オイルが届かない。2026年・潤滑油危機の現場から、ディーラー経営者が語る「今、業界に何が起きているのか」

営業

正直に言います。私がこの業界に入って20年以上経ちますが、今ほど「モノが来ない」という恐怖感を覚えたことはありませんでした。

エンジンオイルが、来ない。

これは大げさな話でも、一部の話でもありません。2026年現在、自動車ディーラーのサービス部門を預かる者として、私が毎朝出勤のたびに直面しているのは、「今日の入庫車両に、本当に適切なオイルを使って作業を完了できるか」という、かつては考えもしなかった問いです。

今回は、この現場の危機をできる限り包み隠さずお伝えしながら、政府が打ち出した「潤滑油直接販売スキーム」の全容、中間業者を巡る議論の本質、そしてプロとして絶対に押さえておくべきエンジンオイルの選定知識まで、現場目線で徹底解説していきます。業界関係者の方にも、大切なクルマを預けてくださっているお客様にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。

スポンサーリンク
  1. 2026年・現場で何が起きているのか——「流通の目詰まり」という静かな恐怖
    1. 中東情勢の悪化が日本のオイル市場を直撃した
    2. 「普通に注文しているのに来ない」という理不尽
  2. 政府が打ち出した「潤滑油直接販売スキーム」——現場の武器としてどう使うか
    1. 経済産業省・資源エネルギー庁が異例の緊急策を始動
    2. 対象となる条件——あなたの店は当てはまるか
    3. 相談窓口——「中東情勢関連対策ワンストップポータル」を活用せよ
  3. 中間業者を巡る「物議」——ネットの声と現場の本音
    1. 「中抜き排除」論争が業界内外で炎上
    2. しかし、現場を知る者として言わせてください
    3. 政府の補助金支援とサプライチェーン見直しの必要性
  4. 代替品を検討する前に知っておくべき「エンジンオイル選定の基礎」——プロ目線で完全解説
    1. ① ベースオイル(基油)の5分類——グループI〜Vを正しく理解する
      1. グループI(鉱物油)
      2. グループII・IIIについて(主流の「化学合成油」の正体)
      3. グループIV(PAO:ポリアルファオレフィン)
      4. グループV(エステル類その他)
    2. ② SAE粘度規格——「0W-20」「0W-16」の指定を絶対に守る理由
      1. 低温側(○○W:Winterの略)
      2. 高温側(末尾の数字)
      3. ⚠️ 最重要:低燃費車の超低粘度指定を外すな
    3. ③ 用途別・規格別の分類——ガソリン車・ディーゼル・バイクを混同しない
      1. ガソリン車向け
      2. ディーゼル車向け——DPF装着車は特に注意
      3. オートバイ向け——JАSOのMA/MB分類
  5. ■ 結論——難局を乗り越えるために、私たちが今できること
    1. 今、業界として取り組むべきこと

2026年・現場で何が起きているのか——「流通の目詰まり」という静かな恐怖

中東情勢の悪化が日本のオイル市場を直撃した

2026年に入り、中東情勢の緊迫化が日本の潤滑油市場に深刻な打撃を与えています。原油・基油の調達コスト上昇に加え、海上輸送の不安定化が重なり、国内の油剤メーカー各社は相次いで供給制限に踏み切りました。

具体的には——2026年4月時点において、ENEOSが潤滑油オーダーの出荷を一時停止。出光興産やシェルも受注制限や大幅な値上げを実施しました。これだけ聞けば「大手が動いているのだから仕方ない」という話に聞こえるかもしれませんが、私たちが直面した現実は、その先にありました。

「普通に注文しているのに来ない」という理不尽

3月下旬頃から、業界全体で「駆け込み需要」が急増しました。供給不安のニュースを受け、流通事業者や大手需要家が前年比を大幅に上回る量の発注を殺到させたのです。その結果、何が起きたか。

日本全体の必要量は確保されているのに、通常通り発注した事業者のもとへ品物が届かない——。

「流通の目詰まり」と言えば聞こえはいいですが、現場の感覚は「理不尽」の一言です。買い溜めをした誰かのせいで、真面目に適正量を発注し続けてきた私たちが割を食う。サービス部門にとって、使用するオイルが届かないというのは、端的に言えば「作業ができない」を意味します。

フロントデスクで「今日の予約は……オイル交換が7台です」と伝えられ、在庫を確認して絶句する。そんな朝が、現実に起きているのです。


スポンサーリンク

政府が打ち出した「潤滑油直接販売スキーム」——現場の武器としてどう使うか

経済産業省・資源エネルギー庁が異例の緊急策を始動

この事態を重く見た経済産業省・資源エネルギー庁は、2026年6月10日より「潤滑油の直接販売スキーム」を全業種を対象に開始しました。平時にはほぼ前例のない、異例の緊急介入です。

このスキームの核心は、「中間業者を介さず、主要潤滑油メーカーが最終需要家(事業者)に直接販売を行う」という点にあります。つまり、商社や卸売業者というワンクッションを飛ばして、メーカーから直接オイルを調達できる仕組みです。

対象となる条件——あなたの店は当てはまるか

このスキームを活用できる事業者の条件は、以下のとおりです。

  • 前年同月比で同程度の購入ができず、事業継続や操業に支障が生じる恐れがある
  • 在庫不足により、緊急の調達が必要である

正直、この条件、今の状況なら多くのディーラーやサービス工場が当てはまるはずです。「もしかして対象かも」と思ったら、迷わず動くべきです。

相談窓口——「中東情勢関連対策ワンストップポータル」を活用せよ

相談受付は、経済産業省の「中東情勢関連対策ワンストップポータル」で行われています。潤滑油の品目は数千を超える複雑な構成になっていますが、このポータルではそれらを横断的にカバーし、確実な供給を支援する体制が構築されています。

私自身も確認しましたが、問い合わせの入口は思ったよりシンプルです。「うちのような規模で相談していいのか」と遠慮する必要はまったくありません。むしろ、使わない手はない。これは「現場の武器」です。積極的に活用すべきです。

📌 実務ポイント:
相談窓口への問い合わせにあたっては、「前年同月の仕入れ量・金額」「現在の在庫量と不足量」「通常の発注先と発注頻度」を事前に整理しておくとスムーズです。資料を一枚にまとめてから連絡することをおすすめします。


スポンサーリンク

中間業者を巡る「物議」——ネットの声と現場の本音

「中抜き排除」論争が業界内外で炎上

直販スキームの発表直後から、ネット上や業界内で大きな物議が起きました。「これは中間業者による価格吊り上げや在庫の出し渋りを排除するチャンスだ」「卸売業者が目詰まりを起こしていた犯人だ」という批判的な声が相当数上がったのです。

気持ちはわかります。私自身も、「いつも通り頼んでいるのに届かない」という状況を前に、卸売業者への苛立ちを感じた瞬間がありました。

しかし、現場を知る者として言わせてください

冷静に考えてほしいのですが——卸売業者や商社が担っている機能を、一朝一夕でメーカーが代替できると思いますか?

私たちが毎月お付き合いしている卸売業者は、以下のような機能を日常的に果たしてくれています。

  • 小口・多品種配送:
    一度に数種類のオイルを少量ずつ、必要なタイミングで届けてくれる。メーカー直送ではロット単位になりがちで、小規模ディーラーには対応しにくい。
  • 与信管理・支払い猶予:
    月末締め翌月払いなど、資金繰りの緩衝材としての役割を担っている。キャッシュフローに余裕のない中小整備工場にとっては特に重要。
  • 情報のハブ:
    「このオイルは今品薄です」「代替品はこれが使えます」といった現場情報を素早く提供してくれる。メーカーの営業担当とは異なる、リアルタイムな情報ルート。

こうした機能は、直販スキームが始まったからといって、メーカーがすぐに担えるものではありません。今回の直販スキームはあくまで「有事の緊急避難措置」であり、普段の流通インフラとしての卸売業者の価値を否定するものではない——私はそう解釈しています。

政府の補助金支援とサプライチェーン見直しの必要性

政府は卸売業者に対しても「前年同月比同量」を基本とした供給継続を要請しており、補助金を通じて小ロット・多品種を扱う中小メーカーの品質管理体制や人材育成を支援する方針も示しています。

今回の事態が、日本の潤滑油流通の多層的な構造を根本から見直すきっかけになる可能性は確かにあります。ただ、「見直し」と「排除」は違う。現場を支えてくれている流通の担い手を一方的に悪者にするのではなく、有事にも平時にも機能する強靭なサプライチェーンをどう再構築するか——それが問われているのだと思います。


スポンサーリンク

代替品を検討する前に知っておくべき「エンジンオイル選定の基礎」——プロ目線で完全解説

「いつものオイルが来ない。じゃあ代わりに何でもいいか」——絶対にダメです。

エンジンオイルは、エンジンの「血液」です。適切な血液が流れなければ、エンジンはあっという間にダメージを受ける。代替品を検討しなければならない今だからこそ、フロントスタッフもメカニックも、全員が以下の3点を正確に理解していなければなりません。

① ベースオイル(基油)の5分類——グループI〜Vを正しく理解する

エンジンオイルの性能の大部分は、その基材となる「ベースオイル(基油)」で決まります。API(アメリカ石油協会)による分類では、5つのグループに分けられています。

グループI(鉱物油)

溶剤精製された最も伝統的なオイル。精製度は低く、酸化安定性や低温流動性に劣りますが、コストが安い。旧車や一部の高年式でも問題なく使える場合があります。ただし現代の低燃費エンジンには基本的に不向き。

グループII・IIIについて(主流の「化学合成油」の正体)

グループIIは水素化処理精製油。グループIIIは「VHVI(Very High Viscosity Index)油」とも呼ばれ、高度な水素化分解を経て精製されたもので、現在市場で「化学合成油」や「全合成油」と表記されているオイルの大多数がこのグループIIIです。「合成油と書いてあるから高性能に違いない」というざっくりした認識は、正確には誤りなので注意。

グループIV(PAO:ポリアルファオレフィン)

炭化水素を化学的に合成した純正の合成油。低温流動性、酸化安定性、熱安定性に極めて優れます。高性能スポーツカーや過酷な使用条件向けの高級オイルに使われることが多い。当然コストも高い。

グループV(エステル類その他)

エステル系オイルは金属表面に吸着する特性があり、極圧条件下での油膜保持能力が際立っています。モータースポーツ用や、PAOと混合して性能を補完する形で使われることが多い。一般的な乗用車向けのオイルに単独で使われることは少ないですが、高級オイルの成分として組み合わせられているケースがあります。

🔧 現場への一言:
代替品を探す際、「合成油」という表示だけで判断しないこと。グループIIIとグループIVは製法・性能ともに異なります。スペックシートでグループを確認する習慣をつけましょう。

② SAE粘度規格——「0W-20」「0W-16」の指定を絶対に守る理由

「10W-30」「5W-40」といった表記は、SAE(米国自動車技術者協会)による粘度分類です。フロントスタッフ全員がこの読み方を完全に理解していることが大前提です。

低温側(○○W:Winterの略)

数字が小さいほど、寒冷時のオイルの流動性が高く、エンジン始動直後の油圧確立が早い。「5W」は約-35℃程度まで対応、「0W」はさらに低温下でも始動時の保護性能を維持できます。

高温側(末尾の数字)

数字が大きいほど高温時の粘度が高く(硬く)、高負荷運転時の油膜保持力が強くなります。ただし粘度が高いほどフリクション(抵抗)も増えるため、燃費に影響します。

⚠️ 最重要:低燃費車の超低粘度指定を外すな

近年の低燃費エンジン——特にトヨタ・ホンダ・マツダなどの高効率エンジンでは、「0W-20」や「0W-16」といった超低粘度オイルがメーカー指定になっています。これらは内部クリアランスが極めて狭く設計されており、フリクションロスを最小化することで燃費性能を引き出す構造です。

指定外の粘度(たとえば代替として5W-30を入れる)を使用すると、オイルが流れにくくなり、始動直後の油圧不足による焼き付きや、ターボチャージャーのダメージにつながります。

「在庫がないから似たやつでいいか」は通用しません。粘度の互換性については、メーカーの整備情報を必ず確認の上、同一粘度グレードの製品を探すことが絶対条件です。どうしても見つからない場合は、そのことをお客様に明確に説明し、入庫日程を変更してもらうという選択肢も検討すべきです。

③ 用途別・規格別の分類——ガソリン車・ディーゼル・バイクを混同しない

エンジンオイルは、搭載エンジンの種類や仕様によって求められる性能がまったく異なります。代替品を探す際にここを間違えると、エンジンどころか排気後処理装置まで壊してしまうリスクがあります。

ガソリン車向け

API規格(SP、SNなど)やILSAC規格(GF-6Aなど)が一般的です。SPは最新規格で、燃費性能・LSPI(低速早期点火)防止性能・タイミングチェーン摩耗防止が強化されています。旧規格との後方互換性は基本的にありますが、より古い規格(SGなど)への使用には注意が必要です。

ディーゼル車向け——DPF装着車は特に注意

ディーゼルエンジンはスス(PM)の発生量が多く、高い清浄分散性が求められます。加えて、近年のディーゼル乗用車に標準搭載されているDPF(ディーゼル微粒子フィルター)は、オイルの硫酸灰分・リン・硫黄(SAPS)の含有量に非常に敏感です。

DPF装着車には、必ずJASO DL-1規格(低SAPS対応・乗用ディーゼル用)を使用しなければなりません。大型商用車にはJASO DH-2規格が対応します。一般のディーゼルオイルをDPF付き車両に使うと、フィルターが短期間で目詰まりを起こし、再生不能になるケースがあります。交換費用は数十万円規模になることも。絶対に間違えてはいけない部分です。

オートバイ向け——JАSOのMA/MB分類

オートバイはクラッチが同一オイル槽内に浸っている湿式クラッチ構造が多く、一般の自動車用オイルを使うとクラッチが滑る原因になります。JASO規格のMA・MA1・MA2(高摩擦係数)またはMB(低摩擦係数・スクーター等向け)を確認して使用することが必須です。

✅ フロントスタッフへの申し送り事項:
代替品を提案する際は、必ず①粘度グレード一致、②対応規格の確認(ガソリン/ディーゼル/DPF/バイク)、③ベースオイルのグループ確認の3点を全員が確認できるチェックシートを作ることをおすすめします。「なんとなく似てるから」で済まないのが今の状況です。


スポンサーリンク

■ 結論——難局を乗り越えるために、私たちが今できること

高品質なエンジンオイルは、エンジンの「血液」です。これは比喩でも誇張でもなく、物理的な事実です。正しい粘度・規格・品質のオイルが適切なタイミングで循環することで、エンジンは本来の性能を発揮し、長寿命を保てる。その「血液」の調達が脅かされている今、私たちは改めてオイルというものの本質的な重要性を問い直す機会を与えられていると感じています。

今、業界として取り組むべきこと

  • 適正購買(前年同月比同量)を徹底する:
    「念のため多めに」という発注が、誰かの手元からオイルを奪っています。業界全体で正常化するためには、一人ひとりの適正発注が鍵です。
  • 政府の直販スキームを活用する:
    お困りの事業者は、「中東情勢関連対策ワンストップポータル」への相談を躊躇わないでください。使える制度は使う。それがプロの判断です。
  • オイルの知識を現場全員で共有する:
    今回解説した基油分類・粘度規格・用途別規格は、フロントもメカも全員が理解していなければなりません。代替品の提案は、正しい知識があって初めて成り立ちます。
  • 流通パートナーとの関係を維持・強化する:
    今は正常ではない状況です。だからこそ、普段から信頼関係を築いてきた卸売業者との関係を壊さないようにしてください。有事を乗り越えた後も、彼らは私たちの現場を支えてくれる存在です。

この難局は、一社だけでは乗り越えられません。業界全体が正しい情報を共有し、冷静に、かつ迅速に動くことが求められています。

私はこのブログを通じて、現場の実態と正確な情報を発信し続けていきます。同じ立場の方々と、知識と経験をシェアしながら、この時代を乗り越えていけたらと思っています。

ご意見・ご質問があれば、お気軽にコメントやお問い合わせフォームからお寄せください。現場同士の情報交換が、今最も力になります。


※本記事は2026年6月時点の情報をもとに作成しています。政府スキームの詳細・最新情報は経済産業省の公式ポータルをご確認ください。
※エンジンオイルの選定・代替については、必ず車両メーカーの整備指示書および各油剤メーカーの仕様書を参照のうえ、専門家の判断のもとで行ってください。