカラーについて

スーパーワンのデザインは、一目で「走りの良さ」を予感させる、エモーショナルで機能的なものとなっています。
エクステリアのこだわり
ロー&ワイドなスタンス
大きく張り出したスーパーワン専用のブリスターフェンダーが採用されており、踏ん張りの効いた力強いシルエットを実現しています。全幅は、ベースとなるN-ONE e:の1,475mmから75mm拡大され、普通車登録(5ナンバー)となる約1,550mm程度になると見込まれます。
この大胆なワイドボディ化により、トレッド(左右のタイヤ間の距離)も拡大。これはコーナリング時の安定性を劇的に向上させると同時に、視覚的なインパクトを生み出しています。
空力と冷却の両立
エアロデザインは単なる造形美ではなく、空力性能と冷却効率を極限まで高めるよう設計されています。フロントバンパーのエアインテーク、サイドのエアカーテン、リアディフューザーなど、細部にわたって機能美が追求されています。
足元の存在感
15インチのアルミホイール(マットベルリナブラック+切削)が、スポーティーな外観をより一層引き締めています。タイヤサイズは185/60R15程度と予想され、これはN-ONE e:の標準サイズから大幅にワイド化されたものとなります。
専用ボディカラー:ブーストバイオレット・パール
スーパーワンの象徴となる専用ボディカラーとして、**「ブーストバイオレット・パール」**が設定されました。
このカラーは、宇宙に向かって上空を走る雷「ブルージェット」をモチーフにしており、EVの先進性と、内側に秘めた爆発的なパワーを表現しています。深みのある紫色に輝くパールの輝きが、光の当たり具合によって表情を変え、見る者を魅了します。
この特別なカラーは、単なる装飾ではなく、スーパーワンが目指す「内に秘めたエネルギー」「潜在的なパワー」という哲学を色彩で表現したものと言えるでしょう。
インテリアと装備

専用7インチTFT液晶メーター

走行状況やBOOSTモードの状態を直感的に伝える専用デザインのメーターを採用しています。中央にはスピードメーター、その周囲にはパワーメーター、バッテリー残量、航続可能距離などの情報が配置され、ドライバーが運転に集中しながら必要な情報を瞬時に把握できるよう設計されています。
BOOSTモード起動時には、メーター表示が変化し、視覚的にも高揚感を演出する仕掛けが施されている可能性があります。これは1980年代のシティターボIIが搭載していた「グラフィックターボメーター」の現代版とも言える試みです。
BOSEプレミアムサウンドシステム
8スピーカーを搭載し、車内を質の高い音響空間へと変貌させます。このシステムは、単に音楽再生の質を高めるだけでなく、後述するアクティブサウンドコントロールシステムとも連携し、走行時のエンジンサウンド演出にも一役買っていると考えられます。
その他の装備

ホンダセンシングが標準搭載され、衝突軽減ブレーキ、誤発進抑制機能、アダプティブクルーズコントロール、車線維持支援システムなどを採用。高速道路などでの渋滞時、自車の走行車線をキープするようステアリング操作をアシストする「トラフィックジャムアシスト(渋滞運転支援機能)」も搭載されます。
また、前席にはホールド性の高いセパレートシートを採用し、最適なドライビング姿勢を取ることが可能。電制パーキングブレーキも標準搭載され、停車中にブレーキペダルから足を離しても停車状態を保ち、アクセルを踏むと自動解除で再発進できるオートブレーキホールド機能も備えています。
エンジン車のような走行体験を再現する仕掛けには何がありますか
ホンダは、EVにおいて「エンジン車のような熱い走り」を再現するために、複数の高度な制御システムを連動させています。これこそが、スーパーワンが「単なる小型EV」ではなく、「走りを楽しむためのEVスポーツ」として際立つ理由です。
仮想有段シフト制御
本来、変速機を持たないEVにおいて、あたかも有段変速機を備えたエンジン車のような鋭いシフトフィーリングを擬似的に演出します。
この技術は、モーターの出力制御を巧みに調整することで、マニュアルトランスミッション車のシフトアップ時に感じる「タメ」や「繋がり」を再現します。アクセルを踏み込むと、1速、2速、3速といった段階的な加速感が体感でき、リズム感のあるドライビングを生み出します。
一般的なEVが持つリニアで淡々とした加速特性とは一線を画し、ドライバーに「クルマを操っている」という実感を強く与える仕掛けとなっています。この技術は、かつてシティターボIIに搭載されていた「スクランブルブースト」機能(エンジン回転数が4,000rpm以下でスロットル全開にすると、10秒間だけ過給圧を約10%アップする機能)の精神的な後継者とも言えるでしょう。
アクティブサウンドコントロールシステム
走行状況やシフト制御と連動し、迫力ある仮想エンジンサウンドを車内に響かせます。
EVは本来、モーター駆動のため非常に静かな乗り物ですが、スポーツドライビングの醍醐味である「音」が欠けています。スーパーワンは、このアクティブサウンドコントロールシステムにより、アクセルを踏み込むとBOSEサウンドシステムから高性能エンジンを思わせる力強いサウンドが再生されます。
このサウンドは、単なる録音された音の再生ではなく、リアルタイムのアクセル開度、車速、仮想シフト段数などに応じて動的に変化します。これにより、加速感と聴覚情報が一致し、ドライバーの感性を強く刺激します。
体感的なフィードバック
これらの制御にBOOSTモードによる加速、さらには振動などの体感要素を組み合わせることで、視覚・聴覚・触覚のすべてで「操っている実感」を得られる仕掛けになっています。
例えば、仮想シフトアップ時には、わずかな加速の途切れとともに、シート(またはステアリング)を通じて微細な振動が伝わる可能性があります。これにより、「今、シフトが入った」という身体的なフィードバックが得られ、運転の没入感が高まります。
この三位一体の演出により、スーパーワンは「静かで退屈」というEVの固定概念を打ち破り、「五感で楽しめるEV」という新しいカテゴリーを切り拓こうとしているのです。
ベース車両「N-ONE e:」との関係性と差別化ポイント

スーパーワンを理解する上で、そのベースとなる「N-ONE e:」について知っておくことは重要です。
N-ONE e:の概要
N-ONE e:は、2025年9月に発売されたホンダ初の軽乗用EV(電気自動車)です。価格は269万9,400円から319万8,800円で、「e: Daily Partner(イー デイリー パートナー)」をグランドコンセプトに、日常の移動と暮らしを豊かにするパートナーを目指して開発されました。
最大の特徴は、軽EVトップクラスの航続距離295km(WLTCモード)を実現した点です。これは、競合する日産サクラの180kmを大きく上回る数値で、バッテリー容量を増やすだけでなく、優れた電費性能(105Wh/km)により達成されました。
スーパーワンとの主な違い
車格の違い
N-ONE e:は軽自動車規格(全幅1,475mm)内に収まりますが、スーパーワンは全幅が約75mm拡大され、普通車登録(5ナンバー)となります。これにより、軽自動車の自主規制である最高出力64psの制限からも解放されます。
出力の違い
N-ONE e:の最高出力が64ps(47kW)であるのに対し、スーパーワンは80ps〜110ps程度に向上すると予想されています。これは約25〜70%の出力向上となり、加速性能や高速走行時の余裕に大きな差が生まれます。
走行性能の違い
ワイドトレッド化により、コーナリング時の安定性が劇的に向上。サスペンションも専用にチューニングされ、よりスポーティーな乗り味が実現されています。N-ONE e:が「日常の足」として快適性を重視しているのに対し、スーパーワンは「運転する楽しさ」を前面に押し出しています。
航続距離の違い
N-ONE e:の295kmに対し、スーパーワンは約250km(推定)と若干短くなります。これは、高出力化とワイドタイヤによる転がり抵抗の増加が影響していますが、日常使用には十分な距離と言えるでしょう。
価格の違い
N-ONE e:の上位グレードが319万8,800円であることを考えると、スーパーワンは350万円〜400万円程度からのスタートが見込まれています。一部の予想では389万円という具体的な数字も挙がっています。
国のEV補助金(CEV補助金)の対象となる可能性が高く、2026年1月から大幅に改定された補助金制度では、EVに対して最大130万円の補助が受けられるケースもあります。実質負担額はさらに抑えられる可能性があります。
「令和のブルドッグ」――1980年代の伝説が蘇る
スーパーワンを語る上で避けて通れないのが、1980年代に一世を風靡したホンダ「シティターボII」の存在です。
シティターボII「ブルドッグ」とは
1983年10月に登場したシティターボIIは、その特徴的な外観から「ブルドッグ」の愛称で親しまれました。大地に足を踏んばり、今まさに走り出さんと身構えるブルドッグのイメージ――みなぎる力が筋肉となって全身にあふれ出たような、際立った走りの個性が、そのままデザインへと発展したのです。
ワイドボディへの挑戦
最大の特徴は、ダイナミックフェンダーと呼ばれた大型のブリスターフェンダーでした。トレッドはフロントで30mm、リアで20mm拡大され、全幅は55mmも広がりました。これにより、1.2Lという小排気量ながら、堂々たる存在感を放つホットハッチが誕生したのです。
高性能エンジン
110ps/5,500rpmという当時としては驚異的な出力を、わずか1.2Lのエンジンから引き出しました。空冷式インタークーラーを1.2Lクラスで初めて装備し、当時世界最高レベルの過給圧0.85kgf/cm²を実現。
さらに、エンジン回転数が4,000rpm以下でスロットルを全開にすると、10秒間だけ過給圧が約10%アップする「スクランブルブースト」という飛び道具も搭載されていました。この「ドッカンターボ」と呼ばれる加速感は、当時の若者たちを虜にしたのです。
伝説のワンメイクレース
1984年3月から鈴鹿サーキットで開催された「シティブルドックレース」は、F2レース(現在のスーパーフォーミュラ)の前座レースとして大人気を博しました。無限製の超ワイドボディキットを装着したN2車両で争われたこのレースは、スピンや接触が続出する荒れたレース展開で「鈴鹿の新日本プロレス」とまで称され、エンターテインメント性抜群のイベントとして記憶されています。
スーパーワンに受け継がれるDNA
スーパーワンの開発過程において、このシティターボIIの精神が色濃く反映されています。
開発担当者によれば、「製作途中から非対称グリルや、インテリアに青い挿し色を入れるなど、ブルドックをオマージュした要素を組み入れた」とのこと。往年のホンダファンにとっては感涙ものの配慮です。
ブリスターフェンダーによるワイドボディ化、小排気量(小容量バッテリー)ながら高出力、そして「スクランブルブースト」の精神的後継者である「BOOSTモード」――これらすべてが、40年以上の時を超えて令和に蘇った「ブルドッグの魂」なのです。
発売時期と価格予想、そして市場戦略
発売時期
ホンダは公式に「2026年より日本を皮切りに発売を予定している」と発表しています。複数の情報筋によると、具体的な発売時期として以下の予想が立てられています:
2026年2月12日に先行Webサイトが公開されたことから、発売の約3〜4ヶ月前にティーザーサイトが公開されるホンダの通例に従えば、2026年5月〜6月の発売が最も可能性が高いと考えられます。
価格予想
公式な価格はまだ発表されていませんが、いくつかの情報から予想が可能です:
この価格設定の根拠は以下の通りです:
- ベース車両であるN-ONE e:の上位グレードが319万8,800円
- 普通車登録となることでの価格上昇
- 高出力パワートレインと専用装備による付加価値
- 限定的な生産台数による量産効果の薄さ
ただし、2026年1月から改定されたEV補助金制度を活用すれば、条件次第で最大130万円の補助が受けられる可能性があり、実質300万円台前半での購入も視野に入ります。
グローバル展開
日本での発売後、小型EVの需要が高い英国やアジア各国でも順次展開される計画です。特に英国市場では「Super-N」という名称での展開が予定されており、狭い道路事情にマッチした小型ホットハッチとして大きな期待が寄せられています。
実際に英国でテスト走行を行った際、「英国は狭い道ばかりなのにヨーロッパ大陸で生産された大型モデルに我慢して乗っている状態で、こういった小さなホットハッチが本当に欲しいようです。実際にスーパーワンに乗せたら一様にみんながおもしろいと言ってくれました」という開発担当者のコメントからも、グローバル市場での期待の高さが伺えます。
ライバル車との比較:スーパーワンの立ち位置
軽EVセグメント
日産サクラ(259万円〜308万円)や三菱eKクロスEV(254万円〜308万円)などの軽EVは、同じ電動化技術を用いていますが、スーパーワンとは明確に方向性が異なります。
軽EVが「日常の足として実用性と経済性を重視」しているのに対し、スーパーワンは「走りの楽しさを追求したEVスポーツ」という独自のポジショニングを確立しています。
コンパクトEVスポーツセグメント
このセグメントには、実は明確な競合車が存在しません。欧州ではMINI Electricなどがありますが、価格帯が500万円以上と大きく異なります。
BYDのコンパクトEVは価格競争力がありますが、スポーツ性能や「走る楽しさ」という点ではスーパーワンに及びません。
つまり、スーパーワンは「350万円前後で購入できる、走りを楽しめる本格的なEVスポーツ」という、他に類を見ない独自のポジションを狙っているのです。
2026年東京オートサロンでの展開:無限の存在
2026年1月に開催された東京オートサロンでは、無限(M-TEC)によるスーパーワンのカスタマイズコンセプトモデルも公開され、アフターパーツ業界からも熱い視線が注がれています。
無限は、かつてシティターボIIのワンメイクレース用車両を製作した実績があり、その伝統が令和のスーパーワンにも引き継がれる形となりました。これは、スーパーワンが単なる市販車に留まらず、モータースポーツやカスタマイズ文化とも深く結びついていく可能性を示唆しています。
一部では、スーパーワンによるワンメイクレースの開催も噂されており、かつての「シティブルドックレース」のような熱狂が再び訪れるかもしれません。
まとめ:2026年の発売に向けて加速する「スーパーワン」
スーパーワンは、単なる小型EVの枠に収まらない、ホンダの「走りの遺伝子」を色濃く受け継いだモデルです。
「EVは退屈だ」という概念を覆す可能性を秘めたスーパーワン。BOOSTモード、仮想有段シフト制御、アクティブサウンドコントロールという三位一体の技術により、五感すべてで楽しめる新しいEV体験を提供します。
1980年代のシティターボII「ブルドッグ」の魂を受け継ぎながら、最新の電動化技術で令和の時代に蘇ったこのモデルは、ホンダが本気で「走りの楽しさ」を追求した結果と言えるでしょう。
2026年の日本発売に向け、今後公開されるさらなる詳細スペックや、開発者によるストーリー、そして実車の試乗レポートからも目が離せません。
ホンダが放つこの挑戦的なEVスポーツが、自動車業界にどのような衝撃を与えるのか――その答えは、もうすぐ明らかになります。
※本記事の内容は、2026年2月時点の先行公開情報および各種報道に基づいています。車両は試作車のため、量産モデルでは一部仕様が異なる場合があります。価格、スペック、発売時期などの詳細は、今後の公式発表をご確認ください。
【参考情報】
- ホンダ公式プレスリリース
- ジャパンモビリティショー2025展示内容
- グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2025出展情報
- 各自動車専門メディアの報道
【関連記事】
- N-ONE e:の詳細スペックと試乗レポート
- シティターボII「ブルドッグ」の歴史と魅力
- 2026年度EV補助金制度の詳細解説

