~「1日880円」が揺さぶるレンタカー業界の常識と、2030年・1兆円市場の行方~
2026年2月27日、京都府城陽市に「業務レンタカー 京都城陽店」がオープンしました。これは、全国で60店舗以上を展開する「業務レンタカー」の京都府内初出店であり、自動車業界に大きな激震を走らせています。

私はこの業界に長年関わる者として、今回の京都進出を単なる「一店舗のオープン」として見ていません。これは、日本のレンタカー市場が抱える構造的な矛盾を突いたビジネスモデルの拡大であり、大手各社が今後のサービス戦略を根本から見直さなければならないことを示すシグナルでもあります。
本記事では、自動車業界に身を置く者の視点から、なぜこの「格安レンタカー」の進出が業界の地図を塗り替えようとしているのか、その現状と今後の展望を、市場データも交えながら徹底解説します。
■業務レンタカーとは何者か──借金5,000万円から全国60店舗への軌跡
まず、業務レンタカーを運営する株式会社カーチョイス(本社:大阪府寝屋川市、代表取締役:田川 英紀)について説明しておく必要があります。この会社の歩みを知ることで、なぜこのビジネスモデルが市場に刺さるのかが理解できるからです。
田川代表は1974年生まれ。19歳から自動車販売店に勤め、26歳で中古車販売会社「株式会社カーチョイス」を設立しました。しかし中古車販売業は競合が多く、事業は伸び悩み。一時期は借金5,000万円を抱え「このままでは倒産してしまうかもしれない」という思いに苦しんだといいます。
大きな方向転換を模索していたとき、田川代表が目を向けたのは「まだまだ活用できるのに持て余されている中古車たち」でした。「もったいない」「中古車を活用して人に喜んでもらいたい」──そのシンプルな発想から、2012年3月にレンタカー事業をスタート。4年後の2016年3月に「業務レンタカー」1号店を出店し、さらに2021年からフランチャイズ展開を開始しました。
そこから約5年でオープン実績(延べ)全国62店舗への拡大は驚異的なスピードです。しかも現在では、フランチャイズ加盟店の中に上場企業まで名を連ねるに至っています。逆境から生まれたビジネスモデルが、いまや大手資本をも引き寄せている──これが業務レンタカーという存在の本質です。
■業務レンタカーと大手各社のサービス・料金の違いは
では、業務レンタカーと大手各社のサービスや料金の違いを具体的に見ていきましょう。
圧倒的な低価格設定──桁が違う
業界関係者として最初に数字を見たとき、私は正直「これは採算が取れるのか?」と思いました。
大手レンタカー会社(トヨタ、日産、ニッポンレンタカー等)の1日あたりの基本料金は、通常8,000円〜9,000円程度が相場です。それに対して、業務レンタカーは**1日880円(税込)〜**という、桁違いの安さを実現しています。
さらにマンスリー(1ヶ月)で比較すると、その差はより鮮明になります。大手レンタカー店では1ヶ月約140,000円が相場であるのに対し、業務レンタカーでは**1ヶ月26,400円(税込)〜**でレンタルが可能です。単純計算で、約5分の1という驚異的な価格差です。
| 比較項目 | 大手レンタカー(参考) | 業務レンタカー |
|---|---|---|
| 1日料金(目安) | 8,000〜9,000円 | 880円〜 |
| マンスリー料金(目安) | 約140,000円 | 26,400円〜 |
| 主な車両 | 新車・最新モデル中心 | 中古車を有効活用 |
| 拠点立地 | 駅前・空港など一等地 | 空きスペース・郊外型 |
| 商圏範囲(目安) | 約半径5km | 約半径25km |
| ワンウェイ(乗り捨て) | 対応(大手は強み) | 基本的に非対応 |
| リピート率 | ー | 驚異の50% |
サービスモデルの根本的な違い「どこにコストをかけるか」という哲学の差
なぜこれほどの価格差が生まれるのでしょうか。それは「どこにコストをかけるか」という経営戦略の根本的な違いにあります。
大手レンタカー各社は
最新モデルの車両を揃え、駅前や空港などの一等地に出店することで、利便性・車両クオリティ・安心感を売りにしています。トヨタレンタカーに代表されるように、日本一の店舗網と保有台数を誇り、独自の「ワンウェイシステム(乗り捨て)」など広域ネットワークの強さも大きな魅力です。しかし、この「最高品質・最高利便性」の追求は、同時に莫大な固定費の積み上げを意味します。高い駐車場代、新車調達コスト、スタッフの人件費──これらがすべて料金に反映されています。
対して業務レンタカーは
が掲げるのは「土地活用 × 低コスト運営」という独自の哲学です。持て余している駐車スペースなどを活用することで固定費を極限まで抑え、車両も中古車を有効活用することで調達コストを大幅に削減。さらに独自の特許システムを活用した「低コスト運営モデル」により、フランチャイズ加盟への参入障壁も低く設計されています。
興味深いのは、この「スモールスタート」モデルの設計が実に緻密な点です。利用客のほとんどが1ヶ月以上の長期レンタルであるため、清掃や洗車などの手間が短期利用に比べて圧倒的に少なく、ワンオペでも十分に営業が成立するように設計されています。人件費を最小化した上で、浮いたコストを料金還元に充てるという仕組みが、この圧倒的価格差を生む根底にある仕掛けです。
独自の利便性とリピート率の秘密
業務レンタカーは、単に安いだけではありません。通常5km程度と言われるレンタカーの商圏範囲を、独自の集客力で半径25kmまで広げることに成功しているのは注目に値します。
さらに、利用者が高く評価しているのが**「24時間いつでも発着サービス」**です。営業時間外でも鍵の受け渡しが完結できるこの仕組みは、忙しいビジネスパーソンや夜間・早朝に移動が必要な方には特に重宝されます。出発時は事前に手続きと鍵渡しを済ませておき、返却時は鍵をポストに投函するだけ──この手軽さが継続利用を生む大きな動機になっています。
また、Web予約時に実際の車両の走行距離や内装写真を確認できるシステムは、「中古車だから状態が心配」という利用者の不安を先回りして解消する工夫です。これはWeb集客にも直結しており、月間サイト閲覧者数は10万人以上を誇るというデータがあります。徹底したSEO・MEO対策により「長期レンタカー」関連ワードでGoogle検索の上位をキープし続けているのも、業務レンタカーの集客戦略の核心部分です。
こうした「安さ」と「利便性」の両立が、驚異の**リピート率50%**という数字に結実しています。これは業界水準から見ても、極めて高い顧客満足度を示す指標です。
■長期レンタカーがビジネスや節約に有利な理由
近年、ビジネス利用や賢い節約術として「中長期レンタカー」を選ぶ層が急増しています。この背景には、消費者の車への意識変化と、企業の財務マネジメントの変化という二つの大きな潮流があります。
法人・個人事業主の経費削減──車を「所有」から「利用」へ
ビジネスシーンでは、介護事業者の送迎車、新車納車待ちの代車、転勤先での営業車、プロジェクト期間限定の社用車として、長期レンタカーの活用が広がっています。
自社で車両を保有する場合、税金・車検・メンテナンス・駐車場代などの固定費と管理の手間が毎月発生します。一台の乗用車を維持するのに年間数十万円のコストがかかるのは決して珍しくない話ではありません。長期レンタカーであればこれらがすべて料金に含まれており、「必要な期間だけ、必要な台数だけ」という柔軟な運用が財務の健全化に寄与します。業務レンタカーが「真の車のサブスクサービス」と自称する所以はここにあります。
グローバルの市場動向を見ても、長期レンタルの台頭は明確なトレンドです。市場調査機関のデータによると、2024年時点では短期レンタルが市場の約65%を占めるものの、長期レンタル契約は2025〜2030年の予測期間において**年平均成長率10.68%**という最も高い成長率で拡大が見込まれています。法人顧客が固定的なリース契約よりも月単位の柔軟なレンタルを好む傾向が世界規模で広まっており、業務レンタカーが狙うポジションはまさにこのトレンドの真っ只中にあります。
自動車販売・整備店との高い相乗効果──「レンタアップ戦略」の妙
自動車業界の内側から見ると、業務レンタカーのモデルが中古車販売店や整備工場にとって非常に魅力的なビジネスモデルである点は、業界関係者として特に強調しておきたい点です。
業界では「レンタアップ戦略」と呼ばれる手法があります。長期在庫で売れ残っている中古車を一時的にレンタカーとして稼働させ、一定期間後に「レンタアップ車(使用期間の短い中古車)」として販売する。これにより、1台の車両から「在庫リスクの軽減+レンタル収益+販売益」という三重の収益を引き出すことができます。
在庫が長期化するほど値崩れが進む中古車販売において、この手法は不良在庫を「稼ぐ資産」へと転換する処方箋であり、フランチャイズ加盟店に上場企業が増えている背景には、この収益モデルの合理性があります。業務レンタカーの「格安」は、実はこうした精緻な収益設計によって持続可能な形で実現されているのです。
個人の節約メリット──賢い「使い方」が生まれている
個人にとっても、長期レンタカーには多様な活用シーンが広がっています。引っ越し時の荷物搬送、ワーケーション中の移動手段、愛車が故障中の長期代車、さらには「試しにEVに乗ってみたい」といった車種体験目的など、使い方のバリエーションは多岐にわたります。
1日単位のレンタルを繰り返すよりも、ウィークリーやマンスリープランを利用することで1日あたりの単価を大幅に抑えられるのは明白な事実です。「毎週末だけ車が必要だが、所有はしたくない」「新車が届くまでの3ヶ月、手頃な車があれば」──こうした細やかなニーズに「1ヶ月26,400円〜」という価格が応えられるのは、これまでのレンタカー業界にはなかった体験です。
日本のレンタカー市場は、2025年時点で登録台数が116万8,522台(全国レンタカー協会調べ)に達し、2030年には1兆円規模の市場になるとの予測も出ています。その拡大を支えているのは、まさにこうした「使い方が変化した消費者」の存在です。
■訪日外国人の利用増加に伴うレンタカー業界の課題と対策
京都への進出において避けて通れないのが、訪日外国人によるレンタカー利用の急増という問題です。観光地・京都を擁する城陽市周辺は、この課題が凝縮された地域でもあります。
急増する需要と事故率の課題──データが示す深刻さ
全国のレンタカー登録台数は、2014年の63万台から2024年の約109万台へと10年間で73.6%増(全日本レンタカー協会)。この急増に、訪日外国人のレンタカー利用拡大が大きく寄与しているのは業界関係者の間では周知の事実です。内閣府の交通安全白書によると、レンタカーを利用した訪日外国人は2012年の26.7万人から、わずか5年後の2017年には140.6万人へと5.3倍まで膨れ上がりました。
それに伴う事故の課題は、数字として直視しなければなりません。交通事故総合分析センターの分析レポートによると、「観光・娯楽目的のレンタカーにおける相対事故率(道路利用頻度を考慮した事故リスク指標)」は、日本人の2.5に対して訪日外国人は13.8と、約5.5倍という数値が示されています。さらに右側通行国からの来訪者に限ると相対事故率は12.9、左側通行国(日本と同じ)からの来訪者でも9.0と高い水準にあります。
京都では関西国際空港から入国し、レンタカーで観光地を巡る外国人旅行客が特に多く、天橋立・嵐山・奈良への周遊ルートなどで外国人ドライバーと遭遇する機会は年々増えています。観光都市としての魅力が高まるほど、この問題への対応が急務となっていくのです。
業界全体で取り組むべき対策──多角的なアプローチが必要
一般社団法人全国レンタカー協会をはじめとした業界団体は、すでに具体的な取り組みを進めています。業務レンタカー京都城陽店を含む業界各社は以下のような対策を急務としています。
多言語対応の徹底については、貸渡約款や安全運転マニュアルの多言語化(英語・韓国語・中国語繁簡体字等)が基本対応として求められます。全国レンタカー協会が作成した「外国人向けレンタカーご利用ガイド(Car Rental Guide)」の配布が奏功し、2017年に123件あった外国人によるレンタカー事故件数が2018年には109件へ、約11.4%減少した実績があります。こうした地道な啓発活動の継続が不可欠です。
日本固有の交通ルールの事前説明も非常に重要です。左側通行に不慣れなドライバーへの「KEEP LEFT」などの注意表示、「止まれ」標識の意味説明(漢字だけでは外国人には通じない)、給油種別(軽油・ガソリン・レギュラー・ハイオク)の間違いを防ぐ燃料種別啓発チラシの配布など、「渡してから事故が起きる」のではなく「渡す前に防ぐ」姿勢が問われています。
注意喚起ステッカーについては、一般社団法人全国レンタカー協会が外国人ドライバーであることを後続車に知らせる専用マグネットステッカーの取り組みを進めています。後方ドライバーへの周知は、追突や幅寄せなど双方向の事故リスクを下げる効果があります。国土交通省はETC2.0の急ブレーキデータ等を活用して、外国人特有の事故危険箇所を特定し、ピンポイントの事故対策を講じる取り組みも進めており、こうした官民連携の強化が今後さらに重要になります。
法令遵守の強化については、業界関係者として正直に申し上げなければなりません。急激な市場拡大の中で、一部の格安レンタカー店で「定期点検整備の未実施」や「整備管理者の未選任」といった法令違反が懸念されています。1日880円という価格破壊的な料金を実現するために、整備コストを削ることは絶対に許されません。車の安全はドライバーだけでなく、道路を共有するすべての人の命に関わる問題です。業界全体の信頼を守るために、規制当局による適切な指導・監督の強化と、各事業者の自主的なコンプライアンス徹底が不可欠です。
■まとめ:2030年・1兆円市場で問われる「生き残り戦略」
「業務レンタカー」の京都進出は、単なる一店舗のオープンに留まりません。それは、日本のレンタカー市場が「高単価・短期利用」から「低単価・中長期利用」へとシフトする歴史的な転換点を象徴する出来事です。
国内レンタカー市場は2025年時点で過去最大規模を更新し続け、2030年には1兆円規模への到達が見込まれています。しかし「市場が拡大する」ということは、同時に「競争が激化する」ということでもあります。
大手が提供する「新車・安心・広域ネットワーク」という価値と、業務レンタカーが提供する「圧倒的コスパ・長期利用・独自の利便性」という価値。これらは必ずしも正面衝突するものではなく、消費者のニーズによって使い分けられる補完関係にある面もあります。旅行で全国どこでも乗り捨てたい旅行者は大手を選び、3ヶ月間の転勤で安く車が欲しい会社員は業務レンタカーを選ぶ──そうした住み分けが明確化していく時代に突入しつつあります。
ただし、業界の内側にいる者として見えているのは、大手各社が「長期・格安」の需要を黙って見過ごすはずがないという現実です。トヨタレンタカーは「トヨタシェア」などのデジタルサービスで差別化を図り、日産やニッポンレンタカーも法人向け長期プランの拡充を進めています。業務レンタカーが掘り起こした市場に、資本力のある大手が本格参入したとき、そのとき業務レンタカーが持つ「土地活用×中古車活用」という本質的コスト構造の優位性が真に試されることになるでしょう。
京都城陽店のオープンにより、京都エリアの移動手段に「格安長期レンタル」という強力な選択肢が加わったことは間違いありません。古都・京都の地で、観光・ビジネス・生活のすべてのシーンに「車をもっと気軽に」という文化が根付くとき、レンタカー業界は新しい姿へと変貌を遂げているはずです。
私たち自動車業界に関わる者にとって、この変化は脅威ではなく、市場そのものが豊かになるチャンスです。業務レンタカーの「価格破壊」を、業界全体の進化の触媒として捉えていきたいと思います。
業務レンタカー 京都城陽店 概要
本記事は自動車業界従事者として、一般公開情報・公式プレスリリース・各種統計データをもとに執筆しています。料金はすべて税込表示であり、条件によって変動する場合があります。最新情報は各社公式サイトをご確認ください。

