大阪・関西万博でのデモフライトを経て、一時の熱狂こそ落ち着いたものの、「空飛ぶクルマ(eVTOL:電動垂直離着陸機)」の開発競争は静かに、しかし着実に前進しています。冒頭で触れられていた「スズキがスカイドライブへの支援を出資にとどまらず製造・人材面まで広げている」というニュースをきっかけに、国内自動車メーカー各社の空モビリティへの取り組みを整理しました。
スズキ×SkyDrive:出資から「人」と「工場」まで踏み込む関係へ

スズキとSkyDrive(スカイドライブ、愛知県豊田市、福澤知浩CEO)の関係は、単なる資本提携にとどまりません。
型式証明(TC)取得のプロセスが着実に進展
単なる「量産体制構築」ではなく、実際に規制当局との協議が具体的な節目を迎えています。
- 2025年2月:国土交通省航空局(JCAB)がSD-05型の型式証明活動において、当社の空飛ぶクルマ固有の耐空性・環境基準の詳細を定めた適用基準を発行。適用基準は型式証明取得の審査の前提となる技術要件で、eVTOLのような新カテゴリーの機体には汎用基準が存在しないため、当局とメーカーが協議して機種ごとに策定する必要があるものです。 SkydriveAviation Wire
- 2026年3月:さらに一歩進んで、JCABとSkyDriveが「全般計画書」について合意。これは型式証明取得に向けた連携体制やプロセスを含む適合性証明活動の全体構想で、機体全体としての安全性をどう証明するかについて当局との方向性が完全に一致したことを示すものです。SD-05の型式証明取得における不確実性を大幅に低減させる、中核となるマイルストーンと位置づけられています。 Response.jpResponse.jp
つまりスズキとの協業は「作る場所と人」の話にとどまらず、その先にある「型式証明を取って実際に飛ばす」という航空機開発特有の難所を、SkyDriveが一歩ずつクリアしている裏付けにもなっています。
大阪・関西万博での実績
- 2025年4月9日:メディアデーで高度約5m、飛行時間約4分間、パイロット非搭乗(自動制御+リモート操縦)による公開フライトを実施。 Robotstart
- 2025年7月31日〜8月24日:万博会場内「EXPO Vertiport」で一般向けデモフライトを開始。2020年の初有人飛行以来、無事故で飛行試験を積み重ねた安全性を背景に、一般公開デモに踏み切った形です。 Skydrive2020PR TIMES
- 2025年9月以降:Osaka Metroが整備した「大阪港バーティポート」でもデモフライトを実施予定で、Osaka Metroとは2028年を目途に森之宮エリアでのサービス開始を目指す提携を進めています。愛知・豊田市と山口・山口市の飛行試験場での開発と並行し、社会実装に向けたフェーズに入っています。 Skydrive2020PR TIMES
インド展開はスズキとの二人三脚がより具体化
「グローバル展開を視野に入れている」という段階を超えて、既に具体的な提携が動いています。
- Air India・SkyDrive・スズキの3社で、インドにおける医療航空物流に関する実現可能性調査のMoUを締結。 Initial Inc
- 量産機SD-05の機体構造を担う複合材部品の製造パートナーとして、インド有数の航空宇宙用複合材メーカーKineco社と提携。 Initial Inc
スズキが長年培ってきたインドでの生産・販売網(マルチスズキの存在感)を、単なる自動車ビジネスだけでなく「空飛ぶクルマ」のサプライチェーンや事業展開の足場としても活用しようとしている構図が見えてきます。
資金調達は累計430億円超に
- 2023年12月の第三者割当増資(銀行融資と合わせ総額96億円、シリーズC)
- 2025年7月:JR東日本・JR九州が新規株主として加わり、スズキ・大林組・関西電力・三菱UFJ銀行など既存株主とともに総額83億円を調達。これにより累計調達額は430億円超に到達。国内外でのプレオーダーは7カ国380機超に達し、事業のグローバル展開も加速しているとのことです。
まとめると
スズキとSkyDriveの関係は、①出資(資本)→②基本合意・製造協力契約(契約)→③SkyWorks稼働・人の出向(生産ノウハウの移植)→④資金調達への継続参加(資本の深化)→⑤インドでの共創(グローバル展開)という具合に、段階を追って「関与の質」が変化してきたのが特徴です。特に自動車メーカーが持つ「型式証明ほどの厳格さはないが、量産品質を安定させる生産管理ノウハウ」を、航空機という全く異なる規制産業に持ち込んでいる点は、日本の製造業の技術転用モデルとしても興味深い事例と言えそうです。
トヨタ×Joby Aviation:100年越しの「空への夢」を合弁会社で実現へ

FAA型式証明が最終段階へ
Jobyの型式証明プロセスは、米国内のeVTOL勢の中でも頭一つ抜けて進んでいます。
- 2026年3月、Jobyは全5段階あるFAAの型式証明プロセスのうち第4段階を完了。これは審査対象が「設計文書」から「実機ハードウェア」に移る節目で、推進システムやフライバイワイヤの飛行制御系がFAAにより直接評価され、実際に製造された機体が承認済み設計と一致することが確認されたことを意味します。 Electric-aircraft-conference
- 同3月、FAA適合機(TIA:Type Inspection Authorization、型式検査承認)による飛行試験が開始。これは型式証明プロセス最終段階である第5段階の始まりで、これまで個別システムごとに評価してきたFAAが、機体全体としての評価に入ったことを示します。 AeroTime
- 2025年の1年間でJobyの機体は米国・UAE・日本の3カ国で飛行し、総飛行距離は9,000マイル超、試験ポイントは4,900件超に達しました。大阪・関西万博では41便を飛行させています。 その締めくくりとして2025年12月には富士スピードウェイでトヨタと共同で1週間の飛行実証キャンペーンを実施しました。 Joby Aviation, Inc.Joby Aviation
- 型式証明取得は2026年後半を見込む段階まで来ており、Archer Aviationなど競合の一歩先を行く位置につけています。 Moomoo
合弁会社設立の中身
2026年6月30日の発表は、単なる提携強化のニュースリリースというより、量産に向けた「実行部隊」の立ち上げと言えます。
- 新会社名は「Joby Toyota Aero Manufacturing Preparation Company」、所在地は米カリフォルニア州。出資比率はトヨタ51%・Joby49%で、代表にはトヨタの鶴田洋介氏が就任。 Car Watch
- まずは生産体制の整備を行い、①認証審査に用いる機体(TIA機)の試作、②生産性・品質・コストの改善を含む生産準備、③将来の需要拡大を見据えた生産能力の増強、の3つを推進していく計画です。 Car Watch
- Joby創業者兼CEOのジョーベン・ビバート氏は、トヨタとの協業を「世界を代表する自動車メーカーによる、資金とリソース面での前例のないコミットメント」と表現し、トヨタの細部まで行き届いた製造工程がもたらす品質・信頼性を高く評価しています。 Toyota
生産能力の拡大:カリフォルニアとオハイオの二拠点体制
トヨタのTPS注入は「合弁会社設立」の前から実質的に始まっていました。
- 2025年7月、Jobyはカリフォルニア州マリーナ拠点を約4万平方メートルに拡張し、フル稼働時には年間最大24機の生産が可能になる計画を発表。同拠点は製造に加え、FAAの初期生産認証取得、地上・飛行試験、操縦士訓練、機体整備までを一体的に担う商用展開の中核拠点と位置づけられています。 Japan External Trade Organization
- 同時にオハイオ州デイトンでも部品の生産・試験を開始しており、将来的には年間最大500機の量産体制構築を目指しています。 Japan External Trade Organization
- 2026年1月:デイトン地域に70万平方フィート超の製造施設(2つ目のオハイオ拠点)を取得。これは2027年に月産4機へ生産能力を倍増する計画を後押しするもので、施設での操業は2026年内に開始見込みです。 Investing.com
- 重要なのは、この生産体制構築において出資元であるトヨタのエンジニアが設計・製造・品質管理の各工程を直接支援している点です。まさに「トヨタ生産方式を注ぎ込む」がスローガンではなく実務として進んでいることがうかがえます。 Japan External Trade Organization
豊田章男会長が語る「創業家の夢」の系譜
ユーザーの指摘の通り、この協業はトヨタにとって単なる新規事業ではなく、創業家の物語と結びつけられています。豊田章男会長は2026年の年頭あいさつで次のように振り返っています。
- 2018年に「モビリティカンパニー」を宣言した翌年の2019年、父・章一郎氏が「燃えない家をつくろうとコンクリートで平屋を建てた。平屋にしたのは、屋上から空飛ぶクルマで移動したいという夢があるから」と語っていたエピソードを紹介。これは祖父・喜一郎氏が父に何度も語り聞かせた夢だったといいます。 Toyota
- 章男氏は「喜一郎が作ろうとしたもの、それは『未来のモビリティ社会』という『場』だったのだと思います」と述べ、2019年のJobyとの協業開始を、喜一郎氏から章一郎氏へ、そして自身へと受け継がれた「夢」の実現として位置づけています。 Toyota
事業モデルの違い:スズキ×SkyDriveとの対比
スズキ×SkyDriveと並べると、両社のアプローチの違いが際立ちます。
| 観点 | トヨタ×Joby | スズキ×SkyDrive |
|---|---|---|
| 機体開発 | Jobyが主導、トヨタは生産技術で協業 | SkyDriveが自社開発、スズキは製造協力 |
| 規制当局 | FAA(米国、Stage 5まで進行) | 国交省JCAB(日本、全般計画書合意) |
| 生産拠点 | 米カリフォルニア・オハイオ | 静岡県磐田市(スズキグループ工場) |
| 出資構造 | 合弁会社でトヨタが過半数出資 | 資本提携(出資比率非公表、累計430億円超の一部) |
| 万博での披露 | ANAホールディングスとの提携で運航 | SkyDrive自身が運航事業者 |
トヨタは「機体そのもの」の主導権はJobyに委ね、生産技術・資金・ブランド力で下支えする一方、量産段階に入ったところで合弁会社という形で製造の実行主体に踏み込む、という段階的な関与の深め方をしている点が特徴的です。スズキが自社工場・出向者という形で早い段階から「現場に入り込む」アプローチを取ったのとは対照的に、トヨタは資本と技術支援を先行させ、量産直前というタイミングで合弁を組成するという「満を持して」の関与の仕方をしていると言えそうです。
ホンダ:独自の「ハイブリッド式」で長距離飛行を狙う

フルスケール実証機「F1」、初飛行に成功済み
- 本田技術研究所の航空宇宙研究部門「Honda 統合研究センター(HGR)」は2026年5月28日、開発中のeVTOLフルスケール技術実証機「F1」が初飛行試験に成功したことを公式Xで発表しました。 Traffic News
- 初フライトは4月1日、米カリフォルニア州サンルイスオビスポの開発拠点で実施。重量約7,000ポンド(約3.1トン)に達する実機サイズの機体が浮上し、約90秒間の飛行を達成しました。 Yahoo!ニュース
- ホンダは2020年からeVTOLの研究開発を本格化させ、これまでに縮小モデル(約3分の1サイズ)を用いて400回以上の飛行試験を重ねてきました。 Yahoo!ニュース
- Honda公式サイトでは、この技術検証機について「垂直離着陸用ローターと巡航用ローターを分け、巡航時には固定翼で揚力を得る」リフト&クルーズ型の機体構成であることが明記されています。 Honda
当初「2026年3月に無人・遠隔操縦で初飛行」という報道(AeroTimeは2025年11月時点で「2026年3月に米国で遠隔操縦の初飛行を予定」と報じていました)から見ると、実際には4月1日にずれ込みつつも、計画通りフルスケール機のテスト段階に入ったことになります。 AeroTime
ハイブリッド方式の技術的な中身
- パワーユニットは「ガスタービン・ハイブリッドシステム」で、ガスタービンで発生した回転エネルギーを電力に変換し、電動モーターでプロペラを駆動する方式。高出力化と航続距離の拡大を両立させるホンダ独自のアプローチと位置づけられています。 Honda
- ドバイエアショー2025では、実機サイズのキャビンモックアップに加え、ガスタービンエンジンと高回転ジェネレーターを組み合わせた「ターボジェネレーター」を展示。3分の1サイズの技術実証機による米国での飛行試験では、ホバリングから水平飛行へ遷移する「トランジション領域」の対気速度まで安定飛行できていることが確認されています。 Nikkei
- キャビン設計は「HondaJet同等の広さ」を目指し、自動車開発で培った静音・遮音技術を活用して快適な機内環境の実現を図っています。 Honda
なぜハイブリッドを選んだか:他社との差別化の核心
- ホンダは自動車・二輪車・F1レースカー・航空機「HondaJet」の開発を手がけてきており、eVTOL実現に必要な様々な技術を保有します。さらに、自動車用エンジンと航空機用エンジンの両方で商用化に必要な認証を取得している世界で唯一の企業でもあります。この「二重の認証実績」こそが、ハイブリッド方式という他社が避ける難路をあえて選ぶ根拠になっています。 Nikkei
- 現在は研究開発段階で商用化は未定としつつ、商用化で先行する競合他社の「第1世代の機体」を超える性能を持つ次世代機の開発を進めているとされています。つまりJobyやSkyDriveのような先行組を「後追い」するのではなく、あえて時間をかけて世代を一つ超える機体を狙う戦略です。 Nikkei
型式証明のロードマップと不確実性
- 2030年代のFAA型式証明取得を目指し、米国を中心に飛行試験やシステム検証を推進していく方針です。 Honda
- 興味深いのは、ドバイの実物大実証機をハイブリッド動力に転換するか、2機目のプロトタイプで試験フェーズを担当するかをまだ決定していない点で、これはスケジュールのコミットメントよりも技術的な検証を優先するホンダの計画的なアプローチを反映しているとみられます。 Low Altitude Economy
- JCAB(日本)とFAA(米国)のどちらの認証を先に取得するか、あるいはSkyDriveのように並行して進めるかについても、ホンダは明言していません。これは、スズキ×SkyDriveが国交省JCABとの「全般計画書」合意まで進んでいるのとは対照的に、ホンダがまだ認証戦略そのものを固めていない段階にあることを示しています。 Low Altitude Economy
3社の立ち位置を並べると
| 観点 | スズキ×SkyDrive | トヨタ×Joby | ホンダ(独自) |
|---|---|---|---|
| 開発主体 | SkyDriveが機体開発、スズキは製造 | Jobyが機体開発、トヨタは生産技術・資本 | 本田技術研究所が自社開発 |
| 動力方式 | 全電動(バッテリー) | 全電動(バッテリー) | ガスタービン・ハイブリッド |
| 想定航続距離 | 都市内近距離中心 | 都市内近距離中心 | 約400km(都市間移動) |
| 認証当局 | JCAB(全般計画書合意済み) | FAA(Stage 5進行中、2026年後半取得目標) | FAA中心、方針未確定(2030年代目標) |
| 直近マイルストーン | 大阪万博デモフライト実施済み | 合弁会社設立(2026年6月) | フルスケール機初飛行成功(2026年4月) |
| 商用化目標 | 2026年以降 | 2026年後半〜 | 2030年代早期 |
ホンダは3社の中で最も商用化を遅く設定していますが、それは裏を返せば「都市内近距離のエアタクシー」という当面の市場を最初から狙わず、都市間移動という電動勢が到達しにくい距離帯に照準を絞っているためです。現時点でJoby AviationがFAA認証プロセスで最も先行しており、日本ではSkyDriveが2026年4月に国産初の型式設計承認を取得するなど商用化に近づいていますが、ホンダは「一番乗り」ではなく「一世代先の性能」で勝負するという、HondaJetの開発思想を引き継いだ独自路線を貫いている点が際立ちます。
ダイハツはどうか

「後れを取っている」というより、そもそもダイハツは空飛ぶクルマの土俵に上がる設計になっていない、というのが実態に近そうです。背景を掘り下げると理由がはっきり見えてきます。
2023年の認証不正問題が転換点に
ダイハツは2023年に認証試験における度重なる不正が発覚し、2024年3月に取締役人事を刷新。井上雅宏新社長のもとで再発防止と信頼回復に取り組むことになりました。これが、その後の事業領域の絞り込みに直結しています。 webCG
- ダイハツは2024年4月、今後の事業方針として「ダイハツのリソーセス・知見に限界がある」ことを認め、新興国向け小型車については、トヨタが開発から認証までの責任を持ち、ダイハツはその委託を受けて実際の開発を担う形態に切り替えると発表しました。 Daihatsu
- これに伴い、これまでトヨタとダイハツの橋渡し役だった「新興国小型車カンパニー」(ECC)は解消。2024年5月から開発・認証のレポートラインはトヨタの「Toyota Compact Car Company」に移管され、開発の節目管理や商品計画のリソース管理もトヨタが責任を持つ体制になりました。 webCG
- 結果として、ダイハツが独自に商品企画・開発・生産を行うのは軽自動車のみ(と一部地域向け小型車)となり、それ以外の海外新興国向け小型車開発はトヨタの管理下に置かれることになりました。 Auto Prove
つまり2024年以降のダイハツは、自社の裁量で新規事業に踏み出せる経営体力そのものが構造的に絞られている状態です。空飛ぶクルマのような、認証プロセスの巧拙が生死を分ける新規航空事業に、認証不正の当事者だった会社が独自に手を挙げるのは、タイミング的にもガバナンス的にも極めて考えにくい状況だったと言えます。
「軽自動車の専門家集団」という明確な役割定義
不正問題後のダイハツの方針は明確で、「軽自動車を正しく作る」ことに集中し、ASEAN向け開発はトヨタに移管、ダイハツは軽自動車の企画・設計・製造の専門家集団に徹するという路線です。2025年6月の新型ムーヴ発表で新型車投入を再開し、信頼回復の第一歩としています。 Alteil
電動化についても、トヨタの電動化技術(バッテリー・モーター)を活用することで「ダイハツが単独で開発する」リスクを回避しながら実現する方針です。これは裏を返せば、ダイハツ単体でeVTOLのような先端技術に投資する体力や必然性が、グループ内の役割分担上そもそも与えられていないということです。 Alteil
グループ内では「エアロトヨタ」が空モビリティの受け皿
ユーザーが既に触れている通り、トヨタグループ内の空モビリティ機能は「エアロトヨタ」が担っており、Vポート(空飛ぶクルマの離着陸ポート)の適地選定から進入路検討までのコンサルティング、UAV測量、官民協議会への参画などを手がけています。同社のサイトにはJoby Aviation提供の機体画像が使われており、トヨタ×Jobyのグループ内インフラ機能を担う位置づけが明確です。 Aerotoyota
これは、トヨタグループが「機体開発(Joby)」「生産技術(トヨタ)」「地上インフラ・測量(エアロトヨタ)」という形で役割を分業していることを示しており、ダイハツにその役割が割り当てられていないのは、単に「軽自動車・新興国小型車」という既存の役割に特化させる経営判断の結果と見るのが自然です。
まとめ:「出遅れ」ではなく「そもそも走っていないレーン」
- スズキ・トヨタ・ホンダが各々のやり方でeVTOL開発に資源を投じているのに対し、ダイハツにはそのような発表が一切ない
- これは技術力や意欲の欠如というより、2023年不正問題後の経営再建で「軽自動車に資源を集中」という明確な選択をした結果という側面が強い
- グループ内で見れば、空モビリティの機能はトヨタ本体とJoby、そしてエアロトヨタが担っており、ダイハツがそこに参加する必要性自体が薄い
強いて言えば、ダイハツの技術(軽量化・低コスト設計・小型パッケージング)は将来的にeVTOLの機体コスト低減に生きる可能性はありますが、現時点でその接続を示す発表は見当たりません。今後もし言及があるとすれば、トヨタ本体からの「グループ全体でのモノづくり知見活用」という文脈で、ダイハツの名前が間接的に出てくる形になりそうです。
各社の取り組み比較

| メーカー | 主な相手 | 開発方式 | 直近のトピック |
|---|---|---|---|
| スズキ | SkyDrive(国内スタートアップ) | 出資+製造受託(子会社SkyWorks) | 従業員の半数がスズキ出向、量産体制の構築、インド展開 |
| トヨタ | Joby Aviation(米スタートアップ) | 出資+量産合弁会社 | 2026年6月に量産JV設立合意、累計出資約1,360億円 |
| ホンダ | 自社開発(本田技術研究所) | ハイブリッド式eVTOL自社開発 | 2026年春に実機サイズ初飛行、2030年代商用化目標 |
| ダイハツ | (独自の発表なし) | トヨタグループとして間接的に関与 | ― |
まとめ:3者3様のアプローチ

同じ「空飛ぶクルマ」という目標でも、各社のアプローチは対照的です。
- スズキは、資金だけでなく人材・工場という「モノづくりの現場力」をスタートアップに提供し、二人三脚で量産化を進める伴走型。
- トヨタは、有力スタートアップへの出資を段階的に積み増し、最終的には量産を担う合弁会社という形で経営に深く関与する布石型。
- ホンダは、他社に頼らず自社技術(HondaJet・F1・ハイブリッド技術)を結集し、ハイブリッド式という独自路線で差別化を図る自前主義型。
矢野経済研究所の予測では、世界の空飛ぶクルマ市場は2025年時点で600億円程度とされていますが、2050年頃には180兆円を超える規模まで成長するとの試算もあります。実用化までにはバーティポート(発着場)整備や型式認証、パイロット育成、社会受容性の醸成など課題は山積みですが、日本の自動車メーカー各社がそれぞれの強みを生かしながら「空の移動革命」に着実に布石を打っている様子が見えてきます。
今後、大阪メトロが2028年をめどに空飛ぶクルマの商用運航開始を目指すと表明するなど、社会実装に向けた動きも具体化しつつあります。次回は、こうしたインフラ側(バーティポート整備や運航事業者)の動向についても掘り下げてみたいと思います。

