2026年1月28日、トヨタ自動車は「プリウス」の後席ドアスイッチ周辺の不具合により、**約24万台(正確には239,504台)**に及ぶ大規模なリコールを国土交通省へ届け出ました。今回のリコールは、最悪の場合「走行中に意図せずドアが開く」という、安全の根幹に関わる重大な事象を含んでいます。
市場からわずか2件の不具合報告を受けて迅速に実施されたこのリコールは、トヨタの安全に対する真摯な姿勢を示すものですが、同時に新型プリウス(60系)が抱える設計上の課題を浮き彫りにしました。
本記事では、自動車業界に携わるプロの視点から今回のリコール内容を深掘りし、ユーザーが抱く疑問や不安を解消するための情報を網羅的に提供します。
なぜ2度目?2024年と2026年のリコール内容の決定的な違いとは

新型プリウス(60系)の後席ドアに関しては、2024年4月17日にも同様の「ドアが開くおそれ」によるリコールが実施されています。多くの方が「また同じ不具合か?」と感じるかもしれませんが、実は**「原因の本質」と「対策のアプローチ」が根本的に異なります**。
2024年リコールの内容(届出番号:5474)
対象台数: 約13万5千台(135,305台)
不具合の原因:
後席ドアハンドルの開スイッチの防水性能が不十分だったことです。洗車などで多量の水がかかるとスイッチ内部に浸入し、回路が短絡(ショート)してドアが作動するおそれがありました。
対策内容:
全車両、スイッチ自体を対策品(防水性を高めたもの)と交換するというものでした。
製造元の対応:
このスイッチを製造していたのは東海理化で、リコール対応費用として110億円を計上。2024年3月期の営業費用として反映されました。
2026年リコールの内容(届出番号:5770)
対象台数: 約24万台(239,504台)
不具合の原因:
スイッチ自体の防水性ではなく、**「回路設計の不十分さ」**に起因します。スイッチ付近に水が溜まっている状態でドアを極端に強く閉めると、一時的にシールの機能が低下して浸水し、短絡が発生するというものです。
対策内容:
スイッチの交換ではなく、左右の後席ドア回路に、意図しないドア開を防止するための**「リレー付電気配線」を追加**します。
業界関係者の視点:対策思想の進化が示す安全設計の深化
2024年のリコールは「水が入らないように防水性を上げる」という、いわば「入口対策」の考え方でした。しかし今回の2026年のリコールは、設計上の構造から「水が溜まってしまうこと」や「強い衝撃でシールが一時的に破れること」を現実的なリスクとして受け入れ、**万が一水が浸入して誤信号が発生しても、物理的にドアを開かせない(リレーで制御する)**という、より踏み込んだ安全対策へと進化しています。
これは自動車工学における「フェイルセーフ」の考え方そのものです。つまり、「故障や異常が発生しても、システムが安全側に作動する」という設計思想です。単に問題箇所を補強するのではなく、問題が起きたとしても重大事故に至らない仕組みを組み込む——この対策の変化は、トヨタの安全に対する考え方が一段階深まったことを示していると言えるでしょう。
走行中に後席ドアが開く原因と具体的な対策を徹底解説
今回の不具合は、特定の条件下で発生する「浸水による回路短絡」が引き金となります。一般的な使用環境では発生しにくいものの、条件が重なると重大な安全リスクとなる可能性があります。
不具合が発生するメカニズム:3つの段階
第1段階:水の滞留
雨天や洗車時、後席ドアのスイッチ周囲に水が溜まります。通常、適切に排水されるべき構造ですが、設計上の問題により水が滞留しやすい状態になっていました。
第2段階:強い衝撃
その状態でドアを「極端に強く閉める」といった動作が行われると、シールの密着が一時的に低下します。これは、衝撃によってドアパネルが一瞬変形し、シール材が本来の位置からずれることで発生します。
第3段階:短絡(ショート)
回路内に浸入した水が原因でショートが起き、ドアを開ける信号が誤って送られてしまいます。電気式ドアラッチシステムは、電気信号を受け取るとドアロックを解除する仕組みのため、誤信号によって意図しない動作をしてしまうのです。
この結果、「半ドア」の状態になって警告灯が点灯したり、最悪の場合は**「意図せずドアが開く」**という危険な状況に陥ります。
リレー付電気配線とは?その役割を理解する
今回の対策の核心となる「リレー付電気配線」について、少し専門的に解説します。
リレーとは:
リレーは、電磁石の力を利用して回路のオン・オフを制御する部品です。小さな電気信号で大きな電流を制御でき、車載電装品において非常に重要な役割を果たしています。
リレーの仕組み:
- コイルに電流が流れると磁力が発生
- 磁力によって接点が物理的に開閉
- これにより、別の回路の電流を制御
今回の対策における役割:
追加されるリレー付電気配線は、スイッチからの信号を直接ドアラッチに伝えるのではなく、リレーを介して制御します。これにより:
- 異常信号の遮断: 水による短絡で誤った信号が発生しても、リレーが適切に判断して遮断
- 物理的な安全機構: 電気的な故障が発生しても、物理的な接点制御により確実に作動を停止
- 二重の安全性: スイッチ部分の防水対策に加え、回路側でも安全を確保
自動車設計における根本的な制約
自動車の設計において、量産後にドアの形状や金型自体を変更するのは非常に困難です。なぜなら:
そのため、今回の「配線の追加」という対策は、既存の構造を最大限活用しながら、後付けで実施可能な最も確実な安全強化策と言えます。むしろ、ハードウェアの根本的な変更を伴わずに高い安全性を実現できる点で、優れた工学的解決策と評価できるでしょう。
自分のプリウスが対象か確認する方法と修理の流れを完全ガイド
愛車がリコール対象かどうかを確認することは、安全を確保するための第一歩です。以下、具体的な手順を詳しく解説します。
対象車両の確認方法:3つのステップ
対象となる生産期間:
令和4年(2022年)11月から令和7年(2025年)11月までに生産されたプリウスの一部車両です。約3年間という長期にわたる生産車両が対象となっているため、該当する可能性は決して低くありません。
確認ステップ1:車検証を準備
お手元に**「車検証」**を用意し、記載されている「車台番号」を確認してください。車台番号は、車検証の中ほどに記載されている英数字の組み合わせです。
確認ステップ2:公式サイトで検索
トヨタ公式サイト内の**「リコール等情報 対象車両検索」**ページにて車台番号を入力

確認ステップ3:販売店へ問い合わせ
検索方法が不明な場合や、自分の車が含まれるか不安な場合は、最寄りのトヨタ販売店に直接問い合わせるのが確実です。車台番号を伝えれば、その場で確認してもらえます。
修理費用と所要時間:無償で対応
修理費用:
リコール作業に伴う費用は**「無償(無料)」**です。部品代、工賃、すべて含めてトヨタが負担します。これは道路運送車両法に基づくリコール制度により、メーカーの責任で実施されるためです。
修理内容:
左右の後席ドア回路に、リレー付電気配線を追加する作業です。専門的な電気配線作業となるため、必ず正規販売店での作業が必要です。

作業時間の目安:
配線追加作業は比較的時間がかかる作業で、通常2〜3時間程度を見込んでおくと良いでしょう。ただし、販売店の混雑状況や部品の在庫状況によって変動します。
作業の受け方:
トヨタ販売店から順次案内(ダイレクトメール等)が届きますが、案内を待たずに最寄りの販売店へ来店日時を予約することをお勧めします。早めに対応することで:
- 好きな日時を選べる可能性が高い
- 部品不足による待ち時間を回避できる
- 安心して車を使用できる
3. 今すぐできる注意点と応急的な対処法
修理を受けるまでの間、以下の点に注意して車を使用してください:
異常の兆候に注意:
- 後席ドアの警告灯が点灯する
- 半ドア警告が頻繁に表示される
- ドアが正常に閉まらない感覚がある
これらの症状が現れた場合は、直ちに最寄りの販売店に連絡し、点検を依頼してください。
使用上の注意:
- スイッチ付近に水がある状態でドアを激しく閉めることは避ける
- 洗車後は、ドア周辺の水分をよく拭き取る
- 大雨の日の後は、特に注意深くドアの動作を確認する
後席乗員への配慮:
修理が完了するまでの間は、特に後席に小さなお子様やご高齢の方が乗車する際には、走行中にドアロックが確実にかかっていることを確認し、万が一の事態に備えてシートベルトの着用を徹底してください。
プリウス60系が採用する電気式ドアラッチシステム「e-ラッチ」の技術背景
今回の不具合を理解する上で、新型プリウスに採用されている電気式ドアラッチシステムについて知ることは重要です。
従来の機械式から電気式への進化
従来の機械式ドアラッチ:
長年、自動車のドアは機械式のワイヤーやロッドを使って開閉していました。ドアハンドルを引くと、ワイヤーが引っ張られ、物理的にラッチが解除される仕組みです。
電気式ドアラッチ(e-ラッチ)の特徴:
- ハンドル操作を電気信号に変換
- モーターでラッチを制御
- より軽い操作感を実現
- 将来的な自動運転への対応
e-ラッチのメリット
- 軽い操作感: 特にご高齢の方や力の弱い方でも楽に開閉できる
- デザインの自由度: ワイヤーの配置に制約されない車内レイアウトが可能
- 安全機能の追加: 走行中の自動ロック、衝突時の自動解錠などを容易に実装
- 静粛性の向上: 機械的な摩擦音が少ない
e-ラッチのデメリットと課題
- 電気系統への依存: バッテリー上がり時などに開かなくなるリスク
- 防水対策の難しさ: 電気部品であるため、水の浸入に弱い
- 複雑な回路設計: 今回のような設計上の課題が発生する可能性
- コスト増: 従来の機械式に比べて部品コストが高い
新型プリウスはこの先進的なシステムを採用することで、快適性と先進性を追求しましたが、同時に新しい技術特有の課題にも直面したと言えます。
リコール対応から見えるトヨタの品質管理体制と今後の展望
市場情報への迅速な対応
今回のリコールは、市場からわずか2件の不具合報告を受けて実施されました。この事実は、トヨタの品質管理体制の特徴を示しています:
早期発見システム:
- 全国の販売店からリアルタイムで不具合情報を収集
- AIを活用したパターン分析で潜在的なリスクを検出
- 少数の報告でも重大性を判断し、迅速に対応
予防的リコールの思想:
重大な事故が発生する前に、潜在的なリスクを排除する「予防的リコール」の考え方が、トヨタの品質管理の基本です。今回も、実際に走行中のドア開放事故が多数発生する前に対応を決断しました。
部品サプライヤーとの連携
2024年のリコールでは、スイッチを製造した東海理化が110億円の対策費用を計上しました。これは:
この連携体制こそが、日本の自動車産業の強みであり、今回のような段階的な対策の進化を可能にしています。
今後の電動化時代における課題
プリウスは、トヨタのハイブリッド技術の象徴であり、電動化の先駆者です。今回の事例は、電動化・電子化が進む自動車において、今後さらに重要になる課題を示唆しています:
電子制御システムの増加:
- より多くの機能が電子制御化
- 複雑な回路設計が必要に
- フェイルセーフ設計の重要性が増大
防水・防塵対策の高度化:
- 電気部品の増加に伴い、環境対策が重要に
- 長期的な耐久性の確保
- 極端な使用環境への対応
ソフトウェア・ハードウェアの統合設計:
- 物理的な設計と電気回路設計の高度な連携
- システム全体としての安全性確保
- 多層的なフェイルセーフ機構
まとめ:プロからのアドバイスと今後の自動車選びへの示唆
今回のリコールは、市場からの2件の不具合報告を重く受け止めたトヨタによる、大規模かつ迅速な対応です。走行中にドアが開くという事象は、同乗者の安全に直結するため、対象車両にお乗りの方は**「まだ大丈夫」と放置せず、早急にリレー配線の追加修理を受けてください**。
対策の本質的な意味
この対策を完了させることで、プリウスの後席ドア浸水問題は「もう一段安全に進化」した状態で解決に向かうはずです。単なる不具合の修正ではなく、以下の3層の安全対策が実現されます:
- 第1層:防水性の向上(2024年対策)
- 第2層:回路設計の改善(今回の対策の副次的効果)
- 第3層:フェイルセーフ機構(リレー追加による最終安全網)
自動車購入時の新しい視点
今回の事例から、私たち消費者が自動車を選ぶ際に考慮すべき新しい視点が見えてきます:
メーカーの対応力を評価する:
- リコール発生時の迅速性
- 根本的な解決策を講じる姿勢
- ユーザーへの丁寧な説明
新技術採用のメリット・デメリットを理解する:
- 先進的な技術には初期の課題が伴う可能性
- しかし、対策によってより安全な製品に進化
- 長期的な視点での技術の成熟度を見極める
リコール情報を定期的にチェックする習慣:
- トヨタ公式サイトの定期確認
- メールアドレス登録による通知受信
- 販売店との良好な関係維持
最後に:安全は一度きりではなく、継続的な改善の積み重ね
自動車業界に携わる者として、今回のリコールから学ぶべきことは多くあります。完璧な製品を最初から作ることは極めて難しく、むしろ市場の声に真摯に耳を傾け、継続的に改善していく姿勢こそが、真の品質管理だと言えるでしょう。
トヨタ プリウスは、ハイブリッド技術のパイオニアとして、これまで数々の技術革新を成し遂げてきました。今回の対策を通じて、さらに信頼性の高い車両へと進化することを期待しています。
対象車両をお持ちの方へ:
安全運転は、車の性能だけでなく、適切なメンテナンスと、メーカーの対策への協力があってこそ実現されます。この記事が、皆様の安全なカーライフの一助となれば幸いです。
参考情報:
- トヨタ自動車リコール情報:https://toyota.jp/recall/
- 国土交通省リコール情報:https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/
- リコール対象車両検索:https://www.toyota.co.jp/recall-search/
記事作成日: 2026年1月31日
対象リコール届出日: 2026年1月28日
届出番号: 5770


