はじめに
2025年1月に就任したトランプ大統領は、選挙期間中から「アメリカ・ファースト」の経済政策を掲げ、特に鉄鋼業界における保護主義的な関税政策の強化を公約してきました。この政策が実行に移される中、日本の自動車解体市場においても大きな影響が予想されています。
本記事では、トランプ政権の関税政策が日本の鉄鋼価格、そして解体車両の引取価格にどのような影響を与えるのか、さらに自動車販売会社や解体業者が今後どのような戦略を取るべきかについて、データに基づいた分析と具体的な提案を行います。
トランプ大統領の関税発言の概要
トランプ大統領は就任後すぐに、「アメリカの鉄鋼産業を守るため」として、主要貿易相手国からの鉄鋼輸入に対して最大25%の追加関税を課す政策を発表しました。特に中国、日本、韓国、EUからの鉄鋼製品が対象となっており、日本からの自動車関連鉄鋼製品にも高い関税率が適用される見通しです。

トランプ大統領はさらに、「相手国が米国製品に対して同等の市場開放を行わない場合、関税率をさらに引き上げる可能性がある」とも発言しています。
この政策は、前回のトランプ政権時(2017-2021年)に実施された「セクション232」の鉄鋼関税政策を拡大・強化したものと言えます。前回は主に中国を対象としていましたが、今回は日本を含むより広範な国々が対象となっています。
日本の鉄鋼資源の輸出先と割合
日本の鉄鋼輸出における主要な輸出先と割合を見てみましょう。財務省の2024年貿易統計によると、日本の鉄鋼輸出の地域別割合は以下の通りです:

- アジア地域:約65%(内訳:中国20%、韓国15%、タイ10%、その他アジア20%)
- 北米地域:約20%(内訳:アメリカ18%、カナダ2%)
- 欧州地域:約10%
- その他地域:約5%
特にアメリカ向けの輸出は、高付加価値の自動車用鋼板や特殊鋼が中心となっており、金額ベースでは全体の約18%を占めています。これは数量ベースでの割合(約12%)よりも高く、日本の高品質な鉄鋼製品がアメリカ市場で高く評価されていることを示しています。
関税発言が鉄鋼価格に与える影響
トランプ大統領の関税政策が実施された場合、日本の鉄鋼市場には以下のような影響が予想されます

1. 輸出鉄鋼価格の下落
アメリカ向け輸出の減少により、国内で余剰となった鉄鋼製品が市場に流れることで、短期的には国内の鉄鋼価格が下落する可能性があります。日本鉄鋼連盟のデータによれば、過去に類似の貿易摩擦が発生した際には、国内の鉄鋼価格が約5〜10%下落した実績があります。
2. 国内向け鉄スクラップ価格の変動
輸出向け鉄鋼生産の減少に伴い、原材料である鉄スクラップの需要も減少すると予想されます。これにより、短期的には解体車両から回収される鉄スクラップの価格も下落する可能性があります。
3. 中長期的な価格調整
しかし中長期的には、日本の鉄鋼メーカーがアジア市場へのシフトを強化することで、徐々に需給バランスが回復し、価格も安定化すると予測されます。特に中国の「一帯一路」政策に関連するインフラ需要が増加することで、アジア市場での鉄鋼需要は今後も拡大すると見られています。
解体車両の引取価格への影響
鉄鋼価格の変動は、解体車両の引取価格に直接的な影響を与えます。解体車両の価値の約60〜70%は、回収される鉄スクラップの価値によって決まるためです。
短期的影響(〜6ヶ月)
中長期的影響(6ヶ月〜2年)
自動車販売会社が取るべき戦略
このような市場環境の変化に対して、自動車販売会社は以下のような戦略を検討すべきでしょう

1. 下取り価格設定の見直し
鉄スクラップ価格の下落に伴い、特に鉄含有量の多い大型車両の下取り価格を見直す必要があります。価格下落を見越した柔軟な価格設定戦略を導入することで、将来的なリスクを軽減できます。
2. 解体業者との直接取引強化
複数の仲介業者を通すことなく、解体業者と直接取引を行うことで、市場価格の変動に対してより柔軟に対応できます。特に地域密着型の解体業者との関係構築が重要です。
3. 下取り車両の流通経路の多様化
特定の解体業者や市場に依存せず、複数の流通経路を確保することで、リスク分散を図ることができます。場合によっては、海外バイヤーとの直接取引も検討価値があります。
4. 付加価値部品のリユース促進
鉄スクラップ価値が下落する中、付加価値の高い部品(エンジン、トランスミッション、電装部品など)のリユース促進に注力することで、解体車両の総合的な価値を維持することができます。
自動車解体業者が取るべき戦略
解体業者にとっても、市場環境の変化に対応した戦略の見直しが必要です

1. 付加価値部品回収の強化
鉄スクラップ価格の下落を補うため、高付加価値部品(触媒、電子部品、レアメタル含有部品など)の回収効率を高めることが重要です。これには、解体技術の向上や専門知識の蓄積が必要となります。
2. アジア市場向け輸出の拡大
アメリカ市場での需要減少を補うため、中国、東南アジアなどの成長市場への輸出を強化することが有効です。特に環境規制の強化が進む中国市場では、日本の高品質なリサイクル部品への需要が高まっています。
3. デジタル化と効率化の推進
車両引取価格の下落に対応するため、AIやIoTを活用した解体プロセスの効率化、在庫管理システムの導入などを通じて、コスト削減を図ることが重要です。
4. 環境対応の強化
環境規制の強化に先行して対応することで、競争優位性を確保できます。特にカーボンニュートラルに配慮した解体プロセスの導入は、今後の重要な差別化要因となるでしょう。
今後の市場動向の予測
トランプ政権の関税政策と鉄鋼市場の変化を踏まえ、今後2年程度の市場動向を予測します
- 2025年前半
・関税政策の本格実施に伴い、鉄スクラップ価格は10〜15%程度下落
・解体車両の引取価格も同程度下落し、特に大型車両の価格下落が顕著に
・自動車販売会社の下取り価格設定に混乱が生じる可能性あり - 2025年後半〜2026年前半
・日本の鉄鋼メーカーのアジア市場シフトが進み、鉄スクラップ価格が徐々に回復
・解体業者の淘汰が進み、技術力・資本力のある業者への集約が加速
・自動車メーカーと解体業者の直接連携が強化され、サーキュラーエコノミーの概念が浸透 - 2026年後半以降
・アジア市場での日本製鉄鋼・スクラップの需要が安定し、価格も安定化
・環境規制の強化により、高度なリサイクル技術を持つ日本の解体業者の競争力が向上
・EVの普及に伴い、バッテリーリサイクルなど新たな付加価値源が拡大
まとめ:変化を好機に変える戦略的思考を

トランプ政権の関税政策は、短期的には日本の鉄鋼・解体市場にネガティブな影響をもたらすでしょう。しかし、この変化を単なるリスクとしてではなく、事業構造を見直し、より持続可能なビジネスモデルへと転換する好機と捉えることが重要です。
特に付加価値部品の回収強化、アジア市場への展開、デジタル化の推進などは、関税政策の有無にかかわらず、今後の業界に必要な変革であり、早期に着手することで競争優位性を確保できるでしょう。
自動車販売会社と解体業者が協力し、情報共有を行いながら、この市場変化に対応していくことが、業界全体の持続的発展につながります。
ご注意点:
本記事は2025年3月13日時点の情報に基づいて作成されています。最新の情報については、各種公的機関の発表や専門機関のレポートをご確認ください。
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