自動車業界に身を置いて46年、これまで幾多のモデルチェンジやパワートレインの変遷を目の当たりにしてきた業界関係者として、今回ほど「基幹部品そのものの構造」が主役に躍り出た改良は、正直なところそう多くはなかったと感じています。
2026年9月1日、レクサスは主力コンパクトクロスオーバーSUV「NX」の大幅改良モデル(プロトタイプ)を世界初公開しました。発売は2026年末以降、各地域で順次スタートする予定です。今回の目玉は、なんといっても駆動ユニットを一体化した新開発の「eアクスル」の採用です。本稿では、この eアクスルという部品がそもそもどのような役割を担っているのかを技術的な視点から解説したうえで、それが新型NXにどう活かされているのかを、長年現場でパワートレインの変遷を見てきた業界関係者としての目線でじっくりと掘り下げていきたいと思います。
eアクスルとは何か ― 電動車の性能を左右する「駆動の中枢」
モーター・インバーター・減速機を一体化した駆動ユニット
eアクスル(eAxle)とは、駆動用モーター、電力を制御するインバーター(パワーコントロールユニット/PCU)、そしてモーターの回転を車輪に伝えるための減速機(トランスアクスル)という、本来それぞれ別体で搭載されていた三つの機能部品を、ひとつのユニットとして一体化した駆動システムのことを指します。
従来のハイブリッド車やEVでは、モーター本体とインバーター、そしてギヤボックスに相当する減速機構が、それぞれ独立した部品としてエンジンルームやフロア下に配置されるケースが一般的でした。これらを個別に搭載する場合、部品間をつなぐ配線やハウジング、防振・防水のための構造がそれぞれに必要となり、どうしても全体としての体積や重量がかさんでしまいます。
eアクスルは、この三つの機能を工場出荷段階で一つの筐体(ハウジング)にまとめてしまうことで、部品点数と配線経路を大幅に削減し、駆動系全体をコンパクトにまとめ上げる発想から生まれた技術です。
小型・軽量化がもたらす走行性能への恩恵
三位一体構造の最大のメリットは、なんといっても「小型・軽量化」と、それに伴う「低重心化」です。
駆動ユニット全体の体積が縮小されると、車両設計の自由度が大きく広がります。具体的には次のような効果が期待できます。
- 搭載位置を下げられる
― ユニットが小さくなる分、車体のより低い位置に搭載できるようになり、車両全体の重心が下がります。重心が下がれば、コーナリング時の車体のロール(傾き)が抑えられ、操縦安定性が向上します。 - 軽量化による運動性能の向上
― 駆動ユニット自体の重量が軽くなることで、いわゆる「ばね上重量」が軽減され、加減速やハンドリングのレスポンスがよりダイレクトになります。 - 室内空間・ボディ設計への波及効果
― 駆動系がコンパクトになることで、フロア下や前後アクスル周辺のパッケージングに余裕が生まれ、室内空間の確保や、後述するボディ剛性強化のための構造材追加といった、他の設計要素にも好影響を及ぼします。
インバーターのSiC(シリコンカーバイド)化とエネルギー効率
もうひとつ、eアクスルの真価を語るうえで欠かせないのが、インバーターに用いられるパワー半導体の進化です。従来主流であったシリコン(Si)製の素子に代えて、電気抵抗による損失(スイッチング損失)が少ないSiC(シリコンカーバイド)素子を採用する例が増えています。
SiC素子は、電力を変換する際の熱損失がシリコン素子より小さく、同じ電力を扱う場合でも発熱量を抑えられるという特性を持っています。これにより、次のような効果が生まれます。
- インバーターの冷却系統を簡素化・小型化できる
- 電力変換時のロスが減ることで、バッテリーに蓄えたエネルギーをより効率よく駆動力に変換できる
- 結果として、実燃費・電費の向上に直結する
つまりeアクスルは、単に「部品を一つにまとめて小さくした」というだけの話ではなく、モーター・減速機・インバーターという三要素を統合設計することで、電気エネルギーを無駄なく駆動力に変換する「効率の塊」として進化してきたユニットだと理解していただくのが正確でしょう。次世代の電動車にとって、この一体化構造は今後さらに標準的な存在になっていくと、長年この業界を見てきた身としては強く感じています。
新型レクサスNX ― “ビッグマイナーチェンジ”の域を超えた大改良
“DISCOVER YOUR EDGE”というテーマに込められた狙い
2014年の初代デビュー以来、機敏な走りとスタイリッシュなデザインで支持を集めてきたNXは、2026年7月末時点で90以上の国と地域で累計約190万台が販売され、レクサスのグローバルコアモデルとなっているモデルです。現行型は2021年の登場ですから、今回はその大幅改良、いわゆるビッグマイナーチェンジという位置づけになります。とはいえ、その中身はフルモデルチェンジ級と言っても過言ではないボリュームです。
今回の改良新型は、「DISCOVER YOUR EDGE」という開発テーマを掲げ、スポーティネスとユーティリティの両立という歴代NXの強みを継承しつつ、乗る人の日常に新たな刺激をもたらし、可能性を拡げる存在を目指したとされています。開発をリードしたチーフエンジニアは、目的地へまっすぐ向かうだけでなく、思わず遠まわりしたくなるような気持ちを呼び起こすクルマを追求したと語っており、単なる数値上のスペックアップにとどまらない「走る歓び」の再定義を狙っている点が印象的です。
ハイブリッドシステムの刷新 ― 新開発eアクスルとSiC素子の採用
先ほど解説したeアクスルの技術が、まさにこの新型NXの心臓部に投入されています。トランスアクスル・モーター・PCUを一体化した新開発のeアクスルを採用し、小型・軽量・低重心化を実現したうえで、インバーターのパワー素子に電気損失の少ないSiC(シリコンカーバイド)を採用したことで、燃費性能も従来型比で大幅に向上したとされています。
これは、先に述べた「三位一体構造による低重心化」と「SiC素子によるエネルギー変換効率の向上」という、eアクスルが持つ二つの本質的なメリットを、そのまま市販車の性能向上に落とし込んだ好例といえるでしょう。長年ハイブリッド車の技術動向を追いかけてきた立場から見ても、コンパクトSUVクラスでここまで踏み込んだ駆動系の刷新は、決して小さな出来事ではありません。
なお、パワートレインのラインアップは、PHEVの「450h+」を筆頭に、ハイブリッドの「350h」、そして「300h」という三本柱で構成されます。450h+はシステム出力292〜326馬力・0-100km/h加速6.0秒、350hはシステム出力190〜245馬力、300hはシステム出力197馬力・0-100km/h加速9.2秒とされており、グレードごとに明確な性格分けがなされている点も注目したいところです。
PHEV「450h+」― EV航続距離140km超という進化
今回の改良の中でも、電動化時代のニーズに最も直結するのが、PHEVモデル「NX450h+」における電池性能の大幅な向上です。NX450h+は、電池出力が8%、電池容量が30%向上した新開発のバッテリーを搭載し、EV航続距離も大幅に向上しました。具体的には、EV航続距離が140km超へと劇的に進化し、急速充電にも対応するとされています。
さらに興味深いのは、バッテリーの搭載方法そのものにも手が加えられている点です。バッテリーセルの配置方向を従来の前後方向から横方向に変更し、ボディ全体の横方向の剛性を向上させるとともに、バッテリー搭載位置が下がることによる低重心化を実現しており、これが操縦性・走行安定性の向上にも寄与しているとのことです。バッテリーという「重量物」の置き方一つで、走りの質までコントロールしようという設計思想は、電動化時代のクルマづくりの成熟を象徴しているように思えます。
日常の通勤・買い物といった近距離移動であれば、ガソリンをほぼ使わずにこなせる領域まで踏み込んできたことになり、プラグインハイブリッドという選択肢の実用性が、また一段引き上げられた格好です。
ボディ剛性の強化と足回りの緻密なチューニング
走行性能の進化は、パワートレインだけにとどまりません。車体面でも、フロアクロスの追加やトンネル部の補強でフロア剛性を約25%、サスペンションタワー部の一体化で剛性を約30%向上させたとされています。
こうした剛性強化の効果を実際の路面で確認するべく、トヨタの開発拠点「TTC-S」やドイツ・ニュルブルクリンクでの走り込みを経て、ロードノイズの低減とリニアなハンドリングを磨き上げたとのことです。実際の走行テストを通じて、乗り心地の質感と操縦性の両立を丁寧に詰めていくというプロセスは、地道ではありますが、最終的な商品力に確実に反映される部分です。
ステアリング周りにも改良が及んでおり、ステアリングは360mmへと小径化され、切れ角に応じてギヤ比が変化する「バリアブルラックギヤ」も新採用されました。アクセルペダルはストロークの摩擦を低減し、より緻密な車速コントロールを可能にしているとされ、ドライバーの操作に対する応答性を細部まで作り込んでいる印象を受けます。
ボディサイズについては、全長4690mm(従来型比+30mm)×全幅1865mm×全高1660mm、ホイールベース2690mmとなっており、全幅・全高・ホイールベースは踏襲しつつ、全長のみをわずかに延長するという、慎重なパッケージング変更にとどめている点も特徴です。
五感に訴える新装備「Sensory Concierge」
技術面の進化と並んで、今回のNXでもうひとつ語っておきたいのが、車内体験そのものを演出する新機能「Sensory Concierge(センサリーコンシェルジュ)」です。
インテリアでは、12.3インチ液晶メーターと14インチマルチメディアディスプレイを水平配置し、視線移動を最小限に抑えた構成としたうえで、イルミネーション・音楽・空調・シート温度・フレグランスを連動させ、「INSPIRE(高揚)」「RADIANCE(集中)」「REVITALIZE(リラックス)」という3つのモードで車内空間を演出する新機能が搭載されます。まるで自宅のリビングルームのような寛ぎを、走行中の車内で味わえるという触れ込みです。
光・香り・音・空調・シート温度という五感に働きかける要素を、ひとつのシステムとして統合制御するという発想は、単なる快適装備の追加というより、「移動時間そのものの価値」を再定義しようとする試みと捉えるべきでしょう。電動化によって静粛性が高まった車内だからこそ、こうした演出がより効果的に感じられるという側面もあるはずです。
先進安全装備「Lexus Safety System +」もさらに進化
安全装備の面でも着実なアップデートが図られています。「Lexus Safety System +」も強化され、交差点での出会い頭事故に対応するプリクラッシュセーフティの作動車速域を拡大したほか、高速道路走行中にドライバーの異常を検知すると自車を路肩へ自動で寄せて停車する機能を新たに追加されました。さらに、ブラインドスポットモニターは自転車やバイクの検知にも対応するなど、日常のさまざまな場面を想定した機能拡充が随所に見られます。
ドライバーの異常時に自動で路肩停車を行う機能は、高速道路という高リスクな環境における「もしも」への備えとして、電動化・自動化技術が安全性向上にどう貢献できるかを示す好例だと感じます。
外観デザインの刷新ポイント
エクステリアについても大きく手が加えられています。ヘッドライトとコーナリングランプをグリルとシームレスに融合させた新しい顔つきに進化し、ターンシグナルとデイタイムランニングランプを一体化した「ダブルライン」ヘッドライトに加え、レクサス初となる「ダブルLシグネチャー」のリヤコンビランプを採用し、ワイド&ローな佇まいを強調しています。加えて、モール類やアウターミラーはクロームメッキから黒基調へと刷新され、塊感のあるスポーティさが際立つデザインとなりました。ボディカラーには新色「ソニックテラス」を含む全9色が用意される予定です。
業界関係者としてのまとめ ― eアクスルが示す次世代電動車の方向性
今回の新型NXを見ていて改めて感じるのは、eアクスルという駆動ユニットの一体化技術が、単なる「軽量化のための工夫」にとどまらず、低重心化による走行安定性、SiC素子による効率向上、そしてボディ剛性強化との相乗効果まで含めた「クルマ全体の完成度を底上げする基盤技術」になりつつあるということです。
PHEVでEV航続距離140km超を実現しながら、ボディ剛性やステアリングフィールまで含めて走りの質を磨き上げ、さらに車内空間の演出にまで踏み込んでくるあたり、レクサスというブランドが電動化時代においても「走る歓び」と「上質な移動体験」の両方を諦めないという姿勢を明確に打ち出してきたことがうかがえます。
なお、価格等の詳細はまだ明らかになっておらず、発売は2026年末以降とアナウンスされている段階です。正式な価格やグレード構成、日本市場への導入時期などが判明次第、あらためて技術的な視点から掘り下げていきたいと思います。


