導入:クラウン クロスオーバーに設定された、性格の異なる2つの限定車
新型クラウン クロスオーバーは、登場以来「セダンとSUVの融合」という独自のポジションを貫きながら、2025年4月の一部改良、そして誕生70周年を記念した特別仕様車「THE 70th」の設定と、着実にラインナップの幅を広げてきました。
その流れの中で、さらに性格の大きく異なる2つの限定モデルが設定されています。ひとつは、アウトドアフィールドへの適応力を高めた**「クラウン クロスオーバー RS “LANDSCAPE”」。もうひとつは、専用のマット塗装によって唯一無二の個性を纏った「クラウン クロスオーバー “THE LIMITED-MATTE METAL”」**です。
どちらもベースはRSグレードでありながら、目指している方向性はまったくの対極にあります。本記事では、自動車業界に長く身を置いてきた業界関係者の立場から、この2台がなぜ、どのような狙いで設定されたのか、そして実際に選ぶ際にどこを見るべきなのかを、できる限り深く掘り下げてお伝えしていきます。
一般的な紹介記事では触れられにくい、装備の背景にある考え方や、購入後の維持・メンテナンスの視点まで含めて解説しますので、限定車の購入を検討されている方はもちろん、クラウン クロスオーバーというモデルそのものへの理解を深めたい方にも、じっくり読んでいただける内容になっています。
限定車設定の背景を業界目線で読み解く
クラウンにおける「限定モデル戦略」の意味
自動車メーカーが特別仕様車・限定車を設定する背景には、単なる販促目的以上の理由があります。クラウンのように長い歴史を持つブランドの場合、限定車は「本来のクラウンが持つ幅の広さ」を可視化する役割を担っていることが少なくありません。
クラウン クロスオーバーは、標準のG・Z・RSという3グレード構成だけでも十分に個性の違いが表現されていますが、それでもなお「もっと道具として使いたい」「もっと自分だけの一台にしたい」という、両極にあるニーズを拾いきれない部分がありました。限定車は、その隙間を埋めるための存在と考えると理解がしやすくなります。
なぜ今、二極化したキャラクターの限定車なのか
RS “LANDSCAPE” と THE LIMITED-MATTE METAL は、狙っているユーザー層が明確に分かれています。
- RS “LANDSCAPE”:
休日にアクティブに出かける層、雪国や郊外在住で悪路走行の機会が多い層、道具としての頼もしさを求める層 - THE LIMITED-MATTE METAL:
街中での存在感やコレクション性を重視する層、「誰とも被らない一台」を求めるカスタム志向の層
同じRSというベースから、実用性重視の方向と、所有満足度重視の方向へそれぞれ振り切る形で2つの限定車を用意する手法は、フラッグシップモデルとしての懐の深さを示す狙いがあると見て間違いないでしょう。
クラウン クロスオーバー RS “LANDSCAPE” 徹底解剖

ベース車:CROSSOVER RS
RS “LANDSCAPE” は、その名のとおり「風景(LANDSCAPE)の中へ、積極的に踏み出していく」ことをコンセプトにした仕様です。標準のRSが持つ走行性能の高さと、アウトドアフィールドへの適応力を両立させた、まさに「使うための限定車」といえる一台です。
エクステリアの変更点を項目ごとに見る
車高25mmアップの意味
RS “LANDSCAPE” 最大の特徴は、標準仕様から車高を25mmアップさせている点にあります。クラウン クロスオーバーはもともと「リフトアップセダン」として最低地上高145mmを確保していますが、そこにさらに25mmを積み増すことで、未舗装路や積雪路、段差の大きい駐車場などでの底突きリスクを大きく減らしています。
業界の視点から見ても、この25mmという数値は決して大げさな数字ではありません。見た目の印象を大きく変えず、かつ実用面でのアドバンテージをしっかり感じられる、非常にバランスの取れたセッティングだと感じます。
専用オーバーフェンダー
車高アップに合わせて、専用のオーバーフェンダーが装着されています。これは単なる見た目のアクセントではなく、タイヤの動きに対して十分なクリアランスを確保するための実用的な装備でもあります。悪路走行時の飛び石や泥はねからボディを守る役割も兼ねており、機能と意匠の両方を満たす部分です。
オールテレーンタイヤの採用
標準のRSが街乗り・高速道路での快適性を重視したタイヤを履くのに対し、LANDSCAPEではオールテレーンタイヤが採用されています。
- 雪道や凍結路でのグリップ性能に配慮した設計
- 砂利道・林道など未舗装路でのトラクション確保
- サイドウォールの強化による、悪路での耐パンク性の向上
一方で、オールテレーンタイヤはブロックパターンが粗いぶん、舗装路でのロードノイズや転がり抵抗が標準タイヤよりも大きくなる傾向があります。ほぼ街乗り・高速道路中心で使用する方は、この特性を必ず試乗の際に確認しておくことをおすすめします。
クラウンロゴ入りレッドマッドガード
足元には、クラウンのロゴが入ったレッドマッドガードが装着されます。ブラック×アーバンカーキという落ち着いた専用ボディカラーの中に、レッドのアクセントが差し色として効いており、単調になりがちなオフロード仕様の足元に、程よい遊び心を加えています。
専用ボディカラー「ブラック×アーバンカーキ」
外装色は、ブラックとアーバンカーキを組み合わせた専用のバイトーンカラーが設定されています。艶のあるブラックと、落ち着いたマットな質感のカーキが組み合わさることで、標準のクラウン クロスオーバーが持つ上質さを保ちながらも、アウトドアギアのようなタフな印象を演出しています。
LANDSCAPEが得意とするシーン
RS “LANDSCAPE” が真価を発揮するのは、次のようなシーンです。
- キャンプ場や河川敷など、未舗装の駐車スペースへのアプローチ
- 積雪地域での通勤・通学、冬季のレジャー移動
- 別荘地や郊外の砂利道が多いエリアでの日常使用
- 荒れた路面のロングドライブで、乗員への負担を減らしたい場合
もともとクラウン クロスオーバーは、ラゲッジサイドに100V/1500Wの電源を備えるなど、アウトドア用途との親和性が高いモデルです。LANDSCAPEはその素性をさらに一歩進め、「行った先での使い勝手」まで踏み込んで作り込まれた仕様だと捉えると、その価値がより明確になります。
購入前に知っておきたい注意点
良いことずくめに見えるLANDSCAPEですが、選ぶ前に押さえておきたい点もあります。
- ロードノイズの増加:オールテレーンタイヤの特性上、高速道路での静粛性は標準RSよりもやや劣る場合があります。
- 燃費への影響:転がり抵抗の増加により、実燃費がカタログ値よりも下振れしやすい傾向があります。
- 足回りのメンテナンス頻度:悪路走行の機会が多い場合、足回り・下回りの点検周期を短めに設定することをおすすめします。
- タイヤ交換時のコスト:オールテレーンタイヤは標準タイヤよりも高価な場合が多く、交換時の予算を事前に見積もっておくと安心です。
これらは欠点というよりも、「道具として使う」ことを前提にした場合の当然のトレードオフです。用途に合っていれば、むしろ満足度を大きく高めるポイントになります。
クラウン クロスオーバー “THE LIMITED-MATTE METAL” 徹底解剖

ベース車:CROSSOVER RS
THE LIMITED-MATTE METAL は、RS “LANDSCAPE” とは対照的に、走りの資質そのものよりも「見た目の特別感」に振り切った限定モデルです。クラウンを専門的に取り扱う店舗向けに設定された数量限定仕様で、最大の特徴は専用のマット塗装にあります。
マット塗装という選択がもたらす価値
クラウン クロスオーバーのボディカラーは、光沢のあるパール系・メタリック系が主流です。その中にあって、艶を抑えたマット塗装は非常に目を引く存在になります。
- 光の反射が少なく、陰影がはっきりと出るため、ボディのプレスラインやデザインの陰影がより立体的に見える
- 光沢塗装とは異なる「質感」の高級感を演出できる
- 街中で他のクラウン クロスオーバーと並んでも、ひと目で見分けがつく個性を持つ
業界関係者として見ても、マット塗装は「他人と同じ車には乗りたくない」という所有満足度を強く求めるユーザーの心理に非常によく応える仕様だと感じます。
クラウン専門店限定という位置づけの意味
THE LIMITED-MATTE METAL は、クラウンを専門に扱う店舗向けに設定された限定モデルです。こうした専門店限定という設定には、一般的に次のような意味合いがあります。
- 生産・受注できる台数があらかじめ限られている
- 取り扱いのノウハウを持つ店舗でのフォロー体制が前提とされている
- 資産性・希少性を重視するユーザー層に向けた設計になっている
台数に限りがある性質上、気になる方は早めに販売店へ相談し、受注状況を確認しておくことをおすすめします。限定車は検討期間が延びるほど選択肢が狭まりやすいというのは、業界の実情としてお伝えしておきたい点です。
マット塗装車のメンテナンスの基礎知識
マット塗装を美しい状態で長く保つためには、通常の光沢塗装とは異なる知識が必要になります。ここは、専門的な内容にはなりますが、購入を検討する上で非常に重要なポイントですので、丁寧に解説します。
洗車方法の違い
マット塗装は表面の構造上、通常のコンパウンド(研磨剤)入りカーシャンプーを使用すると、艶が出てしまい、マット特有の質感が損なわれるおそれがあります。マット塗装専用、またはコンパウンドを含まない中性のカーシャンプーを選ぶことが基本になります。
コーティングの可否
一般的な光沢仕上げ用のガラスコーティングや、艶を出すタイプのワックスは、マット塗装には不向きとされています。マット塗装専用のコーティング剤が用意されている場合はそれを使用し、施工実績のある店舗に相談することをおすすめします。
洗車機の利用について
自動洗車機、特にブラシタイプの洗車機は、マット塗装の表面を傷つけたり、光沢を出してしまったりするリスクがあるため、避けたほうが無難です。手洗いを基本とし、どうしても洗車機を使う場合は、ブラシのない非接触タイプを選ぶことが推奨されます。
傷がついた場合の補修
マット塗装は、傷がついた際の補修が通常の光沢塗装よりも難易度が高い場合があります。補修跡が目立ちやすいこともあるため、駐車の際の接触や、洗車時の擦り傷には通常以上に気を配る必要があります。
これらの手間を「面倒」と感じるか、「特別な一台を持つ楽しみ」と感じるかは人それぞれですが、事前にこうした特性を理解した上で選ぶことが、長く満足して乗り続けるための鍵になります。
所有満足度とリセールバリューの視点
限定車、特に専門店限定というプレミアム性の高いモデルは、一般的に中古車市場においても一定の資産性を持ちやすい傾向があります。もちろん最終的な査定額は、走行距離やコンディション、マット塗装の状態によって大きく左右されますが、「台数が限られている」という希少性そのものは、将来の売却時にもプラスに働きやすい要素のひとつです。
一方で、マット塗装車は前述のとおりメンテナンスに手間がかかる分、状態管理を怠るとかえって査定に不利になる可能性もあります。所有中の丁寧なケアが、そのままリセールバリューに直結すると考えておくとよいでしょう。
2台を並べて比較する
比較表で見る違い
| 比較項目 | RS “LANDSCAPE” | THE LIMITED-MATTE METAL |
|---|---|---|
| コンセプト | アウトドア対応・実用性重視 | 個性・所有満足度重視 |
| 主な変更点 | 車高、タイヤ、フェンダーなど走行面 | ボディ塗装(マット仕上げ) |
| 得意なシーン | 未舗装路、積雪路、アウトドアレジャー | 街中での存在感、コレクション性 |
| メンテナンスの特徴 | 足回り・タイヤの点検頻度がやや高め | 洗車・コーティングに専用知識が必要 |
| 燃費・走行性能への影響 | ロードノイズ・燃費にやや影響 | 走行性能への影響はほぼなし |
| 向いている方 | 休日にアクティブに出かける方 | 唯一無二の一台を求める方 |
選び方チェックリスト
以下の項目に当てはまる数が多いほうを目安にすると、選びやすくなります。
RS “LANDSCAPE” が向いている方
- キャンプやアウトドアレジャーに頻繁に出かける
- 積雪地域や、未舗装路の多い地域に住んでいる
- 「見た目より使い勝手」を重視するタイプである
- タイヤ・足回りのメンテナンスにある程度手間をかけられる
THE LIMITED-MATTE METAL が向いている方
- 街中での存在感、周囲との違いを重視したい
- 洗車やボディケアに時間をかけることを楽しめる
- 将来的な資産性・希少性も判断材料にしたい
- 悪路走行の機会はほとんどない、街乗り中心の使い方である
限定車購入時に業界関係者が伝えたいこと
在庫・納期の考え方
限定車は、通常グレードと比較して生産計画上の台数があらかじめ決まっているケースが一般的です。人気の高い仕様や色は、想定より早く受注が埋まってしまうことも珍しくありません。「いつか欲しくなったら」ではなく、興味を持った時点で販売店に相談し、最新の受注状況・納期目安を確認しておくことを強くおすすめします。
見積もり・商談で確認すべきポイント
限定車を検討する際は、車両本体価格だけでなく、以下の点もあわせて確認しておくと、後々のトラブルを避けられます。
- 限定装備の保証範囲:専用パーツ(マット塗装、オールテレーンタイヤなど)がメーカー保証の対象になっているか
- 下取り・買取時の査定基準:限定車特有の装備が査定にどう反映されるか、複数の窓口で目安を確認しておく
- メンテナンスパックの適用範囲:マット塗装車の場合、通常のメンテナンスパックで対応可能な範囲かどうか
- 納車後のアフターフォロー体制:専用装備に関する相談ができる体制が整っているか
よくある質問(FAQ)
RS “LANDSCAPE” は雪道以外でも快適に使えますか?
車高アップとオールテレーンタイヤにより悪路への対応力は高まっていますが、街乗り中心の使用でも、標準のRSと比べて走行性能が大きく損なわれるわけではありません。ロードノイズや燃費面でわずかな違いはあるものの、日常使いにおいても十分な快適性を維持しています。
THE LIMITED-MATTE METAL は自分で洗車しても大丈夫ですか?
専用のシャンプーやコーティング剤を使用し、コンパウンド入りの製品や自動洗車機を避ければ、自分で洗車すること自体は問題ありません。ただし、初めてマット塗装車を扱う場合は、最初の数回は施工実績のある店舗に相談しながら進めると安心です。
2台とも購入後にカスタムパーツを追加できますか?
限定車専用の外装パーツが装着されている都合上、社外パーツとの組み合わせによっては、保証やフィッティングに影響が出る場合があります。カスタムを検討する際は、事前に販売店へ相談することをおすすめします。
まとめ
RS “LANDSCAPE” と THE LIMITED-MATTE METAL は、いずれも同じRSグレードをベースにしながら、「行動範囲を広げる道具としての力強さ」と「所有する喜びとしての唯一無二の個性」という、まったく異なる魅力を持つ限定モデルです。
どちらが優れているというものではなく、自分自身のカーライフのスタイルに、どちらが寄り添ってくれるかで選ぶのが正解だと思います。休日にアクティブに出かける機会が多い方はLANDSCAPEを、街中での存在感や特別感を重視する方はTHE LIMITED-MATTE METALを、それぞれ有力な候補として検討してみてください。
クラウン クロスオーバー本体の基本性能やグレード構成、標準装備との違いについては、以下の記事でさらに詳しく解説していますので、限定車選びの判断材料としてあわせてご覧ください。
(→ 新型クラウンCROSSOVER 2025年改良型 完全ガイドはこちら)

限定モデルは、登場するタイミングも、販売店ごとの取り扱い状況も流動的です。実車の確認や商談の際は、この記事の内容とあわせて、販売店で最新の設定内容・受注状況を確認されることをおすすめします。


