自動車の未来は、もうエンジンルームではなくサーバールームで決まる。
そんな言葉が大げさに聞こえるなら、あなたはまだ「CASE以前」の感覚で業界を見ているかもしれない。コネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Shared)、電動化(Electric)——いわゆるCASEが自動車産業を根底から揺るがしている今、私たち自動車業界の人間に問われているのは、「いかに良いクルマを作るか」だけでなく、「どんなソフトウェア戦略でクルマの価値を定義するか」という、まったく異質の問いである。
そんな時代に、自動車業界人として年に一度は必ず覗いておきたい展示会がある。それが、2026年4月8日(水)〜10日(金)の3日間、東京ビッグサイトで開催される**「Japan IT Week【春】2026」**だ。今回はこのイベントを、自動車業界に従事するひとりの人間として、徹底的に深掘りしていく。
Japan IT Week【春】2026 とは何か——日本最大のIT総合展、その全貌

開催概要:3日間で1,100社、来場者6万人規模の”情報の海”

会期は2026年4月8日(水)から10日(金)の3日間、東京ビッグサイト(東ホール1〜3・7・8、西ホール1〜4)で開催される。出展社数は1,100社、来場者数は60,000名を予定している。主催はRX Japan株式会社で、年間を通じて東京・大阪・名古屋・幕張の全国4都市で開催されており、年間来場者数は10万人を超える日本最大クラスのITイベントだ。
開催時間は10:00〜17:00と比較的コンパクトだが、出展社1,100社という規模を考えると、3日間あっても回りきれないほどの情報量が詰まっている。事前に「どこを重点的に攻めるか」の作戦を立ててから臨むのが賢明だ。
なお、アクセスは、りんかい線「国際展示場駅」から徒歩約7分、またはゆりかもめ「東京ビッグサイト駅」から徒歩約3分。東京駅からはりんかい線経由で約25分と好アクセスだ。
6つの専門展の構成:システム開発から運用・保守まで完全網羅

Japan IT Week【春】は、以下の6つの専門展で構成されており、IT関連のあらゆる課題を一気に解決できる設計になっている。
- ソフトウェア受託開発・開発支援 展
(旧称:ソフトウェア&アプリ開発 展):アジャイル・スクラッチ開発、UI/UXデザイン、ノーコード・ローコード開発、オフショア開発など - 組込み・エッジ・IoT開発 EXPO
(旧称:IoT・エッジコンピューティング EXPO):IoTプラットフォーム、エッジAI、通信モジュールなど - 情報セキュリティ EXPO:
サイバー攻撃対策、ゼロトラストセキュリティ、IT資産管理など - データセンター EXPO:
サーバー、ストレージ、冷却装置、生成AI向けGPU/NPUなど - IT人材不足対策 EXPO:
人材派遣、採用支援、リスキリング、フリーランスマッチングなど - 情シス応援 EXPO:
社内ヘルプデスク支援、キッティング効率化、SaaS管理など
さらに、同会場では「Japan DX Week」「営業・デジタルマーケティング Week」「EC・店舗 Week」も同時開催されており、一度の来場登録でこれら全ての展示会への入場が可能だ。1枚のバッジで会場全体を自由に回れる仕組みは、情報収集の効率化という意味で非常に嬉しい設計である。
2026年春展の目玉——新設ゾーンと特別企画を徹底解剖

AI・新技術を軸にした新設ワールドが登場
2026年春展では、最新技術トレンドを反映した新ゾーンが複数設けられる。
オーダーメイドAI開発ワールド
汎用的なAIサービスでは対応しきれない、**業務特化型・高精度なAI開発やPoC(概念実証)**を直接相談できるエリアが新設される。「生成AIは触ってみたが、自社の業務に本当に使えるのか分からない」という段階で悩んでいる企業担当者にとって、まさに打って付けのゾーンだ。自動車業界でいえば、品質検査の自動化、部品調達の需要予測、テレマティクスデータの解析など、具体的なユースケースを持参して相談に乗ってもらえるチャンスとなる。
AI営業ワールド
営業プロセスをAIで効率化する「AI営業エージェント」や「商談解析AI」が集結するエリアだ。完成車ディーラーやBtoB部品営業での活用という視点でも、具体的なツールの比較・検討ができる。
新規事業に伴うシステム開発支援ワールド
Webサービスやクラウド、生成AIを活用した新規事業を加速させるための伴走型パートナーが見つかるゾーン。MaaS(Mobility as a Service)やカーシェアリングプラットフォーム構築を考えている企業にとって、開発パートナーの発掘という意味で非常に有効だ。
見逃せないカンファレンス:Anthropic、AWS、IBMの生成AI最前線

今展示会の大きな魅力のひとつが、無料で参加できるカンファレンスの充実ぶりだ。
例えば、東洋大学の坂村健教授による「生成AIが創る次世代IoT」は、IoTの現場を見てきた研究者の視点から次世代モビリティの姿を描く講演として注目度が高い。また、Anthropic Japan、AWS、IBM、日立製作所、富士通といった各社のエキスパートによる「生成AIを活用したソフトウェア開発の最前線」は、自動車業界における車載ソフトウェア内製化の文脈で非常に示唆に富む内容が期待される。
特別企画セミナーも充実
来場登録の方法と入場時の注意事項

事前登録は必須、3分で完了する
展示会への入場には、事前の来場登録(無料)が必要だ。PCまたはスマートフォンから公式サイトにアクセスし、登録が完了したら来場者バッジをカラーで印刷して持参する。会場にも印刷機が用意されているが、スムーズな入場のために事前印刷が推奨されている。一度来場登録をすれば、Japan IT Week、Japan DX Week、営業・デジタルマーケティング Week、EC・店舗 Weekの全展示会に入場可能だ。
入場時の注意点
来場にあたっては以下の点を事前に把握しておこう。
- 商談型展示会のため18歳未満の入場には制限あり:
保護者(または18歳以上の引率者)の同行と同意が必要 - 会場内での写真撮影は原則禁止:
来場者・出展社を問わず、取材許可を得たプレス以外は撮影不可。ブース情報はメモやパンフレットで記録するよう心がけよう - VIP来場登録制度あり:
部長職以上の方は「VIP来場登録」を利用でき、より充実したサービスを受けることができる
自動車業界人として、今すぐ注目すべき4つの展示エリア

組込み・エッジ・IoT開発 EXPO——SDV時代の”神経系”がここにある
自動車業界が今まさに格闘している**SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型自動車)**の実現に、このExpoは直結している。
SDVとは何か。「ソフトウェアによって定義される自動車」——すなわち購入後もソフトウェアのアップデートを通じて継続的に進化する自動車のことだ。スマートフォンのように、ソフトウェアの追加や更新によって新しい機能の導入や既存機能の改善が可能である点が大きな特徴であり、経済産業省では「クラウドとの通信により、自動車の機能を継続的にアップデートすることで、運転機能の高度化など従来車にない新たな価値が実現可能な次世代の自動車」と定義している。
この変革の規模は驚異的だ。BCGと世界経済フォーラムの共同調査によれば、SDV市場は2030年までに6,500億ドル以上の価値創出ポテンシャルを持ち、OEMの自動車ソフトウェア・電子機器からの収益は2030年までにほぼ3倍(870億ドルから2,480億ドル)に成長すると試算されている。日本政府も無策ではない。経済産業省と国土交通省が2024年5月に公開した「モビリティDX戦略」では、2030年におけるSDVのグローバル販売台数を約3,500万台〜4,100万台と想定し、日系シェア3割を目指すことを目標として設定している。
そしてトヨタはすでに動いている。SDVのプラットフォーム「アリーン(Arene)」の開発を推進し、2026年に発売される次世代EVへの実装を予定。さらに、NTTと「モビリティAI基盤」を共同で構築することを発表し、両社で2030年までに5,000億円規模の投資を見込んでいる。
「組込み・エッジ・IoT開発 EXPO」では、こうした動きを支える車載OS、エッジAI処理、リアルタイムセンサーネットワーク、OTA(Over-the-Air)アップデート技術などが展示される。これらはまさに、SDV時代のクルマの”神経系”を構成する要素だ。自動車メーカーの開発者はもちろん、Tier1・Tier2のサプライヤー担当者こそ積極的に情報収集すべき場所である。
情報セキュリティ EXPO——コネクテッドカーを守る「デジタルの盾」
コネクテッドカーへのサイバー攻撃は、もはや「いつかの未来の話」ではない。
現在のクルマは1億行を超えるソフトウェアコードによって制御され、常時ネットワークに接続された”走るIT機器”とも呼ばれている。サイバーセキュリティはもはや情報システム部門の専門領域にとどまる問題ではなく、車両制御の乗っ取りによる人命へのリスク、大規模なリコール対応、さらには企業ブランドへの信頼喪失に直結する、経営リスクそのものとなっている。
数字はさらに衝撃的だ。セキュリティ企業Upstreamの調査によると、2023年に報道された自動車関連のサイバーセキュリティインシデントは295件に達し、過去4年間で50%以上増加した。攻撃の95%が遠隔で実行され、64%が悪意あるハッカーによるものだという。さらに「高影響」または「甚大な影響」に分類されるインシデントの割合は、前年の約20%から50%近くまで急増した。
法規制の面でも変化が起きている。国連WP29によるサイバーセキュリティ法規(UN-R155)が日本でも施行されており、メーカーには車両のライフサイクル全体を通してサイバーセキュリティマネジメントシステム(CSMS)の実装が義務付けられている。また、経済産業省はサプライチェーン全体のセキュリティ対策を客観的に可視化・評価するための新たな制度設計を進めており、2026年度中の制度開始を目指している。
「情報セキュリティ EXPO」では、ゼロトラストセキュリティ、車載向けEDR(エンドポイント検知・対応)、SBOM(ソフトウェア部品表)管理、OTAの安全なアップデート基盤といったソリューションが集結する。コネクテッドカーの普及に伴い、サプライチェーン上のすべての企業がこの問題と無縁でいられない時代が到来している。自社の立ち位置を確認する絶好の機会だ。
Japan DX Week——製造現場の「生産性革命」がここから始まる
自動車製造の現場もまた、デジタル化の波に飲み込まれつつある。いや、正確には「乗りこなす側」に回れなければ競争から脱落する時代だ。
「Japan DX Week」で展示されるAI・RPA技術は、**製造ラインの故障予知・予知保全(Predictive Maintenance)**との組み合わせで劇的な効果を生む。センサーデータをAIが常時解析し、設備の異常を人間が気づく前に検知する——これは単なるコスト削減ではなく、品質保証のあり方そのものを変える技術だ。従来の「壊れたら直す」から「壊れる前に対処する」への発想転換は、稼働率向上と廃棄部品削減の両立を実現する。
さらに、工場内のデジタルツイン構築、AGV(自動搬送車)の経路最適化、品質検査の画像AI自動化なども、このWeekで具体的なベンダーと出会うことができる。「DX推進を任されたが、何から手をつければいいか分からない」という製造部門の担当者こそ、このエリアに時間を割いてほしい。
データセンター EXPO——車両データを活かすためのインフラ基盤
SDV時代のクルマは、走るたびにデータを生み出す工場だ。位置情報、走行パターン、バッテリー状態、ドライバー挙動、センサーログ——これらを収集・分析・活用することで、フリートマネジメント、テレマティクス保険、予防保全サービスといった新たなビジネスが生まれる。
しかし、膨大なデータを処理するためのインフラなくして、それらのビジネスは成立しない。「データセンター EXPO」では、生成AI向けプロセッサ(GPU/NPU、HBM)、光電融合技術、データセンターのファシリティ(冷却装置、UPS、サーバー、ストレージ)といった展示が予定されている。
特にNVIDIAパートナーによる特別セッションは必見だ。自動運転向けの演算処理から、データセンター向けの大規模AI推論インフラまで、最新のGPUアーキテクチャがどのように次世代モビリティを支えるのかを直接学べる機会はそう多くない。
展示会で得た知見を、自動車業界の「実務」に落とし込む方法

展示会は参加すること自体が目的ではない。重要なのは、会場で得た刺激と情報を、自社の戦略・業務・キャリアにどう結びつけるかだ。
開発の効率化と内製化——生成AIエージェントを味方につける
「生成AIを活用したソフトウェア開発」のカンファレンスに象徴されるように、AIエージェントの活用は複雑化する車載ソフトウェア開発における「切り札」になりつつある。コード自動生成、テスト自動化、ドキュメント作成の効率化——これらは単なる省力化ではなく、スピードと品質を同時に高める手段だ。特にSDVの文脈では、ソフトウェア開発サイクルの高速化が競争優位に直結するため、エンジニア部門のリーダーは今すぐこの分野へのキャッチアップを始めるべきだ。
新規事業の創出——MaaS参入への具体的な一歩
「新規事業に伴うシステム開発支援ワールド」では、従来の車両販売モデルを超えた、MaaS(Mobility as a Service)やカーシェア・ライドシェアプラットフォームの構築を支援する伴走型パートナーを見つけることができる。アイデアはあっても「どこに頼めばいいかわからない」という企業にとって、複数社を同時に比較・相談できる展示会は最高の出会いの場だ。
IT人材の確保と育成——エンジニア不足への現実的な処方箋
自動車業界全体で深刻化しているのが、ソフトウェアエンジニアの人材不足だ。「IT人材不足対策 EXPO」では、IT人材の派遣・採用支援サービス、リスキリング(既存社員の再教育)プログラム、フリーランスマッチングサービスなどが一堂に会する。メカニカルエンジニアが多い自動車メーカーの組織で、ソフトウェア開発体制をどう構築するか——この会場にはその答えのヒントが散りばめられている。
セキュリティ対策のアップデート——リコールになる前に動く
コネクテッドカーのサイバーセキュリティ対策は、もはや「やっておいたほうがいい」ことではなく、UN-R155への準拠という意味で「やらなければならない」義務となっている。情報セキュリティ EXPOで最新のソリューションをサーベイし、自社のサプライチェーン全体でのセキュリティレベルを見直すための情報収集に充てるのは、極めて実務的な投資対効果が高い行動だ。
まとめ:「Japan IT Week 春 2026」は、自動車業界人の必修科目だ

かつて自動車エンジニアの勉強会といえば、走行性能、燃費、排気規制の話題が中心だった。しかし今、その場で話されるキーワードは「OTA」「エッジAI」「ゼロトラスト」「SDV」「生成AIエージェント」へと変わりつつある。
Japan IT Week【春】2026は、そうした時代の最前線に触れることができる、数少ない機会のひとつだ。展示会では気になる製品・ソリューションをその場でデモ体験し、自社の課題・導入イメージ・費用感などを専門家に直接相談できる。また、会場内のカンファレンスやセミナーは、普段会えない講師や企業の話をじっくり聴講できるトレンド把握の絶好の場だ。
しかしこの展示会の最大の価値は、製品情報の収集だけではない。「自動車業界の外にいるITのプロフェッショナルたちが、どんな問題を解こうとしているのか」を肌で感じることだ。彼らのソリューションの向こうに、自分たちの業界が直面している課題の答えが隠れている——そう気づいた瞬間から、展示会の風景はがらりと変わる。
2026年4月8日〜10日、東京ビッグサイトへ。
SDVという名の”走るコンピュータ”時代を勝ち抜くための武器を探す旅に、ぜひ出かけてみてほしい。
📋 Japan IT Week【春】2026 基本情報まとめ
| 項 目 | 内 容 |
|---|---|
| 会期 | 2026年4月8日(水)〜10日(金) |
| 会場 | 東京ビッグサイト 東1〜3・7・8ホール、西1〜4ホール |
| 開催時間 | 10:00〜17:00 |
| 出展社数(予定) | 1,100社 |
| 来場者数(予定) | 60,000名 |
| 入場料 | 無料(事前来場登録が必要) |
| アクセス | ゆりかもめ「東京ビッグサイト駅」徒歩3分 / りんかい線「国際展示場駅」徒歩7分 |
| 公式サイト | https://www.japan-it.jp/spring/ja-jp.html |
本記事は自動車業界に勤務する筆者が、展示会の公式情報および各種業界データをもとに個人の視点でまとめたものです。展示内容・登壇者は変更になる場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。



