パリモーターショー2026に見る世界の潮流

新車情報

2026年10月12日、フランス・パリのポルト・ド・ヴェルサイユで「モンディアル・ド・ロト(Mondial de l’Auto)」、日本ではパリモーターショーと呼ばれる自動車ショーが開幕しました。

業界に身を置いて46年になりますが、今回ほど「会場の顔ぶれが、そのまま世界の勢力図になっている」と感じるモーターショーは、そう多くありません。かつてモーターショーは各メーカーの新型車を見る場所でした。今回のパリは、貿易摩擦、環境規制の揺り戻し、ソフトウェア競争といった産業構造の変化を、そのまま並べて見せる場所になっています。

本記事では、一人の業界関係者として、今回のパリモーターショーから読み取れる「4つの世界潮流」を、現場の視点も交えながら整理します

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  1. パリモーターショー2026の基本情報と「復活」の意味
      1. 開催概要
      2. 128年の歴史を持つ「世界最古級」のショー
      3. 「モーターショー離れ」からの回復
  2. 潮流①:中国勢の怒涛の欧州攻勢——出展ブランドの3分の1が中国
    1. 数字で見る中国勢の存在感
      1. 出展ブランド数は前回の倍に
      2. 欧州市場でのシェア拡大
    2. 関税の壁を「PHEV」で越える戦略
    3. 主な中国ブランドの顔ぶれと狙い
      1. BYD・デンツァ:中国勢の中心
      2. チェリー系:OMODA・JAECOO
      3. リープモーター:欧州資本と組む中国メーカー
      4. ジーリー系:Zeekr・Lynk & Co
      5. 新たに参入する顔ぶれ
    4. 業界関係者の視点:本当の勝負は「売った後」にある
  3. 潮流②:欧州勢の反撃——ヘリテージを武器にした「ネオレトロ」電動化
    1. シトロエン 2CV コンセプト:今回のショーの主役
      1. 発表内容の要点
      2. 細部に宿る「2CVらしさ」
      3. 「1948年のパリ」との符合
    2. ルノー:3台のコンセプトで「家族」「走り」「遊び」を表現
      1. E-Space コンセプト
      2. 8 ゴルディーニ コンセプト・4 JP4x4 コンセプト
    3. プジョー:未来志向のコンセプトと実用車の両立
    4. イタリア・ドイツ勢の動き
    5. 業界関係者の視点:ネオレトロは「懐古趣味」ではなく「価格戦略」
      1. 理由1:ブランドの物語は中国勢が持っていないもの
      2. 理由2:小型・軽量化はコスト競争への直接の答え
      3. 理由3:整備性・タイヤ・ブレーキへの影響
  4. 潮流③:「EV一辺倒」から「マルチパワートレイン」の現実路線へ
    1. EUの2035年規制見直しという大前提
      1. 見直し案の骨子
    2. 「E-Car」——欧州版の小型EVカテゴリー
    3. PHEV・レンジエクステンダーの台頭
    4. 業界関係者の視点:整備現場から見た「マルチパワートレイン時代」
      1. EREVは「EVだからメンテナンスフリー」ではない
      2. 高電圧系と内燃機関系の両方の知識が必要に
      3. 工場設備と人材への投資
  5. 潮流④:SDV(ソフトウェア定義車両)と知能化の加速
    1. 競争の軸はハードからソフトへ
    2. 操作系の再定義:プジョーのHypersquare
    3. 中国勢の強みは「ソフトの更新速度」
    4. 業界関係者の視点:SDV時代の整備現場で起きていること
      1. ADASのエーミング(校正)が日常業務に
      2. OTA更新と整備記録の管理
      3. 診断情報へのアクセス
  6. 「出展しなかったメーカー」が語るもの
  7. 日本の読者が押さえておきたい3つの示唆
    1. 示唆1:「小さく安いEV」の主戦場化
    2. 示唆2:中国勢の戦い方は市場ごとに変わる
    3. 示唆3:整備・アフターサービスの価値が上がる
  8. まとめ:パリが映した「転換期」のリアル

パリモーターショー2026の基本情報と「復活」の意味

開催概要

まずは今回のショーの基本情報を押さえておきます。

  • 名称:モンディアル・ド・ロト 2026(第91回)
  • 会期:10月12日(月)はプレス向けの日で、一般公開は10月13日(火)から18日(日)まで automobile-propre
  • 会場:パリ・エキスポ・ポルト・ド・ヴェルサイユ
  • 規模:5つのホールを使い、屋内約7万㎡、屋外約1万5千㎡の展示スペースに、100を超える出展者と60社以上の自動車メーカーが集まります clubalfa
  • 主催:イベント会社のHopscotchとフランス自動車産業団体PFAが主催しています lesvoitures

128年の歴史を持つ「世界最古級」のショー

パリのショーは1898年に始まり、常に自動車産業の動向と時代を映してきたイベントです。シトロエン2CVのように、のちに歴史を変えるクルマがこの会場でデビューした例も少なくありません。 roole

「モーターショー離れ」からの回復

2010年代後半から、世界の大型モーターショーは苦しい時期が続きました。大手メーカーが相次いで出展を見送り、デジタル発表へ移行する流れが強まったためです。パリも例外ではありませんでした。

それでも前回の2024年には来場者数が50万8,007人となり、2022年の39万7,812人から27.7%増えています。今回はさらに出展が増えましたが、その増加分の多くを中国勢が担っている点が、今回のショーを読み解く大きな鍵になります。 journalauto


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潮流①:中国勢の怒涛の欧州攻勢——出展ブランドの3分の1が中国

数字で見る中国勢の存在感

出展ブランド数は前回の倍に

今回、最も話題になっているのが中国メーカーの出展規模です。中国の自動車ブランドは過去最多の20ブランドが参加し、約60の出展メーカーのおよそ3分の1を占めています。2024年の10ブランドから倍増しました。 technode

プレスカンファレンスの数を見ても差は縮まっています。欧米メーカーの記者発表が約21件に対し、中国メーカーも13件を予定しています。 autoevolution

欧州市場でのシェア拡大

出展の増加は、実際の販売の伸びに裏付けられています。

  • 2026年第2四半期、欧州市場における中国ブランドのシェアは10.7%で、前年同期の5.7%からほぼ倍増しました political
  • 西欧のプラグインハイブリッド(PHEV)市場では、中国ブランドのシェアが26%を超えました。2年前は2.2%でした political
  • 直近の9月単月では、中国ブランドの欧州・英国での販売台数が約9万8千台に達し、前年比111%増、合計シェアは12%となりました autoevolution

かつて日本メーカーが欧州で数十年かけて築いたシェアに、中国勢はわずか数年で並ぼうとしています。私が業界に入った頃の日本車の欧州進出を思い出すと、そのスピードには驚かされます。

関税の壁を「PHEV」で越える戦略

ここで押さえておきたいのが、EUの対中関税との関係です。EUが中国製EVに最大35%の相殺関税を課して以降、中国の自動車産業はハイブリッド車の投入に力を入れるようになりました。 carscoops

関税の対象は純粋な電気自動車(BEV)であり、PHEVやレンジエクステンダー(EREV)は対象外です。中国勢はこの制度上の隙間を、極めて合理的に突いています。上で紹介した「西欧PHEV市場のシェア26%超」という数字は、この戦略の成果です。

関税で市場を守ろうとしても、相手は商品構成を変えて入ってきます。今回のパリは、そうした通商政策の限界も示していると私は見ています。

主な中国ブランドの顔ぶれと狙い

BYD・デンツァ:中国勢の中心

BYDは今回も中国勢の中心的存在で、本体ブランドとプレミアムサブブランドのデンツァ(Denza)を揃えて出展しています。BYDは地元サッカークラブ、パリ・サンジェルマンの自動車パートナーでもあります。地元への浸透を意識したブランディングといえます。 eletric-vehiclesautoexpress

チェリー系:OMODA・JAECOO

チェリーは中国国外向けのOMODA・JAECOOブランドで、新型コンパクトクロスオーバー「OMODA 4」を欧州で初披露します。両ブランドは3年足らずで世界販売100万台を超えています。中国国内ブランドとは別の輸出専用ブランドを立てる手法は、欧州の消費者に「中国製」という先入観を持たれにくくする工夫でもあります。 autoevolutionautoevolution

リープモーター:欧州資本と組む中国メーカー

リープモーター(零跑汽車)はステランティスとの合弁を通じて欧州で販売しており、2年前の同じショーで欧州デビューしたブランドです。今回はVW ID.ポロやルノー5と競合するBセグメントEV「B03」と、レンジエクステンダー付きの旗艦SUV「D19」を出展しています。 eletric-vehiclesautoexpress

注目すべきは、ステランティスがホール4にアルファロメオ、シトロエン、DS、フィアット、ランチア、リープモーター、オペル、プジョーの8ブランドを1つのスタンドにまとめた点です。中国ブランドが欧州大手グループのスタンドに並ぶ光景は、「欧州対中国」という単純な対立では捉えられない現実を示しています。 autocentrum

ジーリー系:Zeekr・Lynk & Co

Zeekrはパリに初出展し、欧州向けの全ラインナップ(7X、001シューティングブレーク、X、新型7GT)を展示しています。Lynk & Coは同ブランド初のステーションワゴン「07 GT」をデビューさせます。ワゴンは欧州、とりわけ大陸側で根強い需要があるボディ形式です。現地の嗜好に合わせた商品を出していることがわかります。 tovimacarnewschina

新たに参入する顔ぶれ

Li Auto、Aito、Aion、212など、欧州の来場者にはまだなじみの薄いブランドも、パリを足がかりに欧州へ進出しようとしています。中でもファーウェイと協業するAitoは野心的で、欧州向けにプレミアムEV SUVを4車種披露し、現在1%未満の海外販売比率を3年以内に20%へ引き上げる目標を掲げています。 carscoopstechnode

長安汽車グループもDeepal、Nevo、Avatrの3ブランドを同時に出展しています。1つのグループが価格帯や性格の異なる複数ブランドで一気に攻めるのも、最近の中国勢の特徴です。 eletric-vehicles

業界関係者の視点:本当の勝負は「売った後」にある

ここで、長く業界にいる者として一つ指摘しておきたいことがあります。

クルマは売って終わりの商品ではありません。点検整備、部品供給、事故修理、保証対応、そして下取り時の残価まで含めて、初めて一つの商品として評価されます。

中国勢の展示車は、内装の質感もデジタル装備も、正直に言って欧州の同価格帯を上回るものが少なくありません。ただ、次のような点はショー会場では見えてきません。

  • 補修部品の供給体制:欧州域内に部品倉庫を持ち、何日で届けられるか
  • 整備網の密度:ディーラーや認定工場がどこまで広がっているか
  • 診断機やサービス情報の開示:独立系の整備工場がどこまで手を出せるか
  • 残価の安定性:値引き競争が中古車相場を崩していないか

日本車が欧州で信頼を得たのも、製品の品質だけでなく、この「売った後」を地道に積み上げたからでした。今回のショーは、フランス車やドイツ車のハッチバックを中国車の隣に並べて、本当に価値を提供しているのはどちらかを比べられる貴重な機会だと評されています。ただ、その比較の答えが本当に出るのは、数年後のアフターサービスの現場だと私は考えています。 clubalfa


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潮流②:欧州勢の反撃——ヘリテージを武器にした「ネオレトロ」電動化

中国勢の攻勢に対し、地元フランス勢をはじめとする欧州メーカーが前面に出したのが、自社の歴史的名車を電動化して蘇らせる「ネオレトロ」路線です。

シトロエン 2CV コンセプト:今回のショーの主役

発表内容の要点

今回最も注目を集めたのは、間違いなくシトロエンの新しい2CVです。

  • ボディサイズ:全長3.76m。オリジナルの2CVより短く、目標車重は約1,000kg carwow
  • 価格目標:約1万5,000ユーロからの価格で、2028年ごろの市販を予定 autoevolution
  • パワートレイン:純粋なEVです。ハイブリッドやレンジエクステンダーの設定はありません vision-mobility
  • プラットフォーム:ステランティスの低コストな専用EVアーキテクチャを採用する予定 vision-mobility
  • バッテリー:航続距離や容量は未公表で、シトロエンはより低コストなバッテリーと日常使いに見合った航続距離を約束しています。事前の報道では都市用途に向いたLFP(リン酸鉄リチウム)電池になると見られています autoevolutiongo-electra
  • 位置づけ:ë-C3より下のクラスに置かれます vision-mobility

細部に宿る「2CVらしさ」

デザインには初代へのオマージュがいくつも込められています。リアのブラックのテールゲートがバンパーまで伸びるのは初代2CVからの引用で、リアピラーの細いウインカーも往年の2CVを思わせます。 autoevolutionvision-mobility

初代2CVの開発時には「卵を積んで畑を走っても割れないこと」という有名な要求仕様がありました。新型でもこの逸話にちなんだ演出が用意されているのが、いかにもシトロエンらしいところです。

「1948年のパリ」との符合

初代2CVがパリのサロンで発表されたのは1948年でした。78年後に同じパリで電動の2CVが発表されたことに、歴史の巡り合わせを感じる業界人は私だけではないでしょう。 carwow

さらに事前の報道では、エントリーグレードでは急速DC充電をオプションにして価格を抑えること、商用の「フルゴネット」や、需要次第ではオフロード仕様も検討されていることが伝えられています。シトロエンのグザヴィエ・シャルドンCEOは、初代2CVの使命はモビリティの民主化であり、新型も同じ思想に立つと語っています。 whatcarwhatcar

ルノー:3台のコンセプトで「家族」「走り」「遊び」を表現

ルノーグループはホール6の4つのスタンドに約5,000㎡を確保し、50台を展示、うち6台が一般初公開です。コンセプトカーは3台です。 mondial

E-Space コンセプト

全長約4.7mのE-Spaceは、ルノーの新しいファミリーカー設計の考え方を示すコンセプトで、1984年に登場した初代エスパスへのオマージュが込められています。名前の「E」はルノーの電動化技術「E-Tech」を指しています。 motoringresearchautocarindia

SUVに押されて消えたミニバンを、電動化を機に再定義しようとする試みです。EVは床下にバッテリーを敷き詰めるため、フラットな床と広い室内を作りやすくなります。ワンボックスの空間効率とEVの構造は、実は相性が良いのです。

8 ゴルディーニ コンセプト・4 JP4x4 コンセプト

8 ゴルディーニ コンセプトは、往年のルノー8ゴルディーニを2人乗りの100%電動クーペとして再解釈したもので、競技車のようなプロポーションを持っています。ルノーは市販化の予定はないとしていますが、ブランドの「走りの血統」を若い世代に伝える役割を担っています。これに遊び心のある4 JP4x4が加わり、3台でルノーの歴史の幅を見せる構成です。 movilidadelectricaelectrifying

プジョー:未来志向のコンセプトと実用車の両立

プジョーは「Hypersquare」と「Polygon」というコンセプトに加え、市販モデルの新型e-208 GTIを展示しています。往年の205 GTIを知る世代としては、「GTI」の名が電動ホットハッチに受け継がれたことに感慨を覚えます。 autoexpress

イタリア・ドイツ勢の動き

  • アルファロメオ:走りの感覚を重視したプロトタイプ「Cuorerosso(クオーレロッソ)」を披露。60周年を迎える名車スパイダー・デュエットも、アレーゼの博物館から運ばれて展示されています autofacilautocentrum
  • オペル:将来の乗用車デザインを予告するワゴンのコンセプト「STX Concept」を発表 autofacil
  • その他の初公開:アウディA2 e-tron、シュコダPeaq、ダチア・ストライカー、フィアット・グリズリーの市販モデルなどがデビューしています carscoops

アウディの「A2」も、かつての先進的なアルミボディの小型車の名を受け継ぐものです。ネオレトロはフランス勢に限った話ではないことがわかります。

業界関係者の視点:ネオレトロは「懐古趣味」ではなく「価格戦略」

ネオレトロを単なる懐かしさ狙いのデザイン遊びと見ると、本質を見誤ります。私は次の3つの理由から、これは欧州勢の合理的な生存戦略だと考えています。

理由1:ブランドの物語は中国勢が持っていないもの

中国勢は装備やコストでは強力です。しかし、親子3代で乗り継いだ思い出や、映画や街角の風景に溶け込んだ記憶といった「物語」は、お金で短期間に買えるものではありません。欧州勢が自社の歴史を前面に出すのは、真似されにくい資産で戦うという判断です。

理由2:小型・軽量化はコスト競争への直接の答え

2CVの目標車重約1,000kgという数字は重要です。欧州のEV市場は、大型バッテリーを積む重く大きなSUVへと流れ、価格も上がってきました。2CVコンセプトはその反対側に立ち、小さく軽い車体と小容量バッテリーで多くの人に手の届く価格を目指しています。 karmactive

EVでは、車重が増えるほど必要なバッテリー容量が増え、価格が上がります。そして価格を抑えるためにまた軽くする。この好循環に入れるかどうかが、小型EVの成否を分けます。

理由3:整備性・タイヤ・ブレーキへの影響

整備の現場から付け加えると、車重はランニングコストにも直結します。重いEVはタイヤの摩耗が早く、サスペンションのブッシュやベアリングへの負担も大きくなります。一方で回生ブレーキが効くぶん、ブレーキパッドの減りはガソリン車より少なくなる傾向があり、逆にディスクの錆や固着に注意が必要です。軽量な小型EVは、こうした維持費の面でもユーザーにやさしい選択肢になります。


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潮流③:「EV一辺倒」から「マルチパワートレイン」の現実路線へ

EUの2035年規制見直しという大前提

今回のショーを理解するには、EUの政策転換を押さえておく必要があります。2023年に決まった「2035年以降の新車はCO2排出ゼロ」という方針は、2025年12月に欧州委員会が見直し案を示し、大きく修正される方向になりました。

見直し案の骨子

  • 2035年以降もエンジン車の新規登録を認める方向で、100%削減目標は放棄される vision-mobility
  • 2035年以降も、プラグインハイブリッド、レンジエクステンダー、マイルドハイブリッド、エンジン車が、EVや水素車とともに役割を果たすとされた carmagazine
  • この変更はEU加盟国政府と欧州議会の承認が必要 thestandard

なお、これは欧州委員会の提案であり、本稿執筆時点で最終的な法制化の扱いは流動的です。各社の受け止めも分かれており、ボルボは2035年の目標維持を主張した一方、フォルクスワーゲンは提案を現実的と評価し、ルノーは特に小型EV支援策を歓迎しました。 motor1

「E-Car」——欧州版の小型EVカテゴリー

政策面で今回のショーに直結するのが、小型EVの新カテゴリーです。「Small Affordable Cars」構想では、全長4.2m以下の新たな車両区分「M1E」を設け、欧州でのEV開発・生産を促すとしています。こうした小型車を生産するメーカーは「スーパークレジット」によってCO2目標の達成で有利になる仕組みです。 motor1carmagazine

全長3.76mのシトロエン2CVが、まさにこの枠組みを見据えた商品であることは明らかでしょう。日本の軽自動車制度のように、制度が商品のサイズを決める時代が欧州でも始まろうとしています。

PHEV・レンジエクステンダーの台頭

会場では、純EVだけでなく、エンジンを積んだ電動車の存在感も目立ちます。

  • リープモーター D19:エンジンは発電専用として働き、走行中にバッテリーを充電するレンジエクステンダー方式です autofacil
  • XPeng G9L:EV版に加え、デュアルモーターAWDを標準とするEREV版も用意されています carnewschina
  • ルノーグループ:事前の発表で展示車をEVとハイブリッドでほぼ半々にするとしていました completecar

BEVを主役にしつつ、ハイブリッドやEREVで間口を広げる。これが2026年時点での欧州の現実的な答えになりつつあります。

業界関係者の視点:整備現場から見た「マルチパワートレイン時代」

パワートレインの多様化は、ユーザーには選択肢の広がりですが、整備の現場には大きな負担になります。

EREVは「EVだからメンテナンスフリー」ではない

レンジエクステンダー車は走りの感覚がEVに近いため、ユーザーが「EVだからオイル交換は要らない」と誤解しやすい車種です。実際には発電用エンジンがあるため、エンジンオイル、冷却水、エアクリーナー、スパークプラグといった内燃機関の点検項目が残ります。

しかも、発電用エンジンは短時間の始動と停止を繰り返すことがあり、エンジンが十分に温まらないまま止まる運転条件になりやすい面があります。こうした使われ方では、オイルの劣化や水分混入に注意が必要です。走行距離だけでなく、期間でオイルを管理するという考え方が大切になります。

高電圧系と内燃機関系の両方の知識が必要に

PHEVやEREVの整備には、高電圧システムを安全に扱う知識と、従来のエンジン整備の知識の両方が求められます。高電圧の遮断手順、絶縁手袋などの保護具、作業前の電圧確認といった安全管理は、慣れたベテランほど手順を省略しないことが重要です。

工場設備と人材への投資

整備工場から見ると、BEV、PHEV、EREV、マイルドハイブリッド、従来型エンジン車がすべて入庫する時代になります。診断機、充電設備、高電圧作業の区画、そして人材教育。すべてに投資が必要です。マルチパワートレイン戦略は、メーカーだけでなく販売・整備網の体力も試す戦略だと私は見ています。


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潮流④:SDV(ソフトウェア定義車両)と知能化の加速

競争の軸はハードからソフトへ

今回のショーでは、馬力や乗り心地の話以上に、車載ソフトウェア、運転支援、AIの話題が目立ちました。

主催者自身もこの流れを打ち出しています。今回併催されたスタートアップコンテストは、「AI・自動運転」「インダストリー5.0・ロボティクス」「脱炭素・インパクト」「モビリティ・サービス」の4部門で革新的な技術を表彰するものです。受賞者は10月13日の授賞式でメインステージに立つ予定です。モーターショーが自動車メーカーだけの場ではなく、ソフトウェアやサービスの企業が集う場へ変わりつつあることを示しています。 mondialmondial

また、地元フランスの公共放送も、一般公開初日の特集でテスラの監視付き運転支援システム「FSD」を取り上げるとしています。高度な運転支援が、一般の来場者にとっても関心事になっていることがわかります。 francetvpro

操作系の再定義:プジョーのHypersquare

プジョーのHypersquareは、ステアリングと前輪を機械的につながず電気信号で制御する「ステア・バイ・ワイヤ」を前提にした、四角い操作系のコンセプトです。プジョーは今回、Hypersquareシステムのさらなる進化を予告していました。 autocentrum

機械的なつながりをなくすと、操作系のレイアウトの自由度が上がるだけでなく、自動運転時にステアリングを格納するといった使い方も可能になります。一方で、電気系統の故障に備えた冗長設計が欠かせません。ブレーキ・バイ・ワイヤと同様、二重三重のフェイルセーフが求められる領域です。

中国勢の強みは「ソフトの更新速度」

中国メーカーの強みは、ハードウェアのコストに加えて、車載ソフトウェアの開発と更新のスピードにあります。大型ディスプレイ、音声アシスタント、スマートフォンとの連携、OTA(無線によるソフトウェア更新)での機能追加。これらを短いサイクルで回す開発体制は、従来の欧州・日本メーカーの開発の進め方とは大きく異なります。

業界関係者の視点:SDV時代の整備現場で起きていること

SDVは購入後もソフトウェア更新で進化するクルマです。夢のある話ですが、整備の現場では新しい課題が生まれています。

ADASのエーミング(校正)が日常業務に

フロントガラスの交換、バンパーの脱着、ホイールアライメントの調整。こうした従来の作業のたびに、カメラやレーダーの校正(エーミング)が必要になる車種が増えています。校正を怠ると、自動ブレーキや車線維持支援が正しく働かないおそれがあります。ターゲットボードを設置する広い作業スペースや、メーカーごとの専用機器も必要です。

OTA更新と整備記録の管理

OTAでソフトウェアが更新されると、入庫時点の車両の状態が、前回点検時と変わっている場合があります。不具合の診断では、どのバージョンのソフトウェアで症状が出ているかを確認することが、これまで以上に重要になります。

診断情報へのアクセス

欧州では、独立系の整備工場が修理情報や診断機能にアクセスできるよう、法的な枠組みが整えられてきました。ソフトウェアの比重が高まるほど、「誰がそのクルマを直せるのか」という問題は大きくなります。新興メーカーがこの点にどう対応していくかは、ユーザーにとって購入を判断する重要な材料になるはずです。


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「出展しなかったメーカー」が語るもの

モーターショーを見るときは、誰が来たかだけでなく、誰が来なかったかにも目を向ける必要があります。

ドイツの大手プレミアムメーカーの一部は、新型車を抱えながら出展を見送りました。新型3シリーズ、iX4、X5を用意しながら、パリへの出展を見送ったメーカーもあります。 carscoops

国際自動車工業連合会(OICA)のフランソワ・ルディエ事務局長は、一部の伝統的メーカーが参加を減らすなかで、中国ブランドの参入がモーターショーへの関心を呼び戻したと述べています。 technode

つまり、モーターショーの役割そのものが変わりつつあります。すでにブランドが確立したメーカーにとって、多額の費用をかけて出展する必然性は薄れています。一方、欧州で名前を知ってもらう必要がある新興勢にとって、50万人規模の来場者に直接実車を見せられる場は極めて価値が高いのです。出展者の顔ぶれの変化は、ブランドの成熟度の違いをそのまま映しているともいえます。


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日本の読者が押さえておきたい3つの示唆

最後に、今回のパリから日本の自動車ファンや業界が受け取るべきメッセージを整理します。

示唆1:「小さく安いEV」の主戦場化

欧州がM1Eという小型EVの区分を検討し、2CVのような1万5,000ユーロ級のEVが登場しようとしています。日本には軽自動車という、世界でも珍しい小型車の制度と、それを作り込む技術の蓄積があります。小型・軽量・低価格という領域は、本来、日本の得意分野です。欧州の動きは、日本にとって脅威であると同時に、大きなチャンスでもあります。

示唆2:中国勢の戦い方は市場ごとに変わる

欧州では関税を避けてPHEVを増やし、輸出専用ブランドを立て、現地の嗜好に合わせてワゴンを投入する。中国勢は市場ごとの規制と好みに合わせて、驚くほど柔軟に商品を組み替えています。日本市場でも、今後同じような柔軟さで攻めてくると考えておくべきでしょう。

示唆3:整備・アフターサービスの価値が上がる

パワートレインの多様化、ソフトウェア化、ADASの普及。どれも整備の現場に高度な知識と設備を求めます。「新車を作る力」だけでなく、「長く安全に乗り続けられるよう支える力」が、これからの自動車産業で一層重要になります。この点は、長年築いてきた日本のサービス網の強みが活きる領域でもあります。


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まとめ:パリが映した「転換期」のリアル

パリモーターショー2026から読み取れる世界の潮流を、改めて整理します。

  1. 中国勢の欧州攻勢:出展ブランドの3分の1を占め、関税の壁をPHEVで越えて市場シェアを急拡大
  2. 欧州勢のネオレトロ戦略:2CVやE-Spaceなど、自社の歴史を武器に小型・低価格のEVで対抗
  3. マルチパワートレインへの現実路線:EUの2035年規制見直しを背景に、EVに加えてPHEV・EREVが存在感を増す
  4. SDVと知能化:競争の軸がソフトウェアへ移り、操作系や運転支援のあり方まで変わり始めた

46年この業界にいて実感するのは、技術の変化そのものよりも、「何が競争力になるのか」というルールが変わる瞬間こそが大きな転換期だということです。かつてはエンジンの性能が、次に品質と信頼性が、そして今はコスト、ソフトウェア、そしてブランドの物語が問われています。

1948年にこの会場で生まれた2CVは、戦後のフランスに「誰もが乗れるクルマ」をもたらしました。78年後の今、同じ名前のクルマが、中国勢との競争の中で同じ使命を背負って登場したことは、自動車の原点がどこにあるのかを改めて問いかけているように思えます。

ショーは10月18日まで続きます。会期中に新たな発表があれば、また業界関係者の視点からお伝えしたいと思います。

Sources: