片山さつき財務大臣言及、ガソリン暫定税率廃止に伴い今後の自動車重量税の重課問題と自賠責保険料の引き下げについて

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自動車業界に長年勤めてきた筆者が、今、日本全体を巻き込んでいる自動車税制改革の核心を、業界関係者ならではの視点から詳細に解説します。ガソリン暫定税率の廃止論議が本格化する中で、今後私たちの負担はどのように変わるのか。特に問題視される自動車重量税の重課や、強制保険である自賠責保険料の引き下げ見通しについて、読み応えのある情報をお届けします。

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日本の自動車税制改正論議の焦点と、各団体の主張はどのように対立しているか?

日本の自動車税制は、取得時、保有時、走行時の各段階で合計9種類、約9兆円もの税金が課される「不合理で過重な税制」であると、長年にわたり批判されてきました。特に、日本の自動車ユーザーの税負担は、基幹産業である自動車産業を持つ欧米諸国と比較しても過剰な水準にあります。

現在の税制改正論議の焦点は、この過重な負担を軽減し、複雑な税体系を簡素化すること、そしてCASE時代やカーボンニュートラル(CN)の目標に対応した公平な仕組みへと変革することです。

自動車ユーザー団体(JAF)の主張:過重負担の撤廃

2080万名を超える会員を擁する自動車ユーザー団体である一般社団法人日本自動車連盟(JAF)が2025年4月から7月にかけて実施したアンケートには、全国から15万人以上もの回答が寄せられました。この調査によると、回答者の約98.8%が自動車に係る税金を「負担に感じる」と回答しており、ユーザーの不満が限界に達していることがわかります。

JAFは、自動車税制の不合理さと過重な負担を解消するため、以下の税目の廃止・負担軽減を強く要望しています。

  1. 環境性能割の廃止:廃止された自動車取得税の単なる「付け替え」であるため。
  2. 自動車重量税の廃止:道路特定財源が廃止されたことにより、課税根拠が喪失しているため。
  3. 「当分の間税率」(暫定税率)の廃止:50年以上も論理的な説明なしに上乗せされ続けているため。
  4. 経年による重課措置の廃止:車の使用実態や環境負荷を考慮せず、一定期間経過した車に一律に課税するのは不合理・不公平であるため(76.9%が反対)。

自動車産業団体(JAMA)の主張:重量ベースへの一本化と暫定税率の廃止

一方、日本自動車工業会(JAMA)は、自動車産業を取り巻く激変する環境(海外勢の電動車開発や米国関税、日本市場縮小など)を乗り切るため、「買替促進による市場活性化」を最優先の目標としています。

JAMAの主張する改革案の骨子は、「ユーザーの求める簡素化・負担軽減」を実現し、納得感のある税制へ移行することです。

  • 取得時課税の単純廃止:環境性能割を単純廃止し、消費税との二重課税を解消すべき。
  • 保有時課税の簡素化:自動車税・軽自動車税と自動車重量税の2税目を統合・簡素化し、重量を課税標準に統一・一本化することを提案しています。
    • この際、自動車重量税に残存する暫定税率分(50年以上継続)は廃止し、負担軽減を実現すべきと主張しています。
    • 課税標準を「重量」(道路損傷との相関性が高い)とし、環境性能に応じて増減させることで、CNへ消費者を誘導する仕組みを目指します。ユーザーアンケートでも「道路損傷(重量)」に対する納得性が高い結果が出ています(66.8%が納得できる)。

このように、論議は「環境対策」を名目とした課税のあり方(重課)の是非、そして長年存続してきた暫定税率の公平性・合理性、さらに税収基盤をどこに求めるか(排気量から重量・環境性能への移行)という、多岐にわたる課題で対立しています。


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自動車産業の経済的役割と、現在の市場環境が税制改革にどのような影響を与えているか?

自動車産業は日本の基幹産業であり、その動向は税制改革の議論に決定的な影響を与えます。

日本経済における圧倒的な存在感

自動車産業は日本のGDPの約1割、就業人口の約1割(約550万人)を担っています。製造品出荷額は約60兆円、貿易黒字は約20兆円にのぼり、経済波及効果は全産業トップの2.5倍です。また、ユーザーと企業・就業者が納める税金は約15兆円と、国全体の税収の約15%を占めています。

激変する市場環境と税制改革の必要性

しかし、この基幹産業を取り巻く環境は激変しています。

  1. 国内市場の縮小と自動車の生活必需品化
    国内新車販売台数は1990年をピークに減少傾向が続き、特に消費税増税と連動して減少しています。その一方で、自動車はモータリゼーション期の「贅沢品」から、地方部を中心に「生活必需品」へと位置付けが変化しています。平均可処分所得がピーク時より約2.5割減となる中、取得時税収は過去最大水準にあり、ユーザー負担の過重さが際立っています。
  2. 国際競争の激化と米国関税の影響
    グローバル市場では、電動化の進展に伴い中国メーカーなどの海外勢が台頭し、日本市場の重要性が高まっています。さらに、米国関税(トランプ関税)による影響は甚大で、多くのメーカーが通期で数百億円から兆円規模の影響を見込んでおり、内需拡大策が喫緊の課題となっています。
  3. 環境規制への対応(CN推進)
    G7コミュニケでは、2050年までの道路部門ネットゼロ排出目標や、2035年までに乗用車の新車販売の100%を電動車とする目標が掲げられており、日本も例外ではありません。

市場の縮小、国際的な競争圧力、そして電動化への移行コストを考えると、現行の自動車税制(特に新車への買い替えを阻害する要因)を維持することは、国内の生産基盤の維持・強化にとって極めてリスクが高いと判断されています。そのため、税制改革は、単なる税収議論に留まらず、市場の活性化と環境・安全性能に優れた新車への代替を促すための「産業政策」としての側面が強く出ています。


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自動車ユーザーの税負担に対する不満は、具体的にどのような税目の廃止要望に繋がっているか?

自動車ユーザーの不満は広範な税目に及びますが、特に不満が集中し、廃止要望に直結しているのは以下の3点です。

長期にわたる「暫定税率」の不合理性(ガソリン税・重量税)

いわゆる暫定税率は、ガソリン税(揮発油税・地方揮発油税)だけでなく、軽油引取税や自動車重量税にも上乗せされています。JAFのアンケートでは、この暫定税率について9割以上が「反対」または「どちらかといえば反対」と回答しており、50年以上も論理的な説明なく上乗せされ続けている現状に強い不満があります。

自動車重量税は、その本則税率の上に暫定税率分が長期にわたり残存しており、自動車工業会は、ガソリン暫定税率の議論とは別に、長年にわたり重量税暫定税率の廃止を要望し続けてきました。

「旧車いじめ」と批判される経年による重課措置(13年ルール)

自動車税・軽自動車税、そして自動車重量税には、「グリーン化税制」(2002年施行)に基づき、初度登録から一定年数を経過した車両に対して税率を上げる重課措置があります。ガソリン車では登録から13年超で重課(当初10%から現在は約15%増)となります。

この重課は、排出ガス性能や燃費の良い新車の導入を促す環境施策として導入されましたが、実態としては、税収の落ち込みを補填するための施策としての側面が強いと批判されています。

  • 環境改善効果の疑問:国土交通省の担当者も、当時新車だった車と13年経過した車で排出ガス性能に大きな差がない場合がある点を指摘されると、言葉を詰まらせたという経緯があります。
  • 「もったいない」精神への反抗:長くものを使い続ける日本の「もったいない」精神に反するだけでなく、所得が増えない現状で自動車の維持負担を増やし、クルマ離れや地方での移動手段の脅威を招いています。
  • スクラップ前提の政策:重課措置は、古い車を下取りし廃車することを前提とするなど、スクラップごみを増やす政策であり、真の意味で環境改善を目指す意思は薄いとの指摘もあります。

ユーザーは、車の使用実態や環境負荷を考慮せずに一律に重課を課すのは「不合理・不公平」だと感じており、重課措置の廃止を求める声が非常に高くなっています。

環境性能割の廃止と「Tax on Tax」の解消

自動車取得時に課せられる環境性能割は、廃止された自動車取得税とほぼ同じ課税率・課税タイミングであり、「単なる付け替え」として、6割近くが廃止を求めています。

また、ガソリンの小売価格に課せられる消費税が、すでに税金(ガソリン税)が含まれた合計額に対してさらに課税される「Tax on Tax(税への税)」の仕組みについても、9割以上が納得できないとし、消費税がかからないようにすべきと強く要望しています。


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片山さつき財務大臣の歴史的発言と、12月に示される税制大綱へ暫定税率廃止がどのような影響をもたらしていくのか?今後の見通し(増税か減税か)

片山財務大臣の画期的な姿勢表明

2025年10月24日の閣議後記者会見で、片山さつき財務相は物価高対策が最優先だと述べ、ガソリン暫定税率の廃止を最も重要な課題として取り組む姿勢を示しました。さらに、廃止時期について実務の現場が対応できる形であれば早い方が良いとの考えを明らかにしています。

2025年参議院予算委員会での国民民主党・榛葉議員の質問と片山財務大臣の答弁は、自動車ユーザーと自動車産業にとって極めて画期的な内容でした。この中で片山大臣は「角を矯めて牛を殺すな」という慣用句を用いて、過度な課税が自動車産業そのものを衰退させることへの懸念を示し、税制改革の重要性を強調しました。

ガソリン暫定税率廃止と重量税暫定税率廃止の連動

2024年12月11日には、衆議院での補正予算採決に際し、自由民主党、公明党、国民民主党の三党間で「いわゆる『ガソリンの暫定税率』は廃止する」という合意がなされました。この合意は、長年の懸案であった燃料課税の負担軽減につながるものです。

2025年11月28日、ガソリン税の暫定税率を廃止する法案が参議院の本会議において全会一致で可決・成立し、同年12月31日をもってガソリン暫定税率が廃止されることが正式に決定しました。ガソリン1リットルあたり25.1円の暫定税率が撤廃され、段階的な補助金増額により、12月11日以降は実質的に暫定税率と同水準の価格引き下げが実現しています。

このガソリン税の動きを受け、自動車業界が長年求めてきた自動車重量税の暫定税率廃止が、次の重要な焦点となります。JAMAは、重量税の暫定税率分を廃止し、新たな保有税を「重量」と「環境性能」をベースとした公平・中立な仕組みに改革することを短期・中期の目標として掲げています。

もし重量税の暫定税率が廃止されれば、一時的に税収は減少しますが、ユーザーの負担は軽減(減税)されます。しかし、税制大綱の検討の基本的考え方として、CNの目標貢献や市場活性化への配慮に加え、「国・地方を通じた安定的な財源を確保することを前提とする」ことが明記されており、単純な減税だけでは終わらない可能性があります。

今後の税制の方向性と見通し:保有税の再構築

今後の税制の見通しは、以下の方向性で進められる可能性が高いです。

  1. 取得時負担の軽減
    環境性能割は「単純廃止」の方向が強く(国民民主党は廃止を主張)、取得時のユーザー負担は軽減される見込みです。
  2. 保有税の抜本改革(FY2026結論)
    自動車の重量及び環境性能に応じた公平・中立・簡素な税負担のあり方について、2026年度税制改正において結論を得るとされています。これは、現行の自動車税(排気量ベース)が電動車時代に対応できないという認識に基づくものです。ハイブリッド車が新車販売の半数以上を占める現在、排気量という基準は時代遅れだという指摘が強まっています。
  3. 経年重課の扱い
    暫定税率の廃止や保有税の再構築の議論が進む中で、不合理性が指摘されている経年重課措置(13年ルール)についても、見直しの議論が加速する可能性があります。
  4. 長期的な課題:走行距離課税の是非
    将来的には、電気自動車(EV)の普及に伴う燃料課税の税収先細り懸念から、「走行距離課税」の議論が背景にありますが、JAMAは現時点での導入は不適であり、ユーザーの納得性が低い(痛税感が増大する)として慎重な姿勢を示しています。地方では自動車が生活必需品であるため、国民民主党も走行距離課税の導入には反対しています。当面は、車体課税(重量×環境性能)の改革が中心となるでしょう。

総合的に見ると、暫定税率廃止と環境性能割廃止が実現すれば、自動車ユーザーにとっての負担は明確に減税方向に傾きますが、国・地方の安定財源確保のため、保有時課税(新保有税)は「重量」をベースに再定義され、環境性能の悪い車への負担誘導(重課とは別の形)が行われる可能性があります。


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自賠責保険料の国民負担への問題について

ガソリン税や自動車重量税とは異なりますが、強制加入が義務付けられている自賠責保険料についても、国民負担軽減に向けた動きが見られます。

2026年度以降の引き下げの可能性

2025年4月からの自賠責保険料は前年度据え置きとなりましたが、2026年度以降は保険料が引き下げられる可能性が高いです。

自賠責保険料は、事故発生時の保険金支払いに充てられる「純保険料率」と、保険会社の経費に充てられる「付加保険料率」から成り立っています。自賠責保険は、被害者救済のための強制保険であり、「ノーロス・ノープロフィットの原則」が法令で定められています(損失も利益も出さない原則)。

損害保険各社がデジタル化推進や業務効率化による経費削減を進めた結果、2023年度決算に基づく概算で、付加保険料率に充てられる経費について122億円の削減効果が算出されました。

デジタル化による効率化の具体的内容

付加保険料率には、保険会社の経費である「社費」(支出全体の25.8%)と「代理店手数料」(8.5%)などが含まれています。これらの経費は、客観的・統一的な「経費計算基準」に基づいて算出されており、その大半(約8割)が人件費(処理分数)に影響されます。

この計算基準は2012年以降見直されていませんでしたが、2025年1月21日には、自賠責保険の申し込み手続きのオンライン化や、掛金の収受においてキャッシュレス決済が導入されました。共同システム「One-JIBAI」の導入により、スマートフォンやPCから非対面で手続きができるようになり、自賠責保険料もクレジットカードで支払いできるようになっています。

新しい計算方法の試算によると、契約手続きをオンラインで処理するシステムの普及により、1件処理するのにかかった時間は14.0分と、従来の基準より4.3分減少しました。

保険料引き下げのスケジュール

この効率化による経費削減額(122億円)を反映させるため、付加保険料率の算定方法の見直しが検討されており、2026年4月から新料率として適用される最速のスケジュールとなっています。これは、経費削減分が最終的に保険料に反映され、自動車ユーザーの負担軽減(減税に相当する保険料の引き下げ)につながることを意味します。


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結び:税制改革はモビリティ社会への試金石

ガソリン暫定税率の廃止は、長年の懸案であった不合理な税制にメスが入る大きな一歩であり、これに伴い、自動車重量税の暫定税率廃止、そして自賠責保険料の引き下げ議論が連動して進んでいます。

私たち自動車業界の人間にとって、この一連の動きは、単なる税率の増減に留まらず、自動車が真に「生活必需品」として認められ、環境変化と産業基盤維持の両立を図るための「モビリティ社会」実現に向けた試金石です。古い税制の負の遺産を清算し、国民が納得できる公平で簡素な税体系へと改革が進むよう、引き続き注視していく必要があります。


筆者からの一言
今の税制議論は、まるで古い道路特定財源の地図を捨て、EVや自動運転が走る未来のモビリティネットワークのための新しい建設図面を描き直しているようなものです。ガソリン暫定税率廃止はその建設開始の合図であり、今後の重量税改革と自賠責保険の合理化は、私たちが未来の道路をより低コストで走れるようになるための重要な工程だと言えるでしょう。

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