こんにちは、自動車ディーラー各位殿。2025年4月1日から、国内のクレジットカード決済において大きな変更が実施されました。この記事では、その変更内容と皆さまの店舗での対応策について詳しく解説します。
なぜサインが廃止されたのか?背景と目的
皆さんはお気づきでしょうか?2025年4月1日から、国内のクレジットカード決済において**「サイン」が原則廃止されました。これにより、今後はICチップ搭載カードでの暗証番号(PIN)入力が基本**となります。
この制度変更は、セキュリティ強化を目的に、国際的な決済基準に日本も準拠する形で導入されたものです。日常的な買い物から高額商品まで、すべての決済現場に影響を与える重要な変化です。特に自動車ディーラーの皆さまにとっては、高額決済・幅広い年齢層の顧客対応などの観点から、準備と理解が不可欠です。
偽造リスクの高い「サイン文化」からの脱却
これまで日本では、クレジットカード決済時の本人確認方法として「サイン」が広く使われてきました。しかし、サインには大きな問題がありました。店舗スタッフは、カードの裏面に書かれたサインと、お客様が書いたサインを目視で比較するだけでした。
実際のところ、多くの店舗では:
- サインの一致確認が形骸化していた
- スタッフがサインの真偽を厳密にチェックするトレーニングを受けていなかった
- 混雑時には確認作業が疎かになりがちだった
その結果、サインによる本人確認は偽造リスクが非常に高い状態が続いていました。特に自動車業界では、数十万円から数百万円という高額決済が日常的に行われるため、不正利用の標的になりやすい環境でした。
実際、国内での不正利用被害額は年間約300億円に上り、そのうち約4割が「偽造カードによるもの」との調査結果も出ています。特に車両購入時の一括決済などは標的になりやすい傾向がありました。
国際基準とのギャップ是正
欧米諸国や多くのアジア諸国では、すでに10年以上前からICチップ+暗証番号(PIN)による本人認証が主流となっています。世界の潮流からみると、日本だけが「サイン文化」に固執している状態でした。
このギャップにより:
- 訪日外国人観光客が「なぜサインが必要なのか」と混乱するケース
- 海外発行のカードでは暗証番号入力が標準のため、店舗スタッフが対応に戸惑うケース
- 国際的な決済セキュリティ基準から日本だけが取り残されている状況
こうした問題を解決するため、国際水準に合わせたPIN認証への移行が決定されました。
「暗証番号を覚えていない人が多いのでは?」という不安について
「お客様が暗証番号を覚えていないと、決済がスムーズに進まないのではないか」という懸念をお持ちの方も多いでしょう。
しかし、実際にはクレジットカード利用者の89%がPINコードを記憶しているという調査結果があります(※日本クレジット協会2024年実施調査)。なぜなら:
- 多くのユーザーは、すでにコンビニATMなどで暗証番号を日常的に使用している
- デビットカードの普及により、若年層を中心に暗証番号での決済に慣れている
- 主要クレジットカード会社は2024年後半から、利用者に暗証番号の確認通知を順次送付してきた
そのため、当初心配されていたほど大きな混乱は起こらないと見込まれています。
ただし、残る約10%の顧客――特に高齢者や外国人観光客、法人カードユーザーには、現場でのサポートが求められます。この点については後ほど詳しく解説します。
自動車ディーラーへの具体的な影響と対応策
自動車ディーラーは、他の小売業と比較して特殊な環境にあります。一回の決済金額が非常に高額であること、購入までのプロセスが長期にわたること、多様な年齢層・背景のお客様が来店されることなど、独自の課題があります。
それでは、具体的にどのような影響があり、どう対応すべきかを見ていきましょう。
◆ 高額決済時のトラブルリスク
車両購入やメンテナンスなど、ディーラーでの決済は数十万円から数百万円という高額になりがちです。そのため、「カードが使えない」「暗証番号がわからない」などのトラブルが発生した場合、単なる決済の問題ではなく、商談自体が破談するリスクがあります。
とりわけ危険なのは、車両登録直前や納車直前での決済トラブルです。ここで問題が生じると:
- お客様の不信感につながる
- 納期遅延の原因となる
- キャンセルにつながるケースもある
【対応策】
- 商談初期段階での事前案内
- 見積書を提示する際に「お支払い方法にカード決済をご希望の場合は、暗証番号(PIN)をご確認ください」と一言添える
- 契約時に支払い方法を確認し、カード決済希望者には改めて暗証番号の確認を促す
- 店内にPIN入力必須の案内ポスターを掲示する
- 複数の支払い方法の提案
- 銀行振込やローンなど、代替決済手段の選択肢を事前に提案しておく
- カード決済の場合は「暗証番号が必要」という点を明確に説明する
- 決済前の最終確認
- 納車予定日の1週間前に電話やメールで「カード決済の場合は暗証番号が必要です」と再度案内
- PIN入力が必要になる旨のリーフレットを用意し、契約時や納車前の来店時に手渡しする
事前の丁寧な説明と確認が、後々のトラブルを大きく減らします。特に高額決済だからこそ、お客様も慎重になります。その不安を取り除くための事前啓蒙が非常に有効です。
◆ 高齢者・外国人・法人カード利用者への配慮
自動車ディーラーには、様々な背景を持つお客様が来店されます。特に以下のような方々には特別な配慮が必要です:
- 高齢者のお客様
- 暗証番号を覚えていない、または設定したことを忘れている場合がある
- デジタル機器の操作に不安を感じる方も多い
- PIN入力の際に周囲に見られることへの不安がある
- 外国人のお客様
- 言語の壁により、PIN入力が必要な理由を理解できないケースがある
- 海外発行のカードでは、PIN入力に慣れていても日本の端末操作に戸惑う場合がある
- 文化的な違いから、決済トラブルに対する反応が異なる場合がある
- 法人カード利用者
- 会社名義のカードでありながら、実際の利用者が暗証番号を知らないケースがある
- 経理担当者からカードを預かっただけの社員が来店するケースも多い
- 高額決済のため、社内承認プロセスとの兼ね合いで柔軟な対応が必要
【対応策】
- 高齢者向け対応
- 暗証番号入力の際にプライバシーに配慮した空間を用意する
- 大きな文字で書かれた説明資料を用意する
- PIN入力が難しい場合の代替手段(後述)を事前に説明する
- 家族同伴での来店を推奨する案内を事前に行う
- 外国人向け対応
- 多言語の説明シート(特に英語・中国語・韓国語)を用意する
- 接客スタッフ向けの基本的な外国語フレーズ集を準備する
- 翻訳アプリなどのツールを活用した対応を準備する
- インバウンド需要の多い地域では、外国語対応可能なスタッフの配置を検討する
- 法人カード利用者向け対応
- 法人契約の場合、事前に経理担当者に「PIN必須」の旨を通知する
- 法人カードで購入予定の場合、契約段階で暗証番号確認を促す案内を行う
- 法人向けの特別案内資料を作成し、取引先に配布する
- 共通対応策
- PIN忘れの場合、写真付きの身分証による本人確認とカード会社への電話確認を併用
- お客様の前でカード会社に電話し、本人確認後に特別対応を依頼するプロセスを確立
- IC対応端末が暗証番号未入力時の「サイン代替確認機能」を有しているか確認 (※一部の端末では、PIN入力に複数回失敗した場合、例外的にサイン対応が可能な場合があります)
◆ 決済端末のIC対応状況の確認・更新
多くのディーラーでは、すでにIC対応の決済端末を導入していると思われます。しかし、古い端末では機能が限定的だったり、最新のセキュリティ基準に対応していなかったりする場合があります。
チェックポイント:
- 現在使用している端末が「ICチップ読み取り」に対応しているか
- 「暗証番号入力」機能が正常に動作するか
- 暗証番号入力がお客様から見えないような配置になっているか
- 例外処理(PIN入力失敗時の代替認証など)に対応しているか
- モバイル決済(Apple Pay、Google Pay等)に対応しているか

【対応策】
- 端末の確認と更新
- 現在使用中の端末が「ICチップ+暗証番号入力」に完全対応しているか、クレジット会社または端末ベンダーに速やかに確認する
- 契約しているカード決済代行会社に問い合わせ、最新の対応状況を確認する
- 必要に応じて、最新のIC決済対応端末へ更新を進める (2025年度は、多くの場合政府の中小企業デジタル化支援補助金の対象となったり、リース対応があったりするので活用すると良いでしょう)
- スタッフトレーニング
- 全スタッフに新しい決済フローの研修を実施する
- PIN入力時のプライバシー配慮の重要性を教育する
- トラブル発生時の対応マニュアルを作成し、ロールプレイング研修を行う
- 特に高齢者対応や外国人対応のシミュレーションを実施する
- 決済環境の整備
- PIN入力時のプライバシーを確保するための物理的配置を見直す
- 決済カウンターの照明や配置を見直し、お客様が暗証番号を入力しやすい環境を整える
- 混雑時も安心して決済できるよう、レイアウトを工夫する
PIN入力ができない場合の例外対応とは?
「どうしても暗証番号が思い出せない」「暗証番号を設定していない」といった場合でも、いくつかの例外対応が認められています。これらの対応方法を事前に理解しておくことで、現場での混乱を最小限に抑えることができます。
代替本人確認による例外処理
カード会社によって対応は異なりますが、多くの場合以下のような例外処理が可能です:
- 写真付き身分証明書による本人確認 運転免許証やパスポートなど、公的機関発行の写真付き身分証明書を提示してもらい、カード名義と一致することを確認します。
- カード会社への電話確認 店舗からカード会社のセキュリティセンターに電話し、カード所有者本人であることを確認する方法です。この場合、カード会社から顧客の登録電話番号に確認の電話がかかることがあります。
- サイン代替処理 一部のクレジットカード会社では、PIN入力が複数回失敗した場合や、特別な状況下で例外的にサインによる決済を認めています。ただし、この場合も写真付き身分証明書の提示が必要となります。
分割払いへの切り替え
高額決済の場合、その場で全額を決済せず、後日に分割で支払う方法に切り替えるという選択肢もあります:
- 頭金のみカード払い + 残額は振込 一部をその場でカード払いし、残額は銀行振込などで後日支払ってもらう方法です。
- ローンへの切り替え カード決済からディーラーローンや信販ローンへの切り替えを提案する方法です。
事前の準備がカギ
これらの例外対応をスムーズに行うためには、事前の準備が欠かせません:
- 各カード会社の例外対応ポリシーを調査し、整理しておく
- 例外対応時の手順書を作成し、スタッフ全員に周知する
- お客様への説明用チラシを用意し、必要に応じて提供できるようにしておく
- 例外対応が必要になりそうなお客様には、事前に必要書類を案内しておく
PIN時代のスタッフ教育:何を伝えるべきか
サイン時代からPIN時代への移行を成功させるためには、スタッフ教育が非常に重要です。以下のポイントを中心に、全スタッフへの教育を実施しましょう。
PIN(Personal Identification Number:個人識別番号)が広く普及し、日常生活において重要な役割を果たすようになった時代、つまり、キャッシュカードやクレジットカード、スマートフォンなどの利用においてPINの入力が不可欠となった時代を指して、比喩的に「PIN時代」と表現することが可能です。
基本的な知識の共有
- PIN入力が必須となった背景と目的
- 具体的な決済フローの変更点
- 主要なクレジットカード会社ごとの対応の違い
- 想定されるトラブルとその対応策
お客様への説明方法
- 商談の各段階でどのようにPIN必須を伝えるか
- お客様からの質問への回答例
- 高齢者や外国人へのわかりやすい説明方法
- PIN入力ができないお客様への代替案の提示方法
プライバシーへの配慮
- PIN入力時の視線の配慮(お客様の入力を見ないなど)
- 決済カウンターでのプライバシー確保の方法
- お客様がPINを入力しやすい環境づくり
- 他のお客様が近くにいる場合の対応
トラブル対応シミュレーション
- PIN入力に失敗した場合の対応
- PIN入力を拒否するお客様への対応
- カード決済そのものをキャンセルしたいお客様への代替案提示
- 高齢者がPIN入力に不安を感じている場合の声掛け
PIN時代のお客様コミュニケーション戦略

PIN入力必須化を、単なる「対応すべき問題」ではなく、お客様とのコミュニケーション強化の機会と捉えることも重要です。以下のような戦略を検討してみましょう。
1. 事前通知プログラム
- 既存顧客にメールやDMで「4月からのカード決済変更のお知らせ」を送付
- 来店予定のお客様には、事前に電話で案内
- 店舗ウェブサイトやSNSで周知
- 店内ポスターやリーフレットでの案内
2. スタッフの対応力向上
- 「PIN入力サポート担当」を各シフトに配置
- 高齢者や不安を感じるお客様への声掛けトレーニング
- 困っているお客様を見つけたら積極的に声をかける体制づくり
- 対応好事例の共有と表彰
3. 代替決済手段の充実
- QRコード決済(PayPay、LINE Payなど)の導入検討
- 銀行振込の手続き簡素化(QR付き振込用紙など)
- 分割払いオプションの拡充
- ディーラーローンの申込手続き効率化
4. 顧客満足度向上の機会に
- PIN入力サポートを通じた丁寧な接客の実践
- 決済時の不安解消が信頼構築につながることを意識
- トラブル解決時の迅速・丁寧な対応で逆に満足度を高める
- お客様からのフィードバックを積極的に収集し改善につなげる
よくある質問とその回答例
スタッフが現場で対応する際に役立つ、よくある質問とその回答例をまとめました。これらを参考に、自社の状況に合わせたQ&A集を作成しておくと良いでしょう。
Q1: なぜ突然サインからPIN入力に変わったのですか?
A: サインによる本人確認は偽造リスクが高く、国際的には10年以上前からPIN入力による本人確認が標準となっています。日本も国際水準のセキュリティ確保のため、2025年4月からこの方式に移行しました。お客様の大切なカード情報を守るための変更ですので、ご理解いただけますと幸いです。
Q2: 暗証番号を忘れてしまった場合はどうすればいいですか?
A: 暗証番号をお忘れの場合、カード会社にお問い合わせいただくことで再設定が可能です。また、当店では暗証番号をお忘れの場合でも、写真付き身分証明書をご提示いただき、カード会社への確認電話をすることで、特別に対応できる場合もございます。事前にカード会社へのご確認をお勧めします。
Q3: 法人カードを使いたいのですが、会社から暗証番号を聞いていません。
A: 法人カードの場合、経理担当者やカード管理者様に暗証番号をご確認いただく必要があります。もし難しい場合は、カード裏面に記載されているカード会社の問い合わせ番号にお電話いただくか、当店から法人様の登録電話番号へ確認のお電話をさせていただくことも可能です。
Q4: 高齢なのでPIN入力が不安です。サインではダメなのですか?
A: お気持ちはよく理解できます。PIN入力が不安な場合は、当店スタッフがお手伝いさせていただきますのでご安心ください。もし暗証番号がどうしても思い出せない場合は、例外的な対応も可能ですので、その旨をスタッフにお申し付けください。また、ご家族の方と一緒にご来店いただくことも可能です。
Q5: 外国のカードなので、PIN入力の方法がよくわかりません。
A: 海外発行のカードでも、基本的な操作方法は同じです。暗証番号を入力し、緑色の「確認」ボタンを押していただければ完了します。表示言語も英語表示に切り替えることができますので、ご希望の場合はお申し付けください。操作にお困りの際は、スタッフがお手伝いします。
まとめ|「丁寧な説明」と「早めの準備」が成功のカギ
今回のサイン廃止は、すべての事業者にとって取引の透明性・安全性を向上させる重要な一歩です。自動車ディーラーの皆さまは、日頃から高額商品を取り扱うからこそ、より一層の対応力と信頼の提供が求められます。
暗証番号制度へのスムーズな移行を実現するために、下記の3つの柱を軸に対策を講じていただくことを強く推奨いたします:

- 店舗スタッフへの事前教育
- 全スタッフへのPIN決済の仕組みと背景の説明
- 想定されるトラブルとその対応方法のシミュレーション
- お客様への説明方法やサポート方法の研修
- 高齢者や外国人対応のための特別トレーニング
- 顧客向けの事前案内
- 店舗ポスターやリーフレットの設置
- 既存顧客へのメールやDM送付
- 契約段階での丁寧な説明と確認
- 納車前の最終確認連絡
- 決済端末の早期確認・更新
- 現行端末のIC対応状況チェック
- 必要に応じた端末の更新
- PIN入力環境の整備(プライバシーへの配慮など)
- トラブル時の代替手段の準備
この変更は、一時的には現場に混乱をもたらすかもしれませんが、長期的には不正利用の減少やセキュリティの向上につながる重要な変革です。お客様との良好な関係構築のためにも、前向きに対応していきましょう。
最後に、各店舗の状況は異なりますので、本記事の内容を参考にしながら、自店舗に合った対応策を検討・実施されることをお勧めします。特に4月は決済トラブルが増える可能性がありますので、ゆとりを持ったスタッフ配置や対応時間の確保なども検討してみてください。
皆さまの店舗での円滑な対応を心より願っております。
「PIN時代」とは、PINが私たちの生活に深く浸透し、その重要性が増した時代を指す言葉として解釈できます。
参考資料
- 暗証番号 – Wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9A%97%E8%A8%BC%E7%95%AA%E5%8F%B7
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