2026年ダボス会議「対話の力」が照らす自動車産業の近未来:AI、EV、サプライチェーンの地殻変動にどう立ち向かうか

EV

自動車産業に携わる皆さん、そして未来のモビリティに関心を持つ読者の皆さん、こんにちは!

毎年恒例のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)が今年も開催されますが、2026年のテーマは**「対話の力(A Spirit of Dialogue)」**です。「対話と協働をいかに行動につなげるか」がキーワードとされており、地政学リスクの増大や社会の分断が深まる中で、グローバルリーダーたちがどのように具体的な解決策を見出すのか、注目が集まっています。

2026年1月19日から23日にかけて開催される第56回世界経済フォーラム年次総会では、地域や産業、世代を超えたステークホルダーが一堂に会し、対立が深まる世界における協力、新たな成長源の開拓、人材投資、責任あるイノベーションの推進、プラネタリー・バウンダリー内での繁栄の構築という5つの喫緊のグローバルな課題を中心に議論が展開されます。

自動車産業の従事者として、私はこの世界最高峰の会議で語られる内容が、私たちの未来の方向性を決定づける羅針盤だと考えています。特に、AIや自動運転技術、EVシフト、そして環境問題といった分野は、私たちが日々直面する課題そのものです。

2026年のダボス会議では、世界経済、地政学、気候変動・生物多様性、そして技術革新(AI・デジタル)といった分野が横断的に議論されますが、私たちの業界にとって最も重要な論点は「AIと雇用・スキル」「エネルギー・資源転換」「サプライチェーンのレジリエンス」の三つに集約される見込みです。

今回は、関連情報に基づき、これら三つの論点が自動車産業にどのような影響をもたらすのかを深掘りし、会議の重要性と見どころを解説します。

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ダボス会議日程とテーマ

🌎 2026年 ダボス会議 開催概要

正式名称 世界経済フォーラム年次総会 2026 (World Economic Forum Annual Meeting 2026)

開催地 スイス・ダボス/クロスタース (Davos-Klosters, Switzerland)

開催期間 2026年1月19日(月)~ 1月23日(金) の5日間

テーマ 「対話の力」(A Spirit of Dialogue)

参加者 世界100カ国以上から、政府首脳、国際機関の代表、主要企業のCEO、学術界、メディアのリーダーなど約2,500人以上。

💡 主要な議題(サブテーマ)

メインテーマである「対話の力」に基づき、2026年のプログラムは特に喫緊のグローバルな課題である以下の5つのテーマを中心に議論が展開される予定です。

本会合のプログラムは、以下の5つのグローバルな課題(サブテーマ)を中心に構成されます。これらの主要課題の進展には、官民のあらゆるステークホルダーによる対話と連携が不可欠です。取り組みにあたり、成長、レジリエンス、イノベーションが横断的課題として位置付けられます。これらはリーダーたちが今日の複雑性に向き合い、明日の可能性を切り拓くための指針となるでしょう。

対立が深まる世界における協力 (Cooperation in a Fragmented World)

主要国間の競争が激化し、グローバルな影響力と地域の安定性が大きく変化しています。また、多くの国で社会の分断が深まりつつあります。こうした新たな時代は、規範の対立、同盟関係の変化、信頼の喪失によって特徴づけられます。不確実性が高まり、複合的なリスクが複雑性を増す中、あらゆる組織は、この極めて複雑な力学環境に継続的に適応していく必要があります。地政経済学は企業の意思決定における中核要素となり、企業は地政学的な洞察力を高めることで、より流動的な環境に対応しようとしています。安全保障や主権、影響力に関する長年の前提が、今まさにリアルタイムで問い直されているためです。

こうした文脈において、企業、政府、市民社会が協力し、共通の解決策を見出し、決定的な行動を取ることが重要です。世界経済フォーラムは、センター(部門)を通じて、官民の連携を深め、より大きな影響を与えることを目指しています。

新たな成長源の開拓 (Fostering New Sources of Growth)

貿易摩擦の激化と政策の不確実性により、2026年の世界経済成長率は3.1%と見込まれています。これは予測困難な事業環境を反映したものです。従来成長の原動力となってきた貿易は、2025年にはわずか0.9%の成長にとどまると見込まれており、既存のルールは揺らぎ、新たなルールはまだ確立されていません。表面的なインフレ率は徐々に抑制されつつあるものの、コアインフレ率は依然として高止まりし、GDP比の債務残高は過去最高の95%に達しています。こうした状況下では、政策立案者の財政、金融面での選択肢が限られます。今後の見通しは、各経済圏が短期的なショックに対処するだけでなく、イノベーションを活用した長期的な生産性を高める能力にますます依存していくでしょう。さらに、経済政策は労働力や一般市民のニーズにも配慮し、成長の恩恵がより多くの人々に届くよう、設計されなければなりません。

こうした文脈において、企業、政府、市民社会が協力し、共通の解決策を見出し、決定的な行動を取ることが重要です。世界経済フォーラムは、センター(部門)を通じて、官民の連携を深め、より大きな影響を与えることを目指しています。

人材投資 (Investing in People)

AIの影響により、今後5年間で世界の雇用の22%が変化すると予測される中、レジリエンスの高い労働力を育成するには、リスキリングとアップスキリング(技能向上)への投資が極めて重要です。新興国では、今後10年間で労働年齢に達する約8億人の若年層を吸収するため、雇用創出の加速が求められています。多次元的なレジリエンスの必要性は、人間の健康にも現われています。現在45億人が基本的な医療サービスを受けられず、医療分野では年間105億ドルの資金不足が見込まれています。これは、医療アウトカムへの投資強化が必要であることを明確に示しています。

こうした文脈において、企業、政府、市民社会が協力し、共通の解決策を見出し、決定的な行動を取ることが重要です。世界経済フォーラムは、センター(部門)を通じて、官民の連携を深め、より大きな影響を与えることを目指しています。

責任あるイノベーションの推進 (Driving Responsible Innovation)

AIは産業の運営、競争、価値創造のあり方を変革しており、2030年までにグローバルGDPを15兆ドル以上押し上げると予測されています。あらゆるセクターの企業の約90%が、生産性向上などを通じて、AIやその他のテクノロジーが短期間で自社ビジネスを変革すると考えています。この可能性を実現するには、責任ある導入とガバナンス体制の構築に加え、バイオテクノロジーや量子技術から宇宙、半導体、センサーに至るフロンティア技術への持続的な投資が不可欠です。一方、エネルギー転換の必要性はこれまで以上に高まっており、課題はもはや野心的な目標設定ではなく実行力にあります。新たなテクノロジーの普及拡大、送電網の高度化、特に新興市場におけるイノベーションへのアクセス改善は、将来のエネルギー需要にこたえるためのブレークスルーを実現する上で極めて重要です。

こうした文脈において、企業、政府、市民社会が協力し、共通の解決策を見出し、決定的な行動を取ることが重要です。世界経済フォーラムは、センター(部門)を通じて、官民の連携を深め、より大きな影響を与えることを目指しています。

プラネタリー・バウンダリー内での繁栄の構築 (Building Prosperity within Planetary Boundaries / 気候変動や環境問題)

インフラ、食料システム、自然生態系はいずれも気候変動の影響を受けており、統合的アプローチの一環として、自然を基盤とした解決策をさらに発展させる必要性が高まっています。自然喪失は地球の陸地の75%に影響を与え、重大な経済的リスクをもたらす一方、ネイチャーポジティブなビジネスモデルへの移行により、2030年までに年間10兆ドルの経済的価値を創出できる可能性があります。環境保護と経済成長は必ずしも相反するものではありません。むしろ、レジリエンスの高い生態系こそが、長期的な経済的、社会的機会と安定をもたらすのです。再生可能で循環型かつ包摂的な生産および消費システムへ投資することにより、成長をプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)内に収めることが可能になるでしょう。

こうした文脈において、企業、政府、市民社会が協力し、共通の解決策を見出し、決定的な行動を取ることが重要です。世界経済フォーラムは、センター(部門)を通じて、官民の連携を深め、より大きな影響を与えることを目指しています。

これらの議論を通じて、世界が直面する複雑な課題に対し、官民のあらゆるステークホルダーが連携し、信頼を再構築するための指針が描かれることが期待されています。

🌐 ダボス会議 公式情報収集サイト

ダボス会議の主催者である世界経済フォーラム(World Economic Forum: WEF)の公式サイトが、すべての情報の出発点となります。

サイト名URL概要【公式・英語】 World Economic Forum Annual Meeting 2026https://www.weforum.org/meetings/world-economic-forum-annual-meeting-2026/
開催日程、主要な議題(テーマ)の詳細、登壇者情報(発表され次第)、会議の報告書などが順次公開されます。

【公式・日本語】 世界経済フォーラム(年次総会2026)
https://jp.weforum.org/meetings/world-economic-forum-annual-meeting-2026/
日本語でのサマリー、主要な議論の要約、日本の参加者に関する情報などが確認できます。

想定される参加者と議題の例

ダボス会議には各国首脳、閣僚、国際機関トップ、グローバル企業のCEO、投資家、市民社会・NGO、研究者などが参加し、世界経済、地政学、気候変動・生物多様性、技術革新(AI・デジタル)、社会的包摂といった分野を横断して議論します。

2026年は特に「自然ポジティブ投資」「エネルギー・資源転換」「AIと雇用・スキル」「サプライチェーンのレジリエンス」などをテーマにしたセッションが組まれると見込まれており、グリーン投資やトランジション・ファイナンスは主流トピックの一つになるとの見方が示されています。

他の関連動向との位置づけ

世界経済フォーラムは2026年春にサウジアラビア・リヤドでハイレベルなグローバル会合も予定しており、ダボス会議と併せて年間を通じた議論・アジェンダ形成のハブとして機能させる構想が打ち出されています。

また、2026年は生物多様性や海洋、気候関連の大型国際会議が各地で集中する年であり、ダボスでの議論が、自然ポジティブ経済や気候・生物多様性目標に関する他の国際プロセスへの橋渡し的役割を担うと見込まれています。

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AI、自動運転技術—電気のように浸透する技術と「AI格差」の時代

AIの進化と雇用への影響:見過ごせない「若者の就職危機」

AIやデジタル技術の急速な発展は、2026年の世界経済を支える主要な柱の一つとして位置づけられています。ダボス会議の議論においても、AIはもはや特定のセッションのテーマに留まらず、**「電気と一緒だ。インフラの一部になる」**とまで表現されるほど、当たり前の存在として扱われるようになっています。

2026年のダボス会議では、特に**「AIと雇用・スキル」**に関するセッションが組まれる見込みです。AIは現在、米国の巨大テック企業の利益を大きく拡大させ、その収益は非金融企業の利益全体の約3割にまで上昇しています。しかし、その一方で、AIは雇用市場、特にエントリーレベルの管理職や事務職の採用に既に影響を与え始めています。

スタンフォード大学の最新研究によれば、AIの影響が大きい職種では、影響の少ない職種と比べて若手労働者の雇用が13%減少しており、特に22~25歳のソフトウェアエンジニアの場合、2022年末のピーク時と比べて2025年7月時点での雇用がほぼ20%減少しています。

この現象は、これまでエントリーレベルの仕事として多くの若者が経験を積んできた職種が、AIによって代替されていることを示しています。若手のソフトウェア開発者が従事していた単純なコーディングやデバッグ作業、法律や小売業での基礎的な業務がAIに置き換わっています。

自動車産業においても、自動運転技術の開発や生産プロセスの最適化にAIの導入は不可欠であり、AIによる生産性向上が潜在成長率を押し上げるシナリオが各国で想定されています。しかし、これは同時に、職場の変革を意味します。AIの導入が加速する中で、企業には再訓練やスキル向上のイニシアチブを実施する倫理的責任があると指摘されており、ダボス会議では労働者の権利や、AIによる人員削減で節約された資金を社会的な影響緩和にどう使うかといった、倫理的かつ政治的な議論が交わされるでしょう。

特に注目すべきは、アメリカで新卒者が主に担当してきた「エントリーレベルジョブ」とされる仕事の多くがAIに奪われ、雇用機会が大きく減少している現実です。新卒者はそれぞれの職場で与えられた「エントリーレベルジョブ」からキャリアをスタートさせ、知識と経験を積み上げてゆくのがキャリアビルディングの基本でしたが、そうした仕事の多くがAIに代替され、エントリーレベルジョブそのものがなくなり始めています。

地政学的な「AIディバイド」の深刻化:技術覇権が分断を加速

AI技術の恩恵が限定的になることによる**「AIディバイド(AI格差)」**の発生も、大きな懸念事項です。AI技術の覇権争いは激化しており、米国がAI半導体や技術に関する輸出規制を進める動きは、ソ連崩壊後の最も大きな地政学的なフレームワークになり得ると指摘されています。これにより、世界はAI技術に優先的にアクセスできる国、敵国、そしてそれ以外にカテゴライズされるリスクがあります。

自動車産業、特にモビリティ分野は、日本にとっての有望な成長領域として位置づけられており、AI技術へのアクセスは競争力維持の生命線です。米国が主導するAI技術開発と社会実装の恩恵は世界の中でも最も大きいと見られており、日本がこの技術的な枠組みの中でいかに優位性を確保できるかが問われます。

AIの開発競争が民間企業(ビッグテック)によって主導されていることも、地政学的な不確実性を高める要因です。ダボス会議では、AIの安全性や責任の所在(誰が責任を負うのか)といったガバナンスの課題についても議論が活発化すると予想されます。

OECDの事務総長は、生成AIの採用が急速に進み地域の雇用市場を再形成している一方で、都市部と農村部の間のデジタル分断が拡大するリスクがあると警告しています。政策立案者はデジタルインフラの整備を優先し、人々のデジタルリテラシーを高め、中小企業を支援し、AIのメリットがすべての人に確実に行き渡るよう対処する必要があります。


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EVと環境問題—「脱炭素」から「自然資本」へ、資金の流れが変わる

「ネクサス・アプローチ」によるリスクの再定義

世界経済フォーラム自身のリスク分析でも、中長期の経済リスクの上位を占めるのは、気候変動や自然破壊、資源制約などの環境系リスクです。2026年のダボス会議の重要アジェンダには、「自然ポジティブ経済」「エネルギー転換」、そして「グリーン投資やトランジション・ファイナンス」が組み込まれる見込みです。

気候変動の影響は猛暑や大雨として確実に顕在化しており、世界気象機構(WMO)は2025年1月に、2024年の世界平均気温が産業革命前水準と比べて1.55度上回ったと発表しています。

これまでの議論は主に「脱炭素(気候変動の緩和)」に焦点を当ててきましたが、ダボス会議では、気候変動と生物多様性、水、食料、健康といった地球規模の課題に統合的に取り組む**「ネクサス・アプローチ」**の重要性が強調されるでしょう。

これは、単にEVを製造し二酸化炭素排出量を減らすだけでなく、原材料の調達、水の利用、製造プロセスが地域の生物多様性や生態系に与える影響までを含めて評価しなければならないことを意味します。世界経済フォーラムのレポートでは、世界のGDPの半分超が自然資本に依存していると試算されており、自動車産業も例外ではありません。

TNFDが変える投資家の視点:自然資本は新たな評価軸

投資家や金融機関の動きも、この流れを加速させています。大手資産運用会社は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に加え、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の提言に基づく情報開示を早期に実施するなど、気候変動と自然資本の両面を統合的にリスク評価しています。

2025年2月時点で、TNFD統合開示を公表予定として登録した企業は世界で543社が表明している中、日本は144社と世界最多となっています。これは、日本企業が自然資本への対応を競争力強化の重要な要素として認識し始めている証左です。

日本国内のTNFDアダプター178社(2025年7月時点)の業種別分析では、自動車部品メーカーが8社登録しており、自動車産業全体が自然資本への対応を本格化させています。

自動車業界にとって、これは資金調達の面で極めて重要です。投資家は、企業が自然資本への「依存」と「影響」を適切に把握し、リスクを管理しているかを問うようになります。例えば、製造業が「構造的・生物学的完全性」や「生物種」、「水」といった自然資本に強く依存し、影響を及ぼしていることが分析で示されています。

**「自然資本への対応無しに気候変動のネットゼロは達成できない」**というメッセージが発せられているように、私たちの業界は、EVシフトだけでなく、サプライチェーン全体での持続可能な資源利用と生態系保全に取り組むことが、次世代の「トランジション・ファイナンス」を引き出す鍵となります。

TCFDが扱う「気候変動」はCO₂排出量というグローバルで統一された指標で評価しやすいのに対し、TNFDが扱う「自然資本・生物多様性」は、事業所やサプライチェーンが存在する「場所」によってリスクの内容が大きく異なるという特性を持ちます。同じ工場でも水資源が豊富な地域と乾燥地域では、水リスクの重要性が全く異なります。この「場所の固有性」こそが、自動車産業のグローバル展開において重要な戦略的考慮事項となります。


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サプライチェーンのレジリエンス—「地域最適化」と「関税リスク」の現実

グローバル化から「地域最適化」への移行:エネルギーが第4の柱に

地政学リスクの高まりは、自動車産業のグローバルな生産体制を根本から揺るがしています。2026年のダボス会議の注目セッションの一つである**「サプライチェーンのレジリエンス」**は、この危機的な状況に対する具体的な対応策を探るものです。

プロロジスの調査では、世界のサプライチェーンリーダーたちが現在、抜本的な変革、すなわち**「大いなる再構築(The Great Recalibration)」を推進していることが示されています。長年続いた「世界における低コスト労働力の追求」というグローバリゼーション戦略から離れ、主要都市を中心とするローカル生産への移行、つまりリージョナライゼーション(地域単位での最適化)**が加速しています。

この動きを促す最大の要因は、実は「労働コスト」(36%)ではなく、**「エネルギーの信頼性」(40%)**であるという点が重要です。AI技術の普及に伴う電力需要の増加やエネルギー関連の混乱が、サプライチェーンの「第4の柱」としてエネルギー安定供給を浮上させています。

自動車産業は、米国がサプライチェーン再編の意識を強める**「戦略分野」**の一つとして明確に位置づけられています。米国は、関税や規制緩和を通じて、自動車を含む戦略分野における国内への直接投資を活発化させており、供給網の再編が急加速しています。

米国関税政策と日本の製造業への圧力:避けられないコスト増

米国の関税政策は、世界経済全体に「浅く・長く」影響を及ぼすと見られており、日本経済においても、自動車などの製造業では減益圧力が生じると予想されています。

2025年4月より、自動車については追加関税25%が賦課され、追加関税賦課後の関税率は27.5%(従来の関税率2.5%+追加関税25%)となりました。この関税負担は企業収益に直接的な打撃を与えています。

特に、米国で実施されている関税政策は、自動車産業など特定業種の利益率低下を招いています。関税コストの大半を米国内企業や海外企業が一時的に吸収しているものの、今後は徐々に価格転嫁が進む見込みです。

2024年の自動車サプライチェーン製造業の売上高営業利益率平均は1.4%、Tier1は2.8%、Tier3以降は0.6%と、Tier間の差は4.7倍となっており、営業赤字企業の出現率は3割を超え高止まりしています。各種コスト上昇に加え、下請構造や取引慣行、価格転嫁問題などが収益を圧迫しています。

欧州でも、関税引き上げ前の駆け込み輸出(医薬品、自動車など)の反動による景気減速が見込まれており、グローバルで活動する自動車メーカーは、地政学リスクと貿易摩擦の回避を最優先課題とし、生産拠点の多角化や地域ごとのサプライチェーン構築(リージョナライゼーション)を急ぐ必要があります。

ダボス会議で語られる「対話と協働」は、こうした分断された世界で、いかに地域単位のレジリエンスを高める行動(投資や提携)へとつなげるか、その具体策を探る場となるでしょう。

EV戦略とサプライチェーン:日本の「マルチパスウェイ」の現実性

世界市場の動向や、それぞれの技術の課題等を踏まえると、EV、FCV、ハイブリッドなど「多様な選択肢」を通じてカーボンニュートラルを実現していく、「マルチパスウェイ戦略」が日本の基本戦略となっています。

この戦略の背景には、EVシフトの速度が地域によって大きく異なる現実があります。中国によるレアアース輸出制限がEVサプライチェーンに問題を引き起こしており、インドの自動車メーカーMaruti Suzukiは、EVモーターの製造に必要なレアアース磁石の供給不足を理由に生産台数を削減すると発表しています。このボトルネックは、地政学的な選択と供給制約が生産プロセスに波及し、世界中のメーカーに遅延とコスト上昇をもたらすことを示しています。

自動車産業においては、「デジタル化」「グリーン化」両面から地殻変動ともいうべき大変革が進展中であり、2024年の世界販売に占めるEV比率は約10%に達しています。同時に、現時点では電気自動車の値段は高く、サプライチェーン上の課題も顕在化しつつあり、本プロジェクトで取り扱う蓄電池やモーターは電動車の鍵を握る技術分野であり、イノベーションの重要性が一層増している状況です。


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結び:ダボス会議が示す「モビリティ」の未来

2026年のダボス会議は、AIによる技術革新と、気候変動・地政学による国際秩序の「二重の転換期」に開催されます。会議の主題である「AI」「自然資本とエネルギー転換」「サプライチェーンの再編」は、まさに自動車産業が生き残りをかけて取り組むべき核心的な課題です。

私たちが携わるモビリティの分野は、日本の新時代適応ケースにおける有望領域の一つとして明確に挙げられています。ダボス会議での議論を通じて、世界が「AIの倫理」や「自然資本との共存」、「地政学的リスク下の生産体制」についてどのような共通認識を持ち、どのような国際的な連携(協働)を形成し、そしてそれを具体的な「行動」に移していくのか。その指針を読み解くことが、自動車産業の未来を牽引する上で不可欠です。

特に注目すべきは、以下の3つの変革の方向性です:

1. AI時代の人材戦略の転換

エントリーレベルの雇用が消失する中で、若手人材にいかに高度なスキルを短期間で習得させるか。企業の再訓練プログラムの充実と、AIを活用できる人材の育成が競争力の源泉となります。

2. 自然資本を組み込んだ経営戦略

TCFDに加えてTNFDへの対応が投資家の評価基準となる中、サプライチェーン全体での自然資本への依存と影響を可視化し、地域ごとのリスクを管理することが、トランジション・ファイナンスの獲得に直結します。

3. 地政学リスクに強靭なサプライチェーン

関税リスク、エネルギー安全保障、レアアース供給制約といった複合的な課題に対し、リージョナライゼーション(地域最適化)を進めつつ、技術革新で競争力を維持する柔軟な戦略が求められます。

このブログ記事で紹介したように、今年のダボス会議は、私たちの業界の戦略的判断に直結する知見に満ちています。ぜひ、会議のニュースやレポートを通じて、最新の動向を追い続けていきましょう。

「対話の力」というテーマが示すように、分断された世界で持続可能な未来を築くには、国境、産業、世代を超えた協働が不可欠です。自動車産業に携わる私たち一人ひとりが、この歴史的転換期において何を学び、どう行動するか。その答えを見つけるヒントが、2026年のダボス会議には詰まっているはずです。

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